1998 Fall,fack'n crazy man 一ノ瀬氏

BIG SALMON RIVER紀行文

ビッグ・サーモン川

【 行動日 】 1998/9/7-13 (7days)
【 場 所 】 カナダ/BIG SALOM RIVER→ YUKON RIVER
【 コース 】 QUIET LAKE to CARMACKS
【漕行距離】 360km
【 時 間 】 7days
【 天 候 】 晴れ2割。くもり4割。雨4割。
【 水 量 】 普通。平年並


8月下旬、9月のスケジュールを立てていると、4日以降が埋まらない。8月下旬、9月のスケジュールを立てていると、4日以降が埋まらない。21日に辞令を受けるまでの間、暇だ。ふと、川旅がしたくなり、HPを検索する。

キーワードはカナダ、ユーコン川である。旅の起点となるWHITEHORSEまではVANCOUVER経由で往復12.6万円だった・・・。

9/5 朝からパッキングを開始した。デジタルカメラを借りようと友人に電話したら、キャンプに出掛ける所だった。自分もデジタルビデオカメラを借りる為、茨城県の涸沼キャンプ場へ。久しぶりにカヌー友達に会い、夜遅くまで酒を飲みながら、カヌー談義に浸った。

9/6 昼頃まで芝生のキャンプ場でビールを飲んでうだうだしていた。セミが変な鳴き声で木にいるので観てみたら、鬼ヤンマがセミを補食しているのであった。午後、そのまま成田へ。今回の装備は寒さ対策混みの為、70kgだった。機内では二十歳くらいのお姉ちゃんが両となりだったが、何もなく日がくれた。

9/6 飛行機の中から綺麗な朝日をみたら、朝10時にvancouverに着いた。

短パンTシャツでちょうどいい夏の太陽に照らされた。国内線でWHITEHORSEに出発するまで空港の外でタバコを吸って待っていた。午後一時に出発。窓の外はカナデイアンロッキーが雪を抱いていた。2時間くらいで着陸態勢に入ると、眼下に大きな川が目に入った。ユーコンである。カヌーを始めて四年、憧れのユーコン川は本当に大きな川だった。空港で荷物を受け取り外に出ると雨が降っていてとても寒かった。気温は10度も無い感じでみんなジャンパーを羽織っていた。

TAXIが捕まらないので、事前にメール連絡しておいたカヌー屋に電話し、迎えに来てもらった。AIKOさんというこの親父さんはC.Wニコルみたいな顔をしてこれからの日程を打ち合わせた。先ず、食料、酒の買い出し。白ガスは彼の手持ちを1Lもらった。今夜は地元のキャンプ場で寝ようかと思ったが、初日から雨キャンプはいやだったので、ユーコン川沿いのリバービューホテルをとった。一泊75$の立派な部屋だ。明朝9時のピックアップを頼み、1人で町のバーで飲み、中華料理屋で飯を食って寝た。

9/7 目が覚めたら8時半だった。しばらく風呂に入れなくなるので、すぐシャワーを浴びシャンプーだけした。9時にAIKOさんが迎えに来た。一路スタート地点のクワイアットレイクに向かう。約3時間。ダートロードを二時間走り、湖に着いた。寒く、風が強く、水面は50cmくらいの波が立っていた。ここから流れ出す川への方向の風だったので早速スタート準備に入った。AIKOさんとはここでさよなら。一生懸命漕いでも一週間は文明の世界に戻れない。

舟を膨らまし、パッキングを終え、食事をとっていよいよスタートする頃には、午後3時になっていた。いよいよ出発だ。今回の装備は前回の夏のNZお気楽川下りと違い重装備だ。カヌー、パドル、服装は上下ポリプロの下着2枚重ねにゴアのカッパにフリースの靴下に長靴。ライジャケは防寒具も兼ねている。ライジャケにはBEARBELLとBEARスプレー。これはいつも肌身離さず持っていなければならない。とお決まりの笠。

カヌーにはキャンプ道具一式と釣り竿、食料10日分。食料はすべてジッパー付きのビニール袋に入れて防水バックに入れた。(匂いを出さない為)船の前に三脚を固定し、ビデオカメラも設置した。

