扇沢―爺ケ岳―鹿島槍―五竜岳―唐松岳―八方尾根 
登頂日1988.9.17〜18  (単独)

 爺ケ岳(2669m)・布引岳(2683m)・鹿島槍ヶ岳(2890m)・五竜岳(2814m)・白岳(2541m)・大黒岳(2400m)・唐松岳(2696m)〜八方山(2005m)
(9/17日)扇沢(6.15)−−種池山荘(8.45)−−爺ケ岳(9.30)−−冷池山荘(10.25-45)−−鹿島槍(12.10-35)−−北峰(13.00)
     −−キレット小屋(13.45)

(9/18日)キレット小屋(4.45)−−五竜岳(6.45-7.15)−−五竜岳山荘(7.35)−−大黒岳(8.15)−−唐松山荘(9.00)
     −−唐松岳−−唐松山荘(9.25)−−八方尾根−−第一ケルン(10.50)===リフト・ロープウエイで下山

新宿発23時、夜行バス「さわやか信州号」で扇沢へ。

【第一日目  雨が降ったりやんだり】

筋骨たくましい五竜岳

バスを降り立った早朝、扇沢は雨にけむっていた。アルペンルートで室堂方面へ向かう登山者が、トロリーバス始発を待ってたむろす扇沢を後に、しっかりと雨支度を整え、柏原新道を種池山荘経由で爺ケ岳への登りにとりつく。

雨、重たく湿った空気、ひっそりとした山道を一人足元だけを見つめて黙々と登っていく。もうひとつ気分が乗り切らない。休憩している青年に追いつく。今日は冷地小屋泊りとのこと、私にも無理をしないでそうしたらといってくれた。若くもないこの歳で、キレット小屋までは無理だと思う親切心だろう。

意外に早く森林限界を越えると、ぱっと明るい草原が広がり、その先に三角屋根が目に入ってきた。稜線に建つ種地山荘だ。1000メートルを越す標高差を登ってきたのだから、かなりの急登もあったはずだが、そんな感じもなく来てしまった。ガイドブックの時間より1時間も早い。今日も調子はよさそうだ。稜線に出てからも案じた風はほとんど感じない。雨は降ったりやんだり程度、この状態ならキレット小屋まで行くのは十分可能だ。

種池山荘でひと休みしてから広々とした稜線を、本日ひとつ目のピーク爺ケ岳へ。天気がよければ前方に爺ケ岳、後方に針の木、蓮華、それに剣、立山等の眺望が楽しめるはずだが残念。

2500メートルの稜線は秋の気配も濃く、鮮やかな草もみじに変わっている。ミヤマリンドウ、トオヤクリンドウ、咲き残ったウサギギク、イワツメクサなどが目にとまる。コケモモの赤い実も雨に濡れている。紅葉したミヤマキンバイがハイマツとコントラストをなし、山腹を染めていた。

 爺ケ岳山頂も霧の中だった。記念写真を撮って先を急ぐ。 冷乗越への下りで雷鳥に出あう。こんな霧の日は雷鳥に会うチャンスが大きいという。この後も何回も雷鳥に会うことができた。

冷池小屋で牛乳を買い、パンで腹ごしらえをしてからいよいよ鹿島槍ヶ岳への登りにかかる。ペースを保って、できるだけ休まないように高度をつめていく。

 鹿島槍ケ岳山頂

岩屑とハイマツの道。森林限界を越えたこの景観は高山の雰囲気に満ち、胸のときめきを感じる。布引岳でしばし立ち休みのあと、しばらくはトラバース気味のなだらかな道を行く。上空が明るくなって雲の隙間からは青空、鹿島槍南峰がのぞく。勇躍ガレの急坂を喘ぎ攀じる。だがそれも束の間、再びガスが視界を覆ってしまった。項上(南峰)には二人の登山者が登頂を喜びあっていた。キレット方面から更に一人、二人と到着する。私の登ってきたのは逆コースで、五竜岳方面からが一般コースとのことだ。

雲の切れることを期待してしばらく待ったが望めそうもない。それに寒い。双耳峰のもう一方の北峰に向かう。一旦吊り尾根を下って分岐にザックをデポ、北峰を往復してからキレット小屋に向かう。ここまでのおおらかな稜線とは対称的に、岩稜のコースに変わった。また雷鳥に会う。親子四羽、一羽が全く警戒心も見せずに、私の2メートルほど先をまるで案内でもするかのように歩いていく。後ろの方で親鳥が「もどりなさい」と鳴いていた。かなりの間同行してくれた雷鳥は、道が一気に落ち込んでいる岩場で、「さあこれから先、気をつけてどうぞ」というように、一旦私の方を見てから右上の斜面に上がって道を譲ると、ハイマツの間を親鳥の方へ戻っていった。

