追想の山々1052  up-date 2001.06.28

笠ケ岳(2897m) 登頂日1989.07.14 曇りときどき晴れ 単独
東京自宅(1.45)−−−新穂高温泉(6.20)−−−笠新道登山口(7.00)−−−抜戸岳南尾根乗越(9.00-05)−−−笠・抜戸稜線(9.40)−−−笠ケ岳(10.25-10.45)−−−杓子平への分岐(11.35)−−−抜戸岳南尾根乗越(12.10)−−−笠新道登山口(13.40)−−−新穂高温泉(14.10)===東京自宅(20.20)
所要時間 7時間50分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
標高差1800mのハードコースを、東京から日帰り(52歳)
笠ケ岳頂上


先週の立山・剣岳につづいて今週は笠ケ岳へ出かけた。  
北アルプスの高峰群からやや間をおいて聳える笠ケ岳は、どこからもよく目立つ山だ。天気は土曜日一日しか持ちそうないため、東京から日帰り強行することにした。  

深夜車をとばし、高度差1800メートル、 コースタイム登り7時間半、下り5時間の日帰りはやや厳しいが、私の足なら問題はないだろう。  
新穂高温泉着6時15分。スピード登山に備えて荷物は軽 くする。 雨具・水筒(中身は蜂蜜レモン)・昼食のパン・長抽シャツ・セーター・カメラ・懐中電灯・ザックカバー・ 人工肛門用具・ウエストバック(地図、筆記具他)、靴はジョギングシューズ  

駐車場からつま先上がりの林道を速足でたどる。笠〜抜戸岳の稜線は雲の中、雨でなければいいが。笠新道へ入る。最初は樹林の緩い登りである。二つ目の小沢を渡ったところで、単独行の登山者を追いこす。このあたりから本格的な登りになってきた。地図でも等高線をほぼ直角に切るようにして直登している。
標高1500メートルあたりでニツコウキスゲが目立つようになる。ヒメサユリの花も見られる。登山道の大半は岩礫に拓いた道で、岩角に歩幅を合わせ、調子をとってぐんぐん高度を稼いで行く。見上げると切り立った岩壁が天を指し、険しい岩山であることを実感する。その昔笠ケ岳開山に取り組んだ播隆上人の苦労がしのばれる。

巨岩累々とした岩雪崩帯をトラバースしながら上を仰ぐと、傷口をさらした崩壊の現場が見えた。その鋭角的な急斜面から今にも巨岩がなだれ落ちて来そうな不気味さに、幅3〜40メートルの岩なだれの跡を急いで通過する。その先から樹相はシラビソなどの高山帯へと変わる。
抜戸岳南尾根乗越までは、まさに岩角を踏んでの急登に次ぐ急登、一本調子の胸を突く登りがつづく。北アルプス三大急登と言われる『合戦尾根・ぶな立尾根・岳沢重太郎新道』もさることながら、この『笠新道』もそれに劣らない厳しい登りであった。  

樹林を抜けてようやく眺望が開け、道が水平に右手にトラバースする辺りで初めて3分程の休憩をと.った。地図上の2000メートル地点と見当をつける。これで半分の900メートルを登ったわけだ。
再び岩角を選びながらの登攀がつづく。この急登にはジョギングシューズが実に快適だ。登山靴だったらとてもこんなペースでは登ることはできない。片足1キロ以上の靴と、200グラムのジョギングシューズとでは、その負担は問題にならない。
2000メートルを越すと高山植物も豊富になり、シナノキンバイ、ミヤマキンポウゲ、ハクサンイチゲ、とりどりの花が咲き乱れている。

背の低いシラビソ林を抜けると、今までとは違うパノラマが広がって目を見張る。長い長い急登をようやく終えて抜戸岳南尾根の乗越に着いた。意外に早かった。笠新道人り口からコースタ イム4時間半を2時間で登って来てしまった。高度差1200メ ートルの所要時間としては相当のものだ。限前に広がる景色は、杓子平の上を抜戸岳から笠ケ岳にかけ、屏風を立てたように険しい壁がぐるっと取り巻き、カールには雪田が点在している。稜線への障壁はいかにも急峻で、どこに登山道があるのか不安になるような険しさである。  

杓子平の平坦な道を通過して、いよいよ稜線への険しい登りに取付く。高度差300メートル弱。しかしこれがなかなかの難コースで、ペンキ印を頼りに行くが、がらがら崩れる岩塊の道は実にやっかいな道だ。ときには雪渓を渉り、また岩道となる。仰げば崩れ落ちそうな岩の斜面、そんな険しさと引き換えに、周囲のお花畑は実に見事だ。つい足を止めて見入ってしまう。慣れない人にはロープも必要と思える岩場も無事通過して稜線に登り着いた。  
標識の立つ稜線からは西に笠ケ岳への登山道がうかがえる。一方抜戸岳方面は弓折岳へと気持ちいい稜線を延ばしていた。  

雲が風に流れて小笠がわずかに姿を見せた。笠ケ岳山荘も確認できる。まだかなり先のように見えるが、ここまで来れば目指す笠ケ岳頂上はわけない。もう頂上に立ったも同然だという安堵感があった。
登山道沿いには、入れ替わり立ちかわり高山植物が健気な姿で咲き競っていた。アオノツガザクラ、チングルマ、キバナシャクナゲ、ミネズオウ、ミヤマキンポウゲ・・・・ 左手の斜面にはまだ豊富な雪渓が残り、その周囲にはハクサンイチゲ、シナノキンバイ等の花が今を盛りと咲いている。花の姿に見惚れながら、小さい起伏を三つほど越え、途中巨岩の門=抜戸岩を通り抜けて稜線を漫歩気分で行くと野営場に指定された平らに着いた。
ここから巨岩の折り重なる登りとなり、ペンキ印を目当てに岩を伝って行くと、笠ケ岳と小笠の鞍部、笠ケ岳山荘の裏手となる。
頂上にかけての斜面はすべて大小の岩屑で覆われていた。

どこがコースともわからないような石屑の斜面を頂上へ向けて10分余、霧の去来する中にいくつものケルンが立ち、半島のように突き出した先に三角点があった

霧であたりの様子はよくわからない。
寒い風を避けて簡単な食事をし、10分ほどの滞頂で山荘へと下った。従業員が手持ち無沙汰の様子でスト ーブにあたっていた。新穂高温泉からの所要時間を聞かれ、4時間と答えると「それは早い」と感心していた。予定以上に順調なペースでここまで来たことに加えて、天侯の方も案じた雨の心配もなく、気持ちにゆとりができて、帰り道は気分も浮き立つ軽やかさであった。

新穂高温泉で汗を流し、一休みしてから東京の自宅へと自動車を走らせた。

2005.10.06 抜戸岳〜笠ケ岳の日帰り山行はこちらへ