湖はとてもでかく日光の中禅寺湖くらい。こんなのを3つ漕ぎ抜くといよいよビックサーモンリバーの流れだしなのだ。風は追い風だが波が高い。油断して水に落ちたら大変だ。水温は氷水みたいに冷たかった手を入れても5秒ももたない。雨雲が後ろから追ってくる。普段のカヌーは別の言い方をすれば「川流れ」なのだが、ここでは漕がない事には旅にならない。湖のでかさや水温の冷たさ、風や波の状況から気の抜けない厳しい旅の始まりとなった。

三時間漕いで岸に着け、食事。熊さん来ないでと叫びながら、ラーメンとリンゴで早々に退散。今日のキャンプ地を探すのだ。3つの内2つの湖を漕ぎ抜け、最後の湖のほとりでキャンプしようと思った。雨雲も寄って来るし日没の時間も迫っている。岸によって早速熊の足跡チェック。凶暴なグリズリーとブラックベアの足跡や生態は勉強してきた。

鹿らしき足跡は多かったが熊の足跡は無いようなのでここに決定。テントを組むと同時に雨が降ってきた。食料を風下に異動しテントに潜り込んだ。

が、しかし、眠れない。森が絶えずガサガサッと音がし、水鳥がずっと煩く鳴いていた。狼の遠吠えも聞こえてきた。益々眠れない。新田次郎の「アラスカ物語」を読み始め没頭するが、それも増して眠れない。深夜一時。3時、明け方5時、6時何度となく物音で目が覚め結局、熟睡できず朝がきた。7時。

9/8 思い切って外にでると水辺には鹿(たぶんムース)らしき真新しい足跡があった。テントは白く、カヌーの中の水は凍っていた。乾かないテントを撤収し、カヌーのエアーを入れ、食事を取ったら9時になった。雨雲はなく、気持ちのいい天気だった。ただ寒いけど。今日は最後の湖を漕ぎ抜けいよいよ川に突入だ。このビックサーモン川の入り口に達するまでじつに8時間以上も漕いだのだ。やっぱり川はいいなあ! 漕がなくても進むもんなあ!

タバコを吸いながら下り始めるとスプルースの上から白頭鷲が俺を睨み付けた。(狙ってるのかな?)カワセミの大群が飛び交い、神話の世界に足を踏み入れたみたいだ。水はずうっと透明で川底が見えなくなる事はない。マスやグレイリングの群が沢山あった。途中ビーバーダムにて川が寸断されている場所が2カ所。舟を降りでかい丸太の上を担いだ。

途中、水中に下半身毎落ちてしまったがとても冷たく辛かった。今日は早めにキャンプ地を探し焚き火を豪快に燃やし濡れた物を乾かした。焚き火の前でビールを飲みながら「アラスカ物語」に没頭した。自分は今カナダにいるが、地理的にはアラスカ国境近くなので、知っている地名や動植物を目の前にして面白かった。

時折、空を眺め、今回の旅の目的でもあったオーロラを探した。この夜は晴天で月もなく、天の川や人工衛星はよく見えたがオーロラらしきものはついに現れず11時ころあきらめてテントに潜り込んだ。今夜は熟睡。

9/9 いつもの様にテントを撤収し焚き火で米を焚き鮭カンにタマネギのみじん切りをかき混ぜ醤油を垂らし、ご飯にかけてかき込む。死んだ爺ちゃんが好物だったものだ。

ソロのキャンプ飯には簡単で最適だ。(あとはオイルサーディンのトマト煮に玉ねぎのスライスをご飯で)9時にスタート。川底にサーモンの死体が転がっていた。間もなくすると、ある瀬で赤い物体を発見。つがいのサーモンだった。遙か3000kmから遡上してきたサーモンの身体は真っ赤だった。全長1mくらい。その瀬には他にもサーモンが確認できた。うううむ。感動。

河原にサーモン発見。真っ赤なのですぐわかった。内蔵だけ食い荒らされて近くには大きな熊の足跡があった。やっぱり熊はいるんだなあ!早々に現場を退散した。

この日初めて他のカヌーを見かけた。オーストリアからのカップルでショットガンを持っていた。いいなあ。俺なんか熊鈴とベアスプレー(中身はコショウ)だもんなあ!。

9/10 いつものように川を下っていると河原に大きな黒い馬みたいのが立っていて、自分を眺めていた。近寄ると立派な角をもったムースだ。本当に身体がでかい。馬よりふた回りほどでかいか。ムースは自分が人間だと判ると川を横切って反対岸に逃げた、自分は流れの中なのでぶつかりそうになった。一瞬の判断で、撮影か、バック漕ぎか。次の瞬間あの立派な角が目に入り、もし相手に攻撃に転じられたらかなう訳もなく、恐怖を感じパドルを手にし、事なきを得た。

