追想の山々1188  up-date 2001.11.22

北アルプス表銀座コース
燕岳(2763m)大天井岳(2922)槍ケ岳(3180m) 登頂日1984.07.23-25 単独行
第一日目●中房温泉−−−燕岳−−−大天荘(大天井岳)
第二日目●大天井岳−−−東鎌尾根−−−槍ヶ岳山荘(槍ケ岳)
第三日目●槍ケ岳山荘−−−槍沢−−−上高地
所要時間 記録なし 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
ガンに遭う以前、まだ登山が趣味とは言えないころに、ふとした気まぐれで始めて3000メートル峰へ登ったときの記録です。=(47歳)
槍ケ岳(西岳ヒュッテ付近にて)


マラソンに余暇の全精力を傾注していて、泊りがけで山に行くことなど考えたこもなかった。それがふとした気まぐれで山へ出かける気になった。山小屋に泊って山を歩く という経験はこれまでになかったし、曲がりなりにも登山らしい登山と言える経験もなかった。身支度、装備を手探りでととのえ、案内書に頼って何とか準備ができた。しかし登山道がわかるだろうか、山小屋へ泊まる手続きは、食べ物や寝場所は・・・・・心配は数多くあった。ただ体力だけは絶対的な自信で不安はなかった。

中房温泉から北アルプス三大急登の一つと言われる合戦尾根を登る。ペースがわからないから、ただがむしゃらに足を運んで行く。第一ベンチ、第二ベンチ・・・・何番目かで休憩をとって朝食にする。マラソンとは異なる登りのしんどさを味わい、大汗をかいて合戦小屋まで登って小休止にする。ジュース一缶300円、高いが美味い。山では缶ジュースが300円、缶ビールが500円ということを知った。
合戦小屋を後にすると登りは少し緩くなって、潅木主体に変わってきた。合戦の頭からハイマツがあらわれて森林限界、高山植物の可憐な花が目につくようになる。
燕山荘の稜線に登りつくと期待どおりの大観に目を見張る。荷物をデポして燕岳の頂上に向かう。白砂の中に風化した花崗岩の巨石が、奇抜なオブジェを造っている。そう言えば、何十年も前のことだが、松本市に勤めていたころ職場の仲間の後をついて、中房温泉から燕岳を往復したことがあった。でもあまり記憶は残っていない。

宿泊予定地の大天井岳へ気持ちのいい稜線を散歩気分で行く。残念ながら稜線の南側(安曇野側)は雲に閉ざされて眺望はない。大天井岳もガスの中だ。青空は消えていやな空模様になってきた。喜作レリーフ先の分岐から大天井岳への岩片の登りは、そろそろ疲れを感じてきた足にはかなりこたえる。視線を落として一歩々々足を持ち上げるようにして見通しのない瓦礫の道を辿り、ふと目を上げると山小屋が目の前にあった。今夜の宿泊小屋、大天荘だ。手続きをどうするのか、また満員で駄目だと言われないかと心配したが、案ずるより産むがやすし、代金を払い寝場所の指定を受けて一安心する。
外に出 てコーヒー作っているとポツポツと雨が落ちてきた。大天井の頂上は雨が上がるのを待つことにして、小屋で横になる。小屋の中は徐々に登山者で脹わいだした。二段ベット式の部屋に一人あたり4〜50センチスペースで詰め込んでいくのを感心して見ていた。夕方雨が上がり、カメラをぶら下げて大大井岳の頂上へ登った。夕暮れ近い空の下に薄く青墨を流したようなシルエットで、穂高連峰、槍ケ岳、そのほか私にはわからない高山が連っていた。

翌未明、満天の星の輝きを確認して暗いうちに頂上に立った。私が初めて体験する荘厳な山の朝の幕開けだ。白みはじめた空は上空から青みを増し、平面のシルエットにしか見えない東の山稜の上が橙色に染まっていく。そして一条の光が槍の穂先に届くと、それまで青黒く沈んでいた岩峰が曙光に燃えるように輝き、その光は次第に下へ・・・・夢中でシャツー を押す。東の空はいよいよ赤く、そして金色に変わり真っ赤な火の玉が姿を現 した。感動的なアルプスの夜明けだった。、時の過ぎるのを忘れ気がつくと、朝食の時間をとうに過ぎていた

大天井岳の巨体をトラバースするようにして、がらがら道を急下降すると大天井ヒュッテの鞍部。ここからは終始槍ヶ岳を目にしながらの楽しい雲上歩きとなる。行きずりの登山者に写真を撮ってもらったり、撮ってやったり、初めて見る珍しい高山の花々を眺めたりしながら歩くうち、西岳ヒュッテに到着。ここは槍ヶ岳撮影のポイントとして知られた場所で、水俣乗越を挟んでダケカンバを前景に東鎌尾根が競り上がり、その穂先に至る景観は確かに絵になる。私もここでシャッターを切る。
さてここから急激に下ったのち、水俣乗越から長く急な東鎌尾根を登って槍 ヶ岳まで行くのだ。ダケカンバの中を梯子や鎖につかまって最低鞍部の2500mまでの下りは何とも惜しい気がする。コルからは急がず休まずマイペースで登るが、先行の登山者をごぼう抜きに抜いて行く。槍の頂上まで約700mの登りだ。槍ヶ岳山荘はすぐ行き着けそうな距離に見えながら、これがなかなか遠かった。
今夜の宿泊地の槍ヶ岳山荘に到着。小屋を出ていく 人、通過していく人、賑やかだ。 缶ビールがうまい。みそ汁を作って大天荘での弁当を食べて一服したあと、 槍の頂上へ登る。鎖に頼って急峻な岩を攀って本峰第5位の山頂に立った。はじめての3000メートル峰である。ガスって視界はきかなかったが、ここに立てたという満足感があった。
午後からまた雨が降り出した。雨は窓ガラスにたたきつけるようにして降った。

3日目、いい天気だ。 小屋を飛び出して御来光を待つ。
槍の穂先右肩に夜明けが兆して、常念岳、そして遥か南アルプスの山々の稜線上が次第に赤く染まっていく。刻一刻と色彩は変化していく。一面の雲海が広がって、2500メートル以上の山巓だけが海上に浮かぶ島のようだ。常念岳の姿が美しい。八ヶ岳、富士山がオレンジ色の空中に浮かぶ。昨日につづいて今朝もまた素晴らしい御来光を見る事ができた。穂高の岩稜が黄金に輝きだし、槍沢の谷がモノクロからカラーの世界に変っていく。

下山はマラソンで鍛えた脚力がものをいい、快調なペースがつづく。小走りに槍沢を下った
ジョギング、マラソンとは一味ちがった新しい喜びを見つけた登山であった。
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