この山行の目的は、まだ歩いたことのない遠見尾根であった。

右端が五竜岳ピーク		男性的な五竜岳（唐松岳より）

≪１日目　くもり≫

ゴンドラに乗って山麓から一気に標高差７００メートルを上がってしまう。さらにリフトを１本乗り継いだところが地蔵の頭直下、スキーをやりに来たこともあるが、白一色の冬とは様子がまるっきり違う。カラウトソウなどとりどりの花に飾られている。

２０人前後の登山者が順次遠見尾根へとスタートしていく。

五竜岳山荘までの高低差は１０００メートル弱、１２時過ぎには五竜岳山荘に着いてしまうだろう。急ぐことはない。ほどよい勾配の道を地蔵の頭から小遠見山へと向かう。

ミヤマアキノキリンソウ、タテヤマアザミ、オヤマリンドウなどの花々、赤い実をつけたムシカリ、イワハゼ、コゼンタチバナ、シラタマノキが秋の気配を感じさせる。

小遠見山	クジャクチョウ

小遠見山まではちょっとしたピクニックコース、この先から道はいくらか登山ルートらしくなってきたものの、勾配を感じさせない楽な登りがつづく。

天候は曇り、展望もなく唯一秋の花やダケカンバノの樹林に癒されながら足を運ぶ。

ヤマハハコの花に美しい蝶が１匹（頭）、高山蝶の一種だろうか？そう思って写真を撮ってきたが、調べてみるとクジャクチョウと言って、高原に生息しているようだ。

中遠見山、大遠見山のピークはどことも知らずに通過してしまったが、やがて小さなコルに『西遠見』の標柱、そして残雪の名残のような池がある。この先の高みが西遠見山だろう。

ようやく本格的な登山ルートらしい急登となる。これまでの楽々気分を拭い去り、汗を滴らせる登りがしばらく続く。これを登りきれば白岳、その直下が五竜岳山荘だ。

急登の時間はそう長くはない。標柱も何もない白岳山頂を経由して、少し下っていけば五竜岳とのコルに山小屋がある。

宿泊の手続きだけ済ませてから五竜岳へ。

五竜岳へ向かって少し進むと、ハイマツの斜面に２羽のライチョウが着地、久しぶりに目にしたライチョウだ。

やがて登山道は岩登り同然となってくる。ペンキ印を正確に追っていく。２３年前（扇沢ー鹿島槍ー五竜―唐松―八方尾根）、このような険しい岩稜だったという記憶はない。若さと怖いもの知らず、苦もなく歩いていたのだろう。

その２３年前はこれ以上望めないという快晴に恵まれ３６０度の展望を満喫したが、今回は厚い雲の中、残念ながら自分の周囲以外は何も見えない。山頂のスケッチをしたりしてから山荘へと戻った。

≪２日目　いっときの晴れ間　のちくもり≫

足元がいくらか見えるようになるのを待って山荘を出発。風がやや強くガスが足早に流れていく。失望感を抱きながら唐松岳へと向かう。

雲に隙間ができ、剣岳方面が見えるようになってきた。希望が膨らむ。

山荘からコルまで２００メートル程度の下りだが、気分的にはその倍も下った気がする。登り返しのことばかり気にしながらこのコルまで下った。これから険しい岩稜を越えながらの登りがつづく。２３年前は五竜岳山荘から唐松山荘へ１時間２５分で歩いているが、今日はどうだろうか。ちなみにガイドマップでは２時間３０分のコースだ。

油断の許されない岩場を慎重に一つ一つ越えていく。いつの間にか上空は目の覚めるような紺青に変わっていた。ヤッター、快哉を叫びたい。

大黒岳付近からの剣岳

ときには鎖に頼り、峨々累々たる岩稜のピーク大黒岳までくれば唐松山荘はもう近い。背後にある五竜岳、そして剣も立山、あるいは前方の唐松岳などを何回もカメラにおさめて、無事唐松山荘へ到着した。所要時間は１時間４５分だった。格別急いだわけでもなく、この時間ならまずまずだろう。

唐松岳山頂に立ち寄る。この８月は３回も登ったことになる。

あらためて五竜岳をしっかりと目に焼き付ける。その体躯はじつに堂々としていて、他を圧し、まさに男性的で筋骨たくましい姿に見とれてしまう。その右肩はるかに針ノ木岳、水晶岳など一群の嶺々と槍、穂高岳などの聳立が確認できる。目を転ずれば北に不帰ノ険、そして遠く雲海に浮かぶのは戸隠、高妻山のほか妙高など頚城の山巓。

白馬三山（左から鑓、杓子、白馬）・・・八方尾根より

期待の叶った展望に満足して唐松山荘裏手の牛首を経由、八方尾根の下りに入る。

つい２週間前、８月半ばの賑わいはすでになく、行きかう登山者も少ない。秋の花々を愛でながら八方池山荘へ下山、ここからリフトで下ってもいいが、リフト１本分を歩くことにして、次の黒菱平からリフト、ゴンドラと乗り継いでの下山とした。