追想の山々 1013    up-date 2001.04.20


甲武信岳(2475m) 登頂日1988.6.18  単独
 (甲武信岳、雁坂嶺、東破風山、西破風山、十賊山)
西沢渓谷P(7.15)--雁坂峠入口(7.30)--雁坂峠(9.40)--雁坂嶺(10.10)--東破風山(10.40)--破風山(11.00)--甲武信岳(12.20)--木賊山--戸渡尾根--二つ瘤--ヌク沢(14.20)-- 西沢渓谷P(15.00)
             長大なコースを

甲武信岳は、1988年6月に西沢渓谷を基点に雁坂峠経由で、また1999年6月に川上村毛木平からと二回登っています。
この記録は初回西沢渓谷から登ったときのものです。


甲武信岳にて

甲武信小屋一泊の予定だったが、足は快調でコースタイム14時間ほどの行程を、日帰りで歩いてしまった。日帰りとしては、これまでの最長コースとなった。

7時過ぎ、西沢渓谷村営駐車場に自動車を止め、朝の大気を胸いっぱい深呼吸してから出発した。
梅雨のさなか、天気が気になるが、すぐに降りだす気配は感じない。登山口のすぐ先で、工事中につき迂回の標識を見落としてしまった。スタートからやりなおしだ。
今度は迂回して自動車道に出る。この車道は、雁坂峠までずっと通じているのかと思われるようないい道だったが、30分も歩くと山道に変わった。勾配は緩やかで歩きやすい。

コースは雁坂峠へ通じる古くからの道で、よく整備されている。雁坂峠は日本三大峠の一つと聞いた。(他の二つは針の木峠と三伏峠、あるいは針の木峠、清水峠ともいう) 

沢を渡るたび冷たい水で喉を潤す。ブナの木が目立つようになり、それがシラビソに変わ り、やがて笹原とコメツガになって高山の様相を呈してきた。
笹原の中の急登で一汗かくと稜線に出て、そこが雁坂峠であった。ここまでで標高差1200メートルほどを登ったことになる。甲武信岳へは残り500メートルの高度差、そう思った。
霧がまいて肌寒く視界もきかない。雨が案じられる。時計を見るとここまで2時間半、ガイドブックの半分以下の時間しかかかっていない。快調だ。この調子で行けば小屋泊りの必要はないかもしれな い。

破風山
雁坂峠をあとにして稜線のコースを雁坂嶺へと登って行く。天気がよければ展望快適な尾根歩きだろう。  
雁坂嶺から東破風山を越え、登り降りを繰り返し、汗を絞られて2317米の西破風山(破不山)の頂上に立った。山頂から目を先にやると、いっとき霧が切れて前方の山影が目に入ってきた。甲武信岳へはこのまま登って行くものと思っていたのに、意外にも目の前から大きく落ちこんでいる。谷を隔ててその向こうにそびえ立つのが木賊山、甲武信岳はさらにその奥。この谷を急下降してまた登リ返すのかと思うと、力が抜けていくようだった。せっかく稼いだ高度が何百メートルも帳消しとなってしまう。日帰でと思ったのは、少し虫が良過ぎたかもしれない。

とにかく岩塊の間を急降下しなくてはならない。シャクナゲの花が咲き乱れている。岩にシャクナゲの取り合わせもよく以合う。花に気を紛らせながらどんどん下る。もうこのあたりでと思うのにまだ下る。ようやく下りきったコルに避難小屋が建っていた。ここからの登り返しはきつかった。
木賊山と甲武信小屋の分岐で甲武信小屋への巻き道を行く。小屋へ着いて時計を見ると、まだかなり早い時間だった。
小屋泊まりはやめ、缶ビール一つ買って、すぐ上の頂上へ向かった。
今朝から人に会ったのは雁坂嶺付近で下って来た若者一人だけ。淋しいほど静かな行程だった。

甲武信岳山頂を一人じめにして満足感に浸る。曇り空ながらそこそこに見とおしは得られ、国師岳から秩父の連山、黒金山、三宝山等が見えた。この山頂は、甲州(山梨)武州(埼玉)信州(長野)境界、こに落 ちた雨は僅かの差で、甲州の笛吹川から富士川へ、武州の荒川から関東平野を流れて東京湾へ、また信州の千曲川から信濃川へと流れていく。  
イワカガミを愛でながら山頂で一人乾杯。

雁坂嶺
30分ほど休憩をとってから甲武信小屋まで戻り、今度は十賊山の頂上を踏む。ここで戸渡尾根にコースをとって下山することにする。
木の根がらみの歩きにくい急な道をハイペースでぐんぐん下って行く。シャクナゲの花が一面埋め尽くすように咲いていた。
ひたすら下りに下ってようやく傾斜が緩み、本日のゴールも間近となった。
要した時間は休憩込みで7時間45分、コースタイムの半分だった。

日帰りでなおかつこの時間でよく歩いたものと、自分で感心してしまいました。
雁坂峠から雁坂嶺、東破風山、西破風山、甲武信岳、十賊山といくつものピ ークを登り降りし、最後の戸渡尾根の急な下りも厳しかった。けっして楽ではありませんでしたが、たいした疲労感もなく快調に歩きとおすことができて、会心の山行でした。
千曲川源流から甲武信岳〜三宝山〜十文字峠ここちら