追想の山々1466
  

山スキー  平標山(1984m) 1994.04.16  快晴  単独
元橋(5.50)−−−登山道入口(.45)−−−平標山の家(8.20-8.40)−−−平標山(9.40-11.00)−−−平標山の家(11.10-11.20)−−−登山道入口(11.40)−−−元橋(12.20)
行程 ×××× 群馬・新潟 平標 三等三角点
平標山山頂付近
3回目の平標山はスキーで登ることにした。  
国道17号線三国峠付近の電光掲示板は『ただ今の気温−1度』。元橋には5時半に到着。元橋からの林道はどこまで自動車で入れるか。除雪は林道に入った先の別荘地までだった。
シールをつけて出発。平元新道はまだ陽が届かず、雪面は凍って硬い。2カ所ほど雪の消えたところがあったが、スキーを履いたまま林道をたどって、平標山登山口の標識からカラマツ林の中の登山道に取りついた。
ところどころに見える赤布を目印に、カラマツを縫うようにして進む。最初のうちは勾配も比較的緩やかで、シールの効きもよく足もはかどる。かすかに残るツボ足やスキーの跡が目安になるが見失いがちだ。

広々とした沢状の斜面に出たところで傾斜が強くなって来た。雪面の氷化具合もかなり固くなり、直登ではシールが効いてくれない。じぐざぐ登高のキックターンを繰り返すが、滑落の危険もありコースを変えないと無理だ。それにコースから大分外れている気がする。階段登高を交えたりして慎重に右手へ移動して行くと、落葉樹林の急斜面の中に坪足の跡を見つけた。

樹木やブッシュを避けながら登りはじめたが、エッジを効かせての斜登高もままならない。スキーアイゼンを携帯しなかったのが悔やまれる。スキー登高可能な部分を拾って、ときには階段登高で切り抜けたりしているうちに、再び足跡を見失ってしまった。アイスバーンの急斜面ではキックターンも難しく、ブッシュを避けて水平移動しようとしたところで、足を滑らせて転倒してしまった。あわてて手をついたが、やすり状の凍ったザラメ雪で右手に擦過傷を負ってしまった。血が滴るほどの出血に、急いで絆瘡膏を取り出す。汗をかく暑さに手袋を脱いでいたのが失敗だった。

平標小屋まではまだ標高差2〜300メートルはありそうだが、ここでスキー登高を諦め、スキーをザックにつけてツボ足登高に切り替えた。一歩一歩とゆっくり足を運ぶ。斜面に陽があたってきて、いくらか雪も緩んできた。
林道歩きに入るとき、山小屋の人らしい男性が荷物の整理をしていたが、その人が上の方を登って行くのが見える。いつ追い越して行ったのか、私とは違うルートを登ってきたようだ。あとはその人のトレールに足を重ねて、汗を拭いながら急登を攀じた。

雪が深くなってブッシュは完全に消え、真っ白な雪面と朝陽を 受けたブナ林の取り合わせが素晴らしい。ようやく稜線に登りついた。夏道ならば1時間のコースを1時間35分かかっていた。平標山の家は、軒から下は雪に埋まっていた。

上空は予報どおりビーカン。朝陽に輝く白一色の水平の山稜は苗場山、眼前にはゆったりとした仙ノ倉の山容と、その肩には対照的な大国の頭が険しい。目指す平標山への稜線は、矮小化したシラビソが点在するのみで、完全に雪に覆われ、スキーゲレンデそのものだった。
日当たりに雪はゆるみ、ここからはシールもよく効いてくれそうだ。休憩かたがたスケッチを2枚書いてから山頂へ向かった。

表面が溶けて透明フィルムのようになった雪の薄い幕が、さらさらと足元に鳴る。前半の厳しい登りでやや体力を消耗したせいか足が重い。スキー登高では普段の山歩きでは鍛えられていない、異なった筋肉が酷使される分、疲労も早いようだ。  右手に大きな山体の仙ノ倉を眺めながら、ゆっくりゆっくり頂上を目指して登った。途中10分ほど休憩をとったが、夏道50分のコースを1時間で山頂へ到着。
3回目の山頂であるが、これだけの眺望に恵まれたのは今回がはじめて、さすがといえる展望台だった。

時刻は午前9時40分、雲ひとつ見当たらない。セルフタイマーで記念写真を撮ってから、ゆっくりと展望を楽しんだ。
視界を取り巻く銀嶺はプルシャンブルーの天空を、横に切り裂くように連なる。仙ノ倉山からその左、北東方向には万太郎山、谷川岳へと延びて、さらにその先へ朝日岳、巻機山と白銀の峰が連なる。眼を凝らせば武尊山や越後駒らしい山影もうかがえた。南東には吾妻耶山と赤城山、南西に目を転ずると榛名山、そして西には苗場山から佐武流山へと白一色の銀嶺。
笹に座して数枚のスケッチに時を過ごしているうちに、次々とスキー登高の登山者が登って来て、一人占めだった山頂も賑やかになってきた。半袖姿で登って来る人もいる。

展望にも堪能して下山することにした。
足慣らしにまず2〜3ターンやって調子を見る。雪は重いものの思ったより滑りやすい。これなら私の技量でも滑降に支障はない。いよいよ待望の滑降開始。斜度もスキー場の中級ゲレンデ並で手頃だった。スキーの滑りもいいし、エッジもよく効く。喘いで登った稜線も、スキー滑降ではあっという間である。登ってくる登山者の脇を矢のように通り過ぎる。
途中3回ほど立ち止まって平標山の家まで滑り降りた。振り返りシュプールを眺める。なかなかきれいなシュプールではないか。一人満悦の笑みを浮かべた。

山の家からは樹林帯へ入る。最初はブナ林を縫いながらの滑降も可能だったが、それはちょっとの間で、後は滑降というより樹木やブッシュを避けながら、ゆっくりとスキーを滑らせながら下って行く。朝方凍結していた斜面も、この時間は水気の多い湿雪に変わっていた。 あまりの上天気に、途中雪の上に仰向けに寝転んで、陽春の陽差しを受けながら、いっとき山の気に浸った。

カラマツ林が密になって来て、下山ルートが分かりにくくなって来たが、勘よくコースを選んで迷うことなく登山道入ロへ戻った。林道は意外に勾配がなくて、快適に滑りながら飛ばすというわけにはいかなかった。
帰りに法師温泉へ立ち寄る。大きな浴場で、浴槽は8つに区切られて、底にはゴロ石が敷かれ、今時珍しい混浴で鄙びた温泉情緒が漂う温泉だった。
1990.10.10 松手山経由平標山はちら