深夜テント近くに狼が来て大きな声で吠えた。遠吠えならぬ近吠えだ。すんっげえビビった。ナイフを握り締め寝袋のジッパーをあけた。テント前では焚き火が轟々燃えているので、様子を見にきたのだろう。「アラスカ物語」中、狼が遠吠えで仲間を集め、人間を襲うシーンを読んだばかりだったので本当に恐かった。でもいつの間にか寝てしまった。

9/11 毎日同じような生活。日中も寒く、パドルを持つ手を休めると、寒気が襲う。

毎日日の出と同時に起きて日没1〜2時間前にはキャンプ地を探した。キャンプ地は30分も探せばいい立地条件がある。条件は1、薪が豊富 2,熊の足跡がない 3,南東向き 4,川のせせらぎが聞こえるこの川はでっかい」山々をいくつも縫うように越えていく常に蛇行している川なので、夕日の時間(キャンプ地を決める時間)は太陽の位置を確認しなければならなかった。

大体のキャンプ地は暖房完備(薪が豊富)で冷房は効きすぎて毎朝氷点下なのを除けば立派なリバーサイドホテルだった。但し食事は厳禁(匂いを発するから)焚き火でのビールとテント内のウイスキーは特別に許可をもらった。

トイレはいたる所にあるが、自分の使用しているサニーナトイレットペーパーは洗浄成分に油を使用している為、よく燃えた。ウンコだけを埋設するのは,気持ちのいいものだ。

9/12 幾分川幅が広がり50mくらい。水質は悪魔で透明。川底が見えなくなる事はない。毎日白頭鷲やビーバーを見かける。きょうもムースのつがいをみた。

このところ川底をみても魚がいない。きょうの午後には本流のユーコンに合流できそうだ。午後3時、ついに憧れのユーコンに合流した。川幅は500mくらいか取りあえず真ん中までいってその広さを味わった。「遂に来た」心の中で叫んだ。220kmにわたるビックサーモンリバーとお別れだ。ここから更に120km漕ぎ進むと始めて川に橋がみられ町があるのだ。そこが今回のゴール地カーマックスだ。

ユーコンの流れに身をまかせると不思議な気分だった。これだけ大量の水が音も無く、ひたすら只流れているのだ。もう2ヶ月もすると全面凍結するこの川の偉大さは想像もつかない。空も異常に広い。これだけの空間にただ1人、自分の存在が不思議な感じだ。

昼間、どうにも頭がかゆくなり石鹸で頭を洗った。水は氷水みたいに冷たく気持ちよかった。我が社でもユーコン川旅仕様のシャンプー(10日はサラサラかゆくならない)の必要性を感じた。

夕方、夕立にあった。全身びしょ濡れ。逆風がきつく前がみえない。川幅200mくらいを両側を行ったり来たりするが、いいキャンプ地がない。ようやく見つけると、小熊のプーさんの足跡がたくさんあって1時間以上立ち往生(漕ぎ往生)した。日没もせまりギリギリの所でクリークの流れ込みを発見し、テントを張って寝た。テントもカッパもビッショリ。焚き火もできないさみしい夜だった。

9/13 朝、目が覚めると天気がよさそうだった。上空には広い範囲で青空があったが、水面は霧に包まれていた。濡れたままのテントを撤収し飯を食い漕ぎ出すと、川の両岸が見えなくなるほどの霧(朝もや)に包まれた。まるで海を漕いでるような幻想的な光景だった。しばらくすると風にふかれ今までに見た事もない様な大きな空の下にいた。

「ユーコン」川幅もあり水量もあり音もなくただ悠々と流れるこの川はとてつもなくデカい空をももっていた。本当に気持ちがいい。

ゴールの町が近づくと車が川横のハイウェイを走ってるのが見えた。文明のものはうるさくユーコンに響いた。夕方あと10kmというところでまたもや夕立にあった。全身びしょびしょ。カヌー屋の辛い所だ。最後のおおきなカーブを曲ったら初めて橋がかかっていた。460kmを漕いできて初めての橋がゴールのカーマックスだ。人口100人はいるのか。キャンプ場が目にはいるが誰もいなかった。ホテルが目に入り迷わずチェックインした。今日は朝からゴールしたらとんでもなくいい天気でいいキャンプ場でなければ、ホテルと決めていた。7日振りに風呂に入りたかったのだ。水温があれば川でどうにでもなるのだけれど、氷水みたいな川では体を洗う気にもなれない7日間だったのだ。河原にホテルがありここがゴールで昨日からテントや全身がビショ濡れだったのでキャンプはしたくなかった。ホテルにはシャワーもあるし・・。

ホテルのカウンターには誰もいなかった。バーにいくと怪しく、危ない雰囲気だったが自分はびしょ濡れで笠をかぶっていたので怪しさでは負けなかった。カウンターの奥からいきなりムースの様な女が出てきてビビった。B.W.Hどれも2mはありそうな巨体はバーの怪しい暗闇ではムースに見えて不思議ではなかった。バーで、チェックインしたら、河原から3回に分けて荷物を部屋に搬入した。最後にカヌーの空気をぬいて川旅の無事を感謝しビールで祝杯をあげた。

ホテルの部屋の中、自分を含め全てビショ濡れ。テントやカヌーその他を全て部屋で干した。初めてだ。本当に異様な光景。バスルームで火災報知器に気を付けながら、飯をつくり、ビールを飲みながら、風呂に入った。7日ぶりでとても気持ち良かった。

ベットに寝転がると、もう熊や狼に脅える夜ではないと安心しすぐ眠くなってしまった。頭の中ではこの旅の光景を何回も思い出していた。


9/14 朝11時ころwhitehorseから迎えの車が来てまた3時間くらいかけてwhitehorseに戻った。
午後のvancouver行きのチケットでユーコンに別れを告げた。飛行機の席が窓側だったので、ユーコンの景色が良くみえた。カナディアンロッキーの上空では山々の雪がとても奇麗に輝いていた。vancouverに着いて初めて地球の歩き方を開いた。一番安いBP一泊15$に予約を入れた。

9/15 午前中は帰りのチケットの手配。午後は夕食に豚汁が食いたくなったので食材を探しながら市内観光。約2時間で全ての食材が揃った。お米1kg入れて全部で30$くらいだった。BPに持ち帰り調理。そこに住んでいる若者はみんな素直によろこんでいた。

9/16 一日暇なのでwhisrerに観光。スノボはできなかった。ラフティングやジェットボードも期間が合わず出来なかったのでヘリの山や湖の観光。BPの若いお姉ちゃんとずうっと一緒だった。が何も無し。

9/17 帰国

ユーコンは川幅がすごく、空がでっかい。 カヌー旅での一人として随分大きな自然の中にいる自分を認識した。キャンプにしても初めての経験が多く、今までとはまったく違う川旅を経験した。

毎夜、毎夜、熊や狼に脅えながらのキャンプでも盛大な焚き火や星空が楽しませてくれた。晴天の夜空は2回しかなかったが、まだ見たことがないオーロラに対する興味は眠気には負けてしまった。もしかして、自分がテントの寝袋に潜り込んだ時、大空に輝いていたのかも知れない。今回の旅で楽しみにしていたオーロラは遂に見られなかったが、また今度の楽しみにする事にした。白頭鷲やビーバーは毎日見たが、ムースに3回も会えたのはラッキーだった。3000kmも河口から遡上して、とある場所(瀬)を選んで産卵しているサーモンにも感動させられた。ムースみたいなあんな大きな

哺乳類が河原に現れるなんて・・なんて偉大な自然なんだろう。自分(人間)はちっぽけな存在だ。自然のなかでの自分は悪魔でストイック、謙虚な気持ちで旅をしなければならなかった。

素直にそう思った。道中読んでいた新田次郎「アラスカ物語」これは良かった。ちょうどゴールのカーマックスで読み終えた。今度はユーコンでアラスカに入りたいなああ!

偉大なるユーコンまた行かねばなるまい・・・・。

PS: コールマンかダンロップのテントメーカーにお願い。新製品のテントの名前は「ユーコン」紛れもないユーコン旅仕様のこのテントは熊が乗っても壊れず、テント内で食事をしても匂いを発しない。勿論、小型計量で狼防止装置も付いている。 作ってくれないかなあ!