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≪中村新道と長塀尾根を歩く≫

大滝山(2615m)・蝶ケ岳(2664m)・長塀山(2565m)

 
長野県 2011.07.23・24 単独 マイカー・バス 地図 上高地
    穂高岳
障子沢 三等三角点
古 池  三等三角点
大滝山 三等三角点
蝶ケ岳 三等三角点
長塀山 三等三角点
1日目 上高地バスターミナル(8.45)−−−明神(6.25-6.30)−−−徳本峠への分岐(6.35)−−−林道終点(6.55)−−−沢渡渉・ベンチ(7.35-7.40)−−徳本峠(8.10-8.20)−−−2247m三角点(8.50)−−−明神見晴し(9.20)−−−展望櫓(10.20-10.30)−−−大滝山南峰(12.4512.55)−−−大滝山荘(13.00)・・・・泊
北峰でスケッチしたりして時間をつぶす
2日目 大滝山荘(5.15)−−−蝶ケ岳ヒュッテ(6.20)−−−蝶ケ岳三角点(6.45-6.55)−−−展望・スケッチで約1時間−−−蝶ケ岳ヒュッテ(8.25)−−−長塀山(9.00)−−−徳沢(1045)−−−明神(11.20-11.30)上高地バスターミナル(12..10)

地図を眺めながら『さて、どこへ登ろうかなあ・・・考える。
昭文社刊上高地 槍 穂高”の地図を広げる。一般登山道はあらかた歩いた感じだが、それでもまだ知らない道がいくつか目に止まる。徳本峠〜大滝山の『中村新道』、それに蝶ケ岳〜徳沢の『長塀尾根』もその一つ。今回はこの二つのコースを歩いてみることにした。

≪1
日目

夏山最盛期に入った土日、混まないうちにと早めの行動で上高地へ。河童橋あたりの人影もまだ薄い。穂高の釣り尾根もガスに閉ざされている。
熊避け鈴を忘れてきたのに気づき、明神の売店で購入する。明神の先数分で徳本峠への道へ右折、しばらくはダートの車道歩き
19年前(55才)、上高地--徳本峠--霞沢岳--徳本峠--岩魚止小屋--島々宿のコースを、1日で歩いたことがある。昭文社ガイド地図では16時間20分、これを12時間余で歩いたとき、それ以来の徳本峠への道だ。

車道が山道に変わり、やがて沢を渡渉、ベンチもあるし天気が良ければ明神岳の展望も得られる休憩ポイント。一服してから10分ほど歩くと小沢の流れの最期の水場50歳台の単独行者に抜かれる。以前は誰かに抜かれることなどほとんどなかったのに、最近は追い越される場面が多くなった。

好天なら、徳本峠の展望はこのように・・・

霞沢岳分岐を見送るとすぐに徳本峠、傾いていた山小屋は昔の風情を残して、その裏側に増築するかっこうで新館が建て増しされていた。
残念ながら明神岳が雲の隙間から見えるのみ、穂高は完全に雲の中。その昔、島々から古典ルートを一日がかりで登って、この峠に着いてのぞんだ穂高の展望に感動した人々の思いを想像するのみ。

小屋前のベンチで一服してから中村新道へ入る。コースはシラビソなどの原生林、歩いても歩いても風景は変わらない。最初の三等三角点(点名は障子沢)まではかなり遠く感じた。気づかずに通り過ぎてしまったのではないかとさえ思ったが、三角点標石は周りの笹が刈りはらわれて見落としようもない登山道の脇にあった。


次のポイント“明神見晴し”、これも頭の中にイメージしていたよりずっと遠く感じた。どこまでも同じ原生林の風景が続くためかもしれない。ここから見える本来の明神岳はどんな姿だろうか、今は雲がからみついて藍色の山肌が多少見えるだけ。足を止めずに次のポイント大滝槍見台へ。

中村新道の針葉樹林帯

以前は必ずしも一般向きとは言えなかったらしいこのルートも、今は迷うような箇所は一つもなく、よく整備され初心者でも問題なく歩ける。ぬかるんだところがかなりあるが靴が汚れるくらいはどうということはない。

行程には大きなアップダウンはないものの、小さなものは何回か繰り返してボディブローのように疲労を蓄積させる。大滝槍見台までも遠く感じた。丸太で組みあげた展望台に上がってみたが、明神岳らしい藍色の山影が流れる雲の隙間からわずかに望めるのみ、一瞬雲の隙間から穂高連峰の一部が覗けたが、槍ケ岳は望むべくもなかった。徳本峠から槍見台まで2時間、地図を見ると大滝山荘までの3分の一強という感じだ。あと4時間?これでは時間がかかりすぎている。(この天気では山のスケッチも無理、山小屋に早く着き早すぎると時間をもて余す思って、いつもよりペースを落として歩いていることも理由)槍見台には三等三角点(点名は古池)があったはずだが、うっかりして確認を忘れてしまった。


