第6話 大団円

長良川の水に、男を磨かれいい男になったオラオラ隊。

さらば長良川。また会いにくるけんな!


オラオラ隊奮戦記 6 『大団円』

『!』
 突然、
BOYが身をのりだした!
『あれ!今!』
『何!?どうした?
BOY!』
 土手の上方に目をやっている。
『いま、パドルをもった男の人がみえたような・・・』
『なにい!?ホントか?』
 見上げる。  そこからガサゴソとブシュを掻き分けあの逞しい漢が現れた。

シュウサク!』
 照れ笑いを浮かべながら、土手をおりてきた。
『やあ!』

やあ、じゃないだろう、おまえはまったく...

『無事だったんスかー』 とBOY
『おまえ・・・・』
『あかんわ。かなりながされたぞ』  とはにかむ
シュウサク
『いやあ、やっぱりすごいわ!』

なにがすごいわだ!このやろう!心配したじゃんかよう!
 話を聞くと、テトラの瀬で沈をしたあと、フネを失ない下流までながされたようで、ここまで遡行してきたらしい。
『フネな、どっかいってしもうた』と情けなさそうにいう。
 
BOYがあわてて、下流を指差した。
『あれ!あれ!拾いました!』
『なにい!ほんま!?』 指したほうの岩を攀じ登る。
『おお!無事か!よかった』

 再会を喜びあう俺たちの声がとどいたのかハテルマもやってきた。
『いやあー。無事だったの〜?よかったねえ〜!』
 談笑がつづく。いままでの心配が吹き飛んだ俺たちは、元気を吹きかえし、それぞれの体験談に花がさく。
『あそこのテトラ危なかっただろう