雨で滑りやすい岩場を、鎖で確保しながら慎重に下る。険岨、急峻な下降は、八峰キレットでクライマックスとなる。崩れ落ちてきそうな岩壁、底深く切れ込んだ谷、しかし、しっかりとした鎖や梯子をたどって問題なく通過すると、そのすぐ先、猫の額ほどの鞍部にキレット小屋が建っていた。昨年建てかえたばかりという奇麗な小屋で、玄関も窓もアルミサッシュ、しかも二重窓になっている。玄関を入るとまるで旅館のような造りだ。桧の太い柱、明るい食堂、桧造りの椅子、テーブル。山小屋のイメージとは全く違う。ランプの山小屋も悪くはないが、やはりこのほうが居心地はいい。

100人収容というが泊まったのは9人だけだった。あと10日程で小屋閉め、そのころにはもう初雪がきて、山は冬へと移っていくのだそうだ。

夕食がすんで夜の帳が下りようとするとき、黒部方面の雲が地平線にひと筋切れて、夕日が上空をオレンジに染め、剣岳、毛勝山が黒いシルエットを描いている。はるかな山塊は白山か、右手微かに連なりは能登半島だろうか。明日への明るい希望をつないで、布団に潜り込んだ。

【第二日目  快晴】

五竜岳山頂

4時半起床、未明の空には満天の星。
445分出発。しばらくは懐中電灯の明かりを頼りに、コースを示すペンキ印に導かれて岩稜帯を行く。剣岳、立山、五竜岳等の山影がはっきりと浮かび上がっている。雲のかけらひとつない・・・素晴らしい朝。

信州側は見渡す限りの雲海が広がっている。その雲海から金色に輝く太陽があがる。一方黒部方面は遮るものひとつなく、他を圧して聳立する剣岳の岩峰がひと際目を奪う。黒部川の支流東谷の源流が一筋白く眼下に光っている。

景観に見取れ、険岨な岩稜に神経を集中して歩いていると、あとでコースを反すうしようとしても記憶が断片的に途切れてしまう。また足元ばかりに気を取られているとき、あるいは急登に喘いで余裕のなくなっているときなど、おやっと思って目を配ると、いつの間にかコースをはずしていることがしばしばある。そなんときはたいがい楽なほう、歩きやすい方に自然に足が出てしまうようだ。特に岩場、ガレ場は踏み跡が不明瞭なことが多く気をつける必要がある。今回もキレット小屋から五竜岳までの縦走路で何回かそうした誤りを犯してしまった。常に先を見てペンキ印を確認していけば、むだな体力を省くことができるし、第一危険を避けることができる。登山初心者の私は、これからも十分気をつけなければいけないと反省。

小岩峰の連続するハードな縦走路がつづく。五竜岳が眼前にたちはだかっている。すぐに行き着けそうに見えながらなかなか到達しない。一歩登ると半歩ずり落ちるようなガラ場や急峻な岩の間を、鎖に助けられながらようやく立った五竜岳の頂上、登りの苦労を吹き飛ばすような大パノラマが待っていた。

目に飛び込むのは雲海に浮かぶ雨飾、焼山、火打、妙高、乙妻、高妻、戸隠連峰、浅間山・・・・・・。

唐松岳(左)と天狗の頭(右)

さらに、双耳の鹿島槍とそれに連なる針の木方面への後立山連峰、その先に槍、穂高、黒部五郎、薬師。そしてハイライトは立山、剣である。
抜けるような青空。しばし無上の喜びに浸った。


存分に大展望を満喫したあとは、五竜岳山荘から唐松岳へ。これが思いのほか長く感じた。
一旦下ってから唐松山荘への岩稜帯の登り返しはきつかった。唐松山荘へ荷物を置いて、唐松岳を往復する。白馬鑓、不帰の剣が目の前だ。これから下る八方尾根にはガスがかかってきた。しかし上空は秋の高い空が真っ青に広がっている。

予定時間を大幅に短縮して八方尾根の下りにかかることができた。走るようにぐんぐん高度を下げていくと、いつのまにか視界はガスに閉ぎされてしまった。八方池までくると、ここはもう観光客の領分、家族、団体ツアーの人々でにぎわっている。リフト終点から八方池までは1時間ほどで来ることができる。
一本目のリフトは歩いて下り、次はリフトで兎平へ。そこからゴンドラに乗って下山。バス「さわやか信州号」で帰京した。

初日は小雨にたたられたが初秋の山を満喫、そして体調も完璧で1日目、2日目とも、コースタイムを大幅に短縮する時間で歩くことができた。登山開始満1年を迎え、さらに山歩きへの自信が一つ加わったのを実感した

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