追想の山々1173  up-date 2001.11.04


蓮華岳(2799m)〜針の木岳(2821m) 登頂日1993.07.31 単独行
扇沢(5.00)−−−大沢小屋(6.00)−−−針の木峠(7.45)−−−蓮華岳(8.25-40)−−−針の木峠(9.10-20)−−−針の木岳(10.05-20)−−−針の木峠(10.50)ー−−大沢小屋(12.15)−−−扇沢(13.00)
所要時間 8時間00分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
針の木雪渓から300名山2座を往復
蓮華岳はコマクサ群生地


山小屋一泊で『扇沢→種池山荘一新越山荘(泊)→針の木岳→蓮華岳 →扇沢』のコースを計画したが、2日目は天気が崩れると いう予執こ、急遽『扇沢から蓮華岳、針の木岳を日帰りピストン』に変更した。やや強行軍となることはわかっているが、難しくはないだろう。先週の常念岳→蝶ケ岳→大滝山、先々週の中の岳 →兎岳→丹後山、いずれも2日行程のロングコースを日帰りして、3週連続のハードコース挑戦である。

仕事から帰って午後9時就寝、家族が寝につこうという午前1時、自動車を駆って東京から扇沢へ。扇沢着午前5時前。雨は上がって夜明の空には、雲間から青空ものぞいている。このまま天気が回復してくれるのを願って扇沢を出発した。
自動車道をショートカットしたりして、20分も歩くと針の木岳の道標で登山道に入る。
気にもならない程の緩い勾配を小1時間も歩くと、突然目の前に山小屋が現れた。歩き始めてまだ1時間、行程2時間の大沢小屋にしては早すぎると思ったが、まさしく大沢小屋だった。『山を想えは人恋し、人を想えば山恋し・・・』、百瀬慎太郎の碑文がある。北アルプス登山黎明期に貢献した慎太郎を偲び、槙有恒等によって建てられたという。
小屋を過ぎると道は徐々に勾配を上げてきた。
やがて広い針の木谷に出る。雪渓への取り付きはもう少し上部で、しばらくは針の木谷の左岸に沿って登って行く。針の木峠目指 して突き上げている大雪渓は、白馬岳、剣岳沢と並ぶ日本三大雪渓のひとつ、さすがに規模が大きい。今年は夏の訪れが遅く、雪渓の規模も例年になく大きいのではないかと思われる。

雪渓へ足を踏みいれると、たいした傾斜には見えなかったのに結構斜度を感じる。この時期としては気温が低く、また早朝のせいもあって雪面は意外と固く締まっている。氷化しているところもあって油断はできな い。
雪渓中盤から傾斜を強める。スプーンカットに足を乗せて登って行く。立ち止まって下を見るとかなりの斜度で、スリッ プしたら一気に下まで持っていかれそうな気がする。
雨が降って来た。中段の急傾斜を登っていたパーティーが降りて来た。大人1人に小学生3人のグループで、危ないからこれで下るのだという。午後になれは気温 も上がるし、雪面も緩んで歩きやすくなるだろう。雨はときに激しさを増して登頂を断念しよう、いやせっかくここまで来たのだ、せめてどちらかの山頂踏まないで帰ることなんかできない。またいつもの葛藤だ。結局足は止まることなく山頂へ向かって行く。
雪渓を登りきって右岸の夏道へ出た。右岸砂礫の急な道をしばらく攀じると小雪渓をわたって左岸へ移動する。そこからは急傾斜を電光型に切られた道が針の木峠へ向かっていた。高山植物ガ多くなってきた。
足元に目を落として黙々と足を運んで、ふと目を上げると峠の小屋が頭上にあった。標高2536メートルの針の木小屋着7時45分、扇沢から2時間45分。コースタイム5時間30分の半分であった。

蓮華岳山頂
小屋には立ち寄らず、そのまま蓮華岳へ向かった。幸いに雨は止んで来た。
峠からの取り付きは、胸のつかえるような急登で始まった。ガスで眺望のきかない道では、足元の高山植物だけが目を引き付ける。ウサギギク、ウメバチソウ、ヨツバシオガマが小さなお花畑を作っている。急な登りは長くはつづかず、ひとがんばりすると広い稜線に出た。森林限界を越えた吹きさらしの稜線は、風が強く雨具の下まで寒さが伝わってくる。絶え間なく流れるガスに、蓮華岳の山頂をうかがうことはできない。
広い稜線一杯に高山植物が咲き乱れている。可憐で控えめなタカネヤハズハハコの群落が目を引く。濃緑の葉と鮮やかな黄色花のミヤミダイコンソウも今盛り。船底型の地形ではチング ルマがにぎやかだ。砂轢の岩陰にはなよなよとしたイワツメクサが風に吹かれるままに揺れている。そして圧巻はコマクサの大群生地の出現。砂轢地の広い稜線一杯に、蓮華岳の山頂までコマクサで溢れるほどであった。
視界100〜200メートルのガスの中、やや登りがきつくなってピークらしい影が見えて来た。峠から1時間と思っていた蓮華岳山頂に40分ほどで到着した。蓮華岳頂上を示す標識が見当たらないので、もう少し先まで歩を進めた。200メートルばかり行ったところに、蓮華岳頂上と北葛岳方面を示す道標が立っていた。三角点は分からなかった。

コルに建つ針ノ木小屋
針の木峠まで戻って時計を見るとまだ9時10分。小屋の前で風を避け、ベンチに腰を下ろして始めてゆっくり休憩を取った。
ひと休みしてから針の木岳へ向かった。ここも取り付きは鼻のつかえそうな急登から始まった。
テント場を突っ切って岩角を攀じると岩轢の斜面となる。斜面にはかなりの雪を残している。相当の急傾斜だが、ガスで見通しのないのが幸 いして、急登の負担感を感じなくて済む。こちらも高山植物が豊富だった。
痩せ尾根を超スローペースで前を行くおばさんグループに辛抱してついて行くと、間もなく山頂だった。
山頂はただ乳白色に閉ざされた世界だった。
展望のない山頂をすぐに辞して峠へ下った。針の木小屋むまで下ると天候はかなり回復してきて、南面の見通しがはっきりして来た。 眼前の七倉岳、船窪岳。それにつづく不動岳、南沢岳、烏帽子岳が識別できる。その真後ろには三ツ岳、野口五郎岳とさらに残雪の豊富な山並みは水晶、薬師岳か。次々と息を切らした登山者が峠へ登ってくる。

恵まれなかった天候に少しの悔いを残しつつも、名山2峰を踏んだ満足感を味わって、再び雪渓への下りコースを取った。
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