追想の山々1392
  

 燕頭山=つばくろあたまやま(2105m)・地蔵岳(2764m)観音岳(2814m)
 登頂日1991.03.10 妻同行
●御座石鉱泉(8.00)−−−休憩2回20分−−−旭岳(10.10)−−−燕頭山(10.40-11.00)−−−鳳凰小屋(12.30-13.30)−−−地蔵岳(14.30)−−−鳳凰小屋(15.15)・・・泊
●鳳凰小屋(5.45)−−−観音岳(6.35-6.50)−−−鳳凰小屋(7.20-7.30)−−−燕頭山(8.15)−−−旭岳(8.30-8.55)−−−御座石鉱泉(10.15)
行程 1日目・・7時間15分  2日目・・4時間30分 山梨県 燕頭山 三等三角点
観音岳 二等三角点
≪二度と近づきたくない御座石鉱泉と、泊りたくない鳳凰小屋≫
地蔵岳手前の登り


5年ぶり、2度目の鳳凰山は妻同行だった。

妻の足に配慮して、最短の御座石鉱泉を起点とするピストン山行とした。御座石鉱泉到着は7時45分。広場に駐車する料金が1日1600円、2日だと3000円と言われてびっくり仰天した。まさにぶったくり、坪何百万円という都心部でもあるまいに。整備されたスキー場だって500円くらいのものだ。更にそのガメツサの徹底ぶりに驚かされる。登山道にとりつくにはどうしても鉱泉のわきの細道を通らなければならない。放し飼いの犬がいて、登山者が通るとひつっこく吠えたてる。すると従業員が出て来てチェックする。その犬が素通りさせてくれても、さらに先に繋がれ犬がもう一頭、これがまた狂ったように吠えつづけるのだ。『一人たりとも無断では通さないぞ』と言わんばかり、まるで関所の体勢である。いやらしく不愉快極まりない。
御座石鉱泉までは歩くか、マイカーか、タクシーか、鉱泉の送迎マイクロバスを利用するしかない。そのマイクロバスの料金で利用者の苦情・トラブルが耐えないというのもよく知られた話である。しかも駐車日数のごまかしをチェックするためか、鍵まで預けさせられた。

せっかく楽しみにしてきた山行が、早々からイヤな気分にさせられてしまった。
気を取り直して犬の吠え声を後ろに登山道へ。はなからの急登である。宿泊予定の鳳凰小屋までは高度差1300メートルと厳しい。ゆっくりしたペースで最初の急登を終わると、しばらくは平坦な道となって一息つく。
その後は再びきつい登りがつづく。退屈な長い登りを一 歩一歩高度を稼ぎ、3間近くかかってようやく燕頭山へ到着した。ここで約1000メートルの高度を消化したことになる。林床の笹原に見上げるようなダケカンバの大木、そしてサルオガセが風に揺れる景観に標高が高くなったことを実感する。

一瞬雲が切れて鳳凰山がうかがえたが、すぐに雲の中に消えてしまった。
小屋まであと高度300メートル。ほっとした気分が、かえってだら けを誘ってこれからが長く感じた。
尾根を巻く北側の道には塩をまいたほどの雪も見える。気温もだいぶ低くなってきた。燕頑山から1時間30分かかって鳳凰小屋へ到着した。
小屋前のベンチでお汁粉を作って昼食にする。シーズンオフなのに、登山者が思いのほか多い。宿泊の手続きをする。500円上乗せして7700円にすれば別館になるという。何が違うのかと思ったら寝具が多くなるということだ。この時期寒かったら寝るどところじゃない、高くても別館に申し込まざるを得ない。7700円は北アルプスの小屋より高い。この小屋も御座石鉱泉と同系列、ガメツサの延長である。

時間も早いし、青空も見えて来たので地蔵岳まで登ってくることにする。歩き疲れた妻の足は、更に400メートル近い高度を登るのに、遅々としてはかどらなかった。御座石鉱泉から地蔵岳まで1700メートルの高度差を考えると、足の重いのも無理はない。
樹林帯を抜けて白砂のザレに出ると、紺碧の青空にオブジェのような花崗岩がそそり立っていた。砂礫に足を取られながら巨岩を目指す。観音岳が一際高く見える。
鳳凰小屋から1時間かかって地蔵岳の巨岩、オベリスクの基部に至った。前回の鳳凰山登項のときは赤抜沢の頭で折り返したため、この基部までは足を延ばさなかった。今回の山行はその未達の基部からオベリスクの上まで登る目的もあった。
今にも崩れ落ちそうな微妙なバランスで積み重なった花崗岩も、 とっつきは比較的簡単に登れたが、私の技量では頂部の抱き合うような岩の下までだった。

青空があっと言う間にかき消され、雲と強風に変わってしまった。北岳、甲斐駒方面は雪雲に覆われている。風に追われるようにして頂上を後にした。
吹雪き模様に雪が吹き付け、砂轢の踏み跡はたちまち雪に隠れてしまった。
小屋へ戻り、雪の舞う中で焼酎のお湯割りを作って体を暖めた。
小屋の夕食はひどいものだった。山小屋だから上等なものを望むのは無理だが、料金との釣り合いというものがある。北アルプスでも7000〜7500円のところが多いが、それなりに設備と食事内容が充実している。この季節にストーブもなく、だんらんのスペー スもない。具は玉ねぎだけのカレーライスに柴漬がちょっぴり。これで7700円とはとても納得できるものではない。2度と宿泊したくない小屋だっ た。

真冬並の寒気団に包まれて、宵のうち吹き荒れた風も夜半には収まって星空が広がっていた。

翌朝は快晴で明けた。
山頂からの眺望を楽しみに、一人観音岳へ登った。北面の登路は雪がついてよく滑る。観音岳への登りの途中から深紅に燃えるご来光を見ることができた。
稜線に立つといきなり烈風が襲いかかった。観音岳へ向かう背中を押すようにして、猛烈に吹き付ける風は登りの助けにはなるが、真っすぐに歩くことができない。ふらふらしながら観音岳頂上にたどりついた。
早くも山頂には登山者の姿が多い。薬師岳小屋泊りの人達のようだった。
強風に洗い清められた真っ青な空、360度の大展望、薬師岳の先には富士山がシルエットで浮かんでいる。目の前には白峰三山が凛々しい。塩見、荒川三山や笊ケ岳、甲斐駒、中央アルプス、八ヶ岳、奥秩父、浅間山・・・と大展望を満喫できた。
山岳展望を堪能してから小屋まで戻った。

ひと足先に下山して行った妻の跡を追う。燕頭山で追い付き、来た道を御座石鉱泉へひたすら下って行った。
本当は鉱泉で汗を流して帰りたかったが、また常識外れの入浴料金をふっかけられ、気分を害されそうな予感がして、着替えもそこそに帰途についた。

1988.11.12 夜叉神峠からの鳳凰三山はこちらへ