追想の山々1175  up-date 2001.11.09


鳥海山(七高山)(2230m) 登頂日1996.08.11 妻ほか1名
祓川(6.05)−−−避難小屋(7.15-20)−−−七高山(9.00)−−−避難小屋(11.20)−−−祓川(12.20)===猿倉温泉===大平野営場
所要時間 6時間15分 1日目 ***** 2日目 ****
一等三角点百名山
七高山(手前)と新山


秋田県丁川(ひのとがわ)沿いにある大平野営場で、二人の息子と合流した。結婚前の息子たちは、それぞれ彼女同伴である。
親父の私にとっては、息子たちとのキャンプの楽しみと同時に、山登りもまた大事な楽しみである。

妻と息子の彼女一人を伴って鳥海山登山へ向った。
快晴。矢島町へ抜ける峠道の状態が心配だったが、案に相違して全面舗装の快適な道路だった。
峠を越えると目の前に鳥海山の全容が展開、透き通った青空、残雪がまだらな模様を作り、朝日を正面に受けて光り輝いている。山脈の中の一峰とは異なり、独立峰のようなすっくと立ち上がったが実に美しい。山好きでなくても、この姿には目を吸い付けられる。

地図を見ながら、迷う事なく目指す祓川登山口へ到着。すべて舗装道路で、キャンプ場から1時間弱だった。
祓川から登るか、鉾立から登るか迷ったが、鉾立コースは以前にも登ったことがあるので今回はこの祓川コースにした。

東北の山で好きな山を上げろと言われれば、いつでも3本の指に入るのが鳥海山。前に登ったのは1989年6月、7年前になる。まだ残雪に覆われているときだった。日本海側から見たあの優准な姿が今でも目に焼きついている。弧を描く男鹿半島、太平山が見える。祓川登山口の標高は1200メートル。山頂まで約1000mの登りだ。身支度をして出発した。

駐車場に燐接するヒュッテの先がもう湿原で、木道が敷かれている。早速チングルマが出迎えてくれた。100メートルほどの木道を渡れば最初の雪渓登りとなる。二人がおそるおそる運ぶ足取りがおかしい。ここで私の出番、スプーンカットを利用して登ることを解説する。高山植物も次々と顔を出す。
登山道の整備は完璧、普通の脚力さえあればだれでも山頂を踏むことができる。

六合目、七合目と標柱が立っている。次々と現れる雪渓をつないで高度を稼いで行く。前にも後ろにも、登山者の姿の消えることはない。
大きな雪渓を登った先に避難小屋があった。ここで最初の休憩をとる。小屋のすぐ先に大きな『康ケルン』が作られていた。ここで雪渓コースと康新道に分岐するはずだが、どうもよくわからない。雪渓脇の明瞭な道をたどって行くことにする。(雪渓コースは、ここで雪渓に乗り移って行くのがルートのようだったが、標識はみあたらなかった)

どうにもならないほどの純足の中高年グループ10数人を抜いて、狭い沢状の道を登って行くと、予期せず突然視界が開けて好展望が目に飛び込んできた。今までの登りからは想像できないような、なだらかな平坦部が大きく広がり、その先には鳥海山の山頂が聳え立っている。私たちの足元一帯にはツリガネニンジンの紫花が咲き乱れ、目を転ずれば日本海から男鹿半島が一望される。遠く鉾立登山口や扇子森が緑と残雪のコントラ ストも鮮やかに、陽光の中かに映えていた。

このペースで頂上を目指すと予定時間を大きくオーバーしてしまう。二人には登れるところまでゆっくり行って、下山してくる私に出会ったところで折り返すことにしてここで別れた。
一人ペースを上げて山頂へ向かった。群生する星形の小さな花が目につく。はじめて目にする花だった。もしやチョウカイフスマかと、あてずっぼうな想像をしながら、下山してから調べることにしてカメラに収めた。イワブクロは北海道以外で見るのはここがはじめて。イワギキョウの群生も豊富だ。先行する登山者の列をごぼう抜きしながら高度を上げて行く。

いつのまにか七高山山項付近にはガスが流れている。山頂からの展望は期待できない。あと1時間早くスタートしていれば、展望に間に合っただろうに残念。
広大な平坦部を過ぎて本格的な登りにかかるとコースは痩せ尾根に変わってきた。日本海側が険しく落ち込み、その沢にはまだ残雪がたっぶりと詰まっている。扇子森の明るいグリーン、日本海はどこ までも深い藍色を漂わせ、空は透きとおるようなスカイブルー。まったく何というみごとな色の広がりだろう。

次第に厳しくなってきた急登を山頂へと急ぐ。いつの間にか濃いガスの中へすっぽりと入っていた。
9合目を過ぎると風も強くなってきた。標高が少し違っただけで、先ほどまでの楽園のような穏やかさとは何という大きな違いか。体感気温が急激に下がって寒さが襲ってきた。強風と霧にあおられ、防寒のため雨具を着込んだ。

登山道からちょっと外れた感じで“康新道”の標識が見える。道のないがれた急斜面をその標識まで登ったが、そこにははっきりとした登山道は確認できない。七高山山頂と思われる巨岩の根元を回り込んで行ってみた。ちょっとやばい感じだったが、注意しながら巨岩を反対側へ回って行く。頭上、巨岩の上から人の声が聞こえてくる。巨岩を半周したところで、新山と七高山を結ぶ道に出た。すぐ上が七高山一等三角点だった。 霧で展望はない。強風にたたかれ、寒くてとどまっていられない。早々に山頂を後にした。
新山は以前登ってあるので、このまま下山することとした。
二人はどこまで登って来ているか。

9合目あたりと思われる高度まで下ると、ガスの外に出て、また嘘のような景観が広がった。
意外にも二人はすぐそこまで登って来て休んでいた。ここからならば山頂まで1時間もかからないだろう。登らせてやりたいという思いはあったが、寒さと強風、それに帰りの時間などを考えて 『ここまでくればもう山頂へ着いたも同じだから、東京へ帰ったら鳥海山へ登ったと言ってもかまわないよ』と言って、ここで引き返らせることとした。  

下りも新しく出会った花々の名前を教えながら、同じ道であることを忘れさせるような楽しみがあった。
ほぼ予定どおりの時間に祓川へ帰着。楽しみの温泉は猿倉温泉国民宿舎鳥海荘。特筆すべきは露天ぶろの正面に、鳥海山(七高山)がでんと聳えているのが見えることだった。実にすばらしい。ただ山頂部の雲は相変わらずだったのが惜しまれる。

キャンプ場へ帰ると息子たちがイワナを釣果にして帰っていた。当然この夜の酒のさかなはイワナの塩焼きとなった。
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