中村新道はいくかのアップダウンはあっても、平坦な歩きやすい部分も多い。
途中数名のスローペースグループを抜き、さらに4人パティーを抜く。

蝶ケ岳ヒュッテ手前から常念、大天井方面をのぞむ

槍見台からの下りが、中村新道の中でいちばん大きい。100メートル余り下ってから登り返すと、しばらくはルンルン気分の平坦部がつづく。稜線の凹凸を避けてるようにしてトラバースしているのがありがたい。
突然明るい稜線へ飛び出す。目の前に広がったのはみごとなお花畑、オーッ!思わず声が出そうだ。主役は白花のコパイケイソウ。その中に黄色のニッコウキスゲや赤紫のテガタチドリ、艶々とした黄色はミヤマキンポウゲ。足元にはコイワカガミやアオノツガザクラなど、シナノキンバイも見える。胸を突くような急登の細道を、足を踏み外して右手急斜面に落ちないよう気を配りつつ花々を楽しみカメラに納めていると、快足の男性が後ろから近づき道を譲る。
道はハイツマに覆われた緩斜面となり、19年ぶりの三等三角点大滝山南峰に立つ。
お花畑の急登で私が道を譲った早足の男性は、たった「ありがとうございます」という一言に、めったに感じないような気持良さと心に響くものがあった。
夜の山頂は松本平の夜景が美しいと聞くが、四囲雲に囲まれて展望は皆無、山頂の写真を撮ったりしてから大滝山荘へ。


土曜日の今晩は、蝶ケ岳ヒュッテの混雑は想像がつく。ここを今晩の泊まりとする。
北峰へ行って、ときおり雲の晴れ間から見え隠れする穂高連峰などをスケッチして時間をつぶす。

大滝山山頂(南峰)

お花畑で私を追い越していった男性は、大滝山荘に主な荷物を残して蝶ケ岳ピストンへ向かって出て行った。彼が帰ってきてから、長々と山の話に興じ、時間をもあます必要もなかった。山で多くの登山者と接する機会はあったが、このように共鳴を意識する相手は極めて数が少ない。良い出会いであった。

彼の健脚は半端ではなく、多少は健脚を自負する私が共鳴するのも自分で頷ける。
東京から飯田市まで来て、そこから徒歩で大平宿--自然園--安平路山(泊)--奥念丈--越百山--飯島町へ下山というルートを、単独で歩き、そのまま列車で帰京。このルートを歩いた人ならその健脚ぶりに察しがつくと思う。




≪2
日目



515分、大滝山荘を出発。外はガス、ただ風がざわざわと梢を揺らして足早に動いているのが天気回復への望みを抱かせる。

蝶ケ岳山頂付近からの展望  左・槍ケ岳    右・穂高連峰


蝶ケ岳へはいったん下ってから登り返すことになるが、それほど大きなものではない。最初の小さなコブを越えると感動的に目に飛び込んできたのはコバイケイソウの大群落、8年前に歩いたときと同じだ。コルの小湿原も花が満ち溢れている。蝶ケ岳ヒュッテが近づくと青空がどんどん広がっていく。
ヒュッテ手前の高みに立つと穂高連峰、槍ケ岳、常念山脈が視界いっぱいに飛び込んできた。まさに穂高の展望台だ。


とりあえず蝶ケ岳山頂へ向かう。何回目の蝶ケ岳だろうか。
多くのハイカーの行き来する山稜を、穂高・槍や常念を目にしながら三角点のある山頂へ向かう。楚々としたイワツメクサは白い星屑のよう、イワギキョウの青紫は朝露の滴の玉がキラキラと輝く。
しばし山岳景観に見とれ、ヒュッテへ戻る道すがら、足を止めてはスケッチの時を楽しんだ。


長塀山

長塀尾根に入る。最初はなだらかな下り、池塘が何か所か点在、そこにはミヤマキンポウゲなどお花畑を作っている。
標高差で100メートルほど下ると三等三角点の長塀山、立派な標識も立っている。
本格的な下りはこれから、長い長い下りをひたすら下り続ける。きつい下りは最終部分、落ち込むように下って行く。登っていく登山者にもたくさん出会うが、荒い息遣いが聞こえてくる。
ひと月ほど前に痛めた腰に多少こたえる気がしてペースを抑えたが、ヒュッテから2時間20分、まずまずの時間で徳沢まで下った。


上高地への遊歩道は、日曜日とあって観光客であふれていた。