追想の山々1107  up-date 2001.09.10

朝日岳(2418m)〜雪倉岳(2611m)〜白馬岳(2973m) 
登頂日1991−08.14〜15 単独
●平岩駅==バス==蓮華温泉(8.25)−−−白高地沢(9.50)−−−花園三角点(10.45)−−−白高地平(12.35)−−−朝日岳(13.20-40)−−−朝日小屋(14.10)
●朝日小屋(3.40)−−−小桜平−−−雪倉岳(6.45)−−−三国境(8.25)−−−白馬岳(8.50-9.15)−−−大雪渓−−−白馬尻小屋(10.50)−−−猿倉山荘(11.20)===白馬駅へ
所要時間  休憩を含む  1日目 5時間45分 2日目 7時間40分 3日目 ****
   (54歳)
雪倉岳山頂からの白馬・旭岳


北アルプスの最人気と言えば白馬岳、そのすぐ北隣にありながら、雪倉岳・朝日岳となると、まるでうそのように人影が少くなってしまう。
白馬岳の人気が高山植物に所以しているとすれば、朝日岳、雪倉岳もそれに劣らぬ豊富な高山植物に恵まれているのに、理不尽な差別待遇と言わなければならない。事実、私も白馬岳の付録の山のように感じていた。  

北東北の山旅を終えて帰京し、3日ほど休養した後、出掛けた。  
新宿発の夜行急行アルプス号は、お盆休みの最中で満員、夜汽車に揺られて山に赴く独特の旅情がある。乗り継ぎで松本駅から乗ってきた九州からのご婦人は、北アルプスをはじめて訪れたということで、やや興奮気味なのがいかにもすがすがしかった。  
終点南小谷駅で約30分の待ち合わせ。糸魚川行に乗り継ぎ平岩で下車。バスで蓮華温泉へ向った。

賑わいを見せる蓮華温泉を横目にして、広い登山道を4〜5分も行くと、キャンプ場があり、ここで水筒に水を詰めていよいよ朝日岳へ向かう。  
木道を伝ってゆっくりと下って行く。初っ端から下っ て行くのは勿体ない。雨が多いせいか、木道は苔がついて滑りやすい。調子に乗って足を運ぶと、つるっときて重心を失い、踏ん張るとかえってまた足を取られる。断続する木道に辟易しながら、まだ下って行くのが心配になるくらいだ。(しかし実際に下ったのは高度差250 〜300メートル程度だろう)  
8時47分、兵馬の平湿原に出る。小さな湿原だが黒木のじめじめした中を歩いた後は、ほっとする明るさがあった。さらに下りの木道が10分ほどつづく。楽なのはいいがあとの登り返しを考えると、もうそろそろ下りが終って欲しい。  
大きな沢に降り立ち、ここが最低部だった。吊橋で沢を渡り、樹林の山腹を行くと広い河原に出た。9時52分、白高地沢である。石のごろごろした河原で、流れはたいしたことはないが、雑木を寸法切りしたものをワイヤーで梯子状につなげて、流れの上に架けられている。これでも橋である。不安定極まりないが、足を濡らさずに渡れるのはありがたい。青空が少しだけ見える。尻上がりに天気が良くなるのならありがたいが。

ひと休みして白高地沢を後にした。 お化けのようなミズバショウ、勿論花は終っているが巨大に生育した葉っぱは、自然界のどこかに狂いの生じた不安を感じさせる。
本格的な登りとなって、いよいよこれから朝日岳までの標高差約1300メートルを喘ぐわけだ。10時33分、樹林を抜けてあたりが明るくなると、ようやく尾根上に出た。キンコウカ、コメツツジ。ここでも鴬が愛想いい声で迎えてくれる。尾根筋は壊れかかった木道が導いてくれる。この木道がかなりの勾配でよく滑べるのだ。霧の中、急な木道をしばし辿ると花園三角点に到着、10時45分。あの白高地沢から600メートルを登って来たのだ。ここで初めて休憩にする。三角点付近はハイマツ、シャクナゲ等の低潅木帯で、一気に展望が開けてくるはずだが、霧が邪魔したままだ。
三角点での休憩10分で出発。  
マツムシソウに蜜蜂が群れている。ミヤマコゴメグサ、カライトソウ、ニッコウキズゲ・・・・いよいよ高山植物の花園域へ入って来たようだ。足は緩めず、しかし花はひとつひとつ見落とさないように確認して行く作業がこの花園の楽しみというものだ。  
三角点からほば1時間の間に目にした花々は・・・・タテヤマリンドウの大群落、コバイケイソウ、ワタスゲ、ヨツバシオガマ、シモツケソウ、ヒオウギアヤメ、ミヤミダイモンジソウ、ハクサンボウフウ、イワイチョウ、ミヤマアズマギク、そして始めて目にしたのはシロウマアサツキなど・‥・先日の東北の山とは一味違った華やかさがここには溢れていた。  
目で花を追っているうちにハイマツの低潅木帯に入った。その潅木帯越しに朝日岳を確認する。そして道は平坦となった。雨後のせいか、細い流れがいくつもあって水には不自由しない。しばらく花の途切れたあと、平坦だった道はきつい登りに変わった。青いざれの急登にかかると、再びいっせいのお花畑。ミヤマキンポウゲが特に目立つ。

大きな岩の基部を豊富な清流が流れている。12時ちょうど、ここで昼食にする。周囲を見回すと、ミヤマタンポポ、イワイチョウ、 シロウマアサツキ、クルマユリなど、座っているだけたくさんの種類の花が確認できた。青空が徐々に大きくなって、天候はいい方に向かっているよ うだ。
15分程の休憩で出発する。  
小さな雪田が残っている。12時28分、丘陵状の広闊なピークに到着。ここが白高地平(八兵衛平)で、すでに2000メートルを越している。付近一帯がお花畑で、一面のミヤマキンポウゲと敷き詰めたようなハクサンコザクラの群落であった。正面にようやく朝日岳がはっきりしてきた。
12時47分、千代の吹上。名前からしてここは風衝帯だと思われるが、今日は穏やかである。朝日岳、蓮華温泉、栂海新道の三叉路でもある。霧も薄くなって来た。朝日岳山頂部はわずかに雲が流れているが、おおむねその山容がうかがえるまでになった。
朝日岳山頂と朝日平
途切れぬ花を楽しみながら、朝日岳山頂こは1時20分到着。ガスで展望のないのが残念。しばらく山頂付近ををぶらぶらしてから、朝日小屋への急な坂を降 りて行った。
小屋到着は2時10分、受付を済ませて二階の大部屋に入る。新しくて清潔な山小屋で気持 ちいい。小屋の周囲を散策。高山植物がいながらにして鑑賞できる。
ラッキーなことに白馬岳方面の眺望がききはじめ、雪倉岳から白馬岳が鮮やかに浮かび上がった。
お盆にもかかわらず、小屋は混雑することもなく、布団は一人一枚のスペースで寝ることができた。

話し声で目を覚ます。3時半ちょっと過ぎたところ。ほとんどの人は寝入っている。静かに支度をし、夜具をきちんと畳んで小屋を出た。  
昨夕、晴れて喜んだのに、外は濃い霧が取り囲んでいた。夜明けにはまだ時間があり、真っ暗闇と濃霧で視界はまったく きかず、右も左もわからない。懐中電灯の灯もわずかに足元を見られる程度だ。  
3時40分、昨日の小屋周辺の記憶を思い起こし、道を拾って出発した。  
小屋から朝日岳方向へ少し戻った鞍部が、水平道巻道との分岐点で、ここまでは昨日歩いたところで分かっている。ここから水平道へ入ってからはやや不安だ。明るくなるのを待っていては、白馬岳まで足を延ばすのが厳しくなってしまう。夜露でたちまち靴が濡れて来る。  
涸れ沢を渡る箇所が2回ほどあり、ここで沢を下って行くのか、対岸に渡るのかがわからず、真っ暗の中をうろうろしたが、結局2回とも対岸にコースを見付けてほっとする。最初の沢では、沢のがら場を下りだしてしまい、危うくコースを過まるところだった。  
4時30分過ぎから少しづつ白みはじめ、霧も薄くなってようやく足元も見定められる程になって来てほっとする。何カ所かお花畑を通過して水平道を終り、朝日岳山頂への分岐に到着。木道が敷かれている。腰を下ろして朝食のパンをかじってひと休みする。水平道コースは刈り払いも不十分で、背丈以上の笹をくぐったりしてきたため、上から下までびしょ濡れになっていた。

樹林を抜けて木道の湿原に入る。しばらく木道を伝うと『小桜ケ原』 の標柱がある。霧が徐々に山の斜面をはい上がっていくようだ。 朝霧は好天の兆しであるように願う。
倒れかかってきそうな巨岩基部のガラ場『燕岩』を恐る恐る通過して雪倉岳へ向かう。  
青空が広がり、雪倉岳が前方に近づいて来た。それほどの登りにも見えないのに、思いのほか厳しい。小桜ケ原の最低部から約600 メートルの登りだから、それなりの登りではあるわけだ。じぐざぐに砂礫や草つきの斜面を一歩一歩足を運ぶが、いつもの快調さはない。一面に秋の花、マツムシソウが咲き乱れている。上空はすっかり雲が払われ、朝日岳が全容をあらわした。雲海上には高妻山が浮かんでいる。足もとにはコガネギクやイワショウプ等の花が途切れない。  
かなりのスピードで歩いて来たため、足にやや疲労を感じる。花の名前を確認しながら頑張る。ミヤマナデシコ、ハクサンシャジン、イ ブキジャコウソウ、ウメバチソウ、イワギキョウ、トウヤクリンドウ・・  あと15分と予想した雪倉岳山項には、それから30分を要して6時50分の到着。風が寒い。
剣・立山・鉢ケ岳・旭岳・白馬岳・小蓮華岳・朝日岳さらには妙高山の頂上部も雲海の上に見える。日本海方面に見える市街はどこだろう。  

山頂を後にして、コルの避難小屋目指して急降下して行く。ここも一面お花畑だ。ハイマツの中に、朝露を含んだマツムシソウの群落、薄紫の花びらが朝陽に映える。
避難小屋からしばらくはゆっくりとした登りで、花に目を奪われながらの遊歩コース。しかし白馬岳までは約550メートルの登りで、それなりの心構えが必要だ。三国境への急な登りに取り付き、ひと息で登り切る。たくさんの登山者が休憩している。立ち止まっ て今朝から歩いて来たコースを振り返ってみる。朝日小屋、雪倉岳、 そしてここ三国境。約4時間40分、早いペースに満足する。  
これから白馬山頂までは、昨年7月に歩いたのと同じコース。山頂までは人の列、追い越し、追い越しして8時52分に白馬岳山項に立った。振り返ると雪倉岳には早くも雲がかかり始めていた。
予定より早く歩けたので、ここでしばらく展望を楽しむことにする。南側は高度2千数百メートルから下は見波す限り果てしない雲海。その雲海上に妙高、火打、焼山の頭が見える。  
立山、剣、槍、穂高連峰、五龍、双耳の鹿島槍。杓子、白馬鑓。更に地図を広げて詳細に山々を追ってみる。槍ヶ岳の背後には乗鞍岳、前面には針の木、蓮華。針の右手には鷲羽岳、ワレモ岳、水晶岳、そして赤牛岳とつづく。黒部五郎の三角錐。御岳、中央アルプスが雲海上にかすんでいる。目の前には旭岳とその奥に清水岳、毛勝三山・・・・・等、展望 を満喫して9時15分、山頂を辞した。  

大雪渓への下りコースへ入る。途切れることなく次々と登山者が登って来る。今夜の山小屋は大混雑であろう。
雪渓の中に入ると、 上部から冷んやりとした風が吹きおろして、何とも言えぬ爽やかさだ。軽アイゼンをつけている人が圧倒的に多いが、ジョギングシューズの私は、雪上のスプーンカットを利用して、軽い足さばきで一気に白馬尻まで下った。

1998.07.23-24 白馬三山裏旭岳・清水岳はこちら