「刻の車輪」


「なんだ、まだいたの??」
少年が少女に声をかける。
既に誰もいない控室。赤紫の空が闇に包まれようとしていた。

両手で頭を抱えるようにうなだれていた少女は、少年の声に視線だけを動かす。

「・・・聞いた??今日のこと・・・」
それだけ言うと少女は再び目線を机に落とす。

「・・・ああ、負け・・・だろ。今日も」

「・・・なんで・・・何も・・・言ってくれないのかな??」
「俺にも一言もナシだぜ。あの日から・・・挨拶すら返してくれねぇ」

夕焼けにはこんな色もあったんだと思わせるような、深い紫。
大きな窓のせいでその部屋は全体が紫に染まる。
少年も少女も紫に包まれる。

「泣くなよ」
「・・・・・・・・・・」

少女がうつむく机に透明な水が落ちる。
ぱた   ぱた  と音を立ててそれは数を増やしていく。紫が反射して光る。

「・・・なんでっ・・・どうしちゃったの?・・・なにが・・・っっ」
嗚咽で声にならない。

少年は少女が泣くのを初めて見た。
肩が震えている。
「だいじょぶだって、そのうちなんとかなっから」





ほんとは心配でたまらない。
『そのうち』っていつだよ、と自問したくなる。それが本音。

いくら自分たちが今、殺し合いをしているからといって
それはあまりに無情で非情な世界。

「・・・泣くなって」
少女の頭を軽く撫でてやる。
少女の方が年上だったが、少年は妹をあやすように優しく言う。

「あたし・・・見てられない・・・もぉ・・・やだ・・・よ・・・こんなの・・・っ・・や・・・だ」
透明な雫が止めど無く溢れる。

「俺だって・・・見たくないさ」

遠くで蝉が鳴いている。
紫の空は雲が高い。

―もう、夏も終りなのだ。

「俺だって・・・・・・」
声が擦れる。
目の前の景色が揺れる。ぼやける。

何かが頬をつたった。
透明で熱くて―


まるでこの世の終焉に二人だけ残された姉弟の様に、二人は体を寄せ合って

何時の間にか自分たちを見下ろしていた青白い月を見上げる


珍しく和谷と奈瀬の組み合わせです。結構この二人のコンビも好きvv
でも、あくまで「恋愛対象」としてではなくって、なんつーか…姉弟…?いや双子っぽい感じですね♪
(イメージ的にはファイブスターのマグダルとデプレ)←(笑)
二人とも伊角さんのことが大好きでたまらないんです。
伊角さんといつも側にいたいし、心配だし、一緒に笑っていたい。それが二人の想い。
舞台は伊角VSフク戦直後。
二人にとって大好きな伊角さんの予想もしなかった3連敗にかなり参っている様子を書いてみました。
奈瀬の励まし役だったはずの和谷。しかし彼も信じられない伊角の変貌に涙します。
『せめて、何があったのか話してくれればいいのに・・・』
今回はオトコノコの和谷と一緒ということもあって、奈瀬を弱っちくしてみました。ドウデスカ??(笑)

で、実はコレのプロトタイプ小説も存在します・・・
って、ほんとはそっちが本物(?)だったんですが、プロットをなくしてしまって、しょうがなく何も見ずに書いたのが上の小説。
おヒマな方は比べてみるのも楽しいかも(楽しくねぇ)
プロトタイプ「刻の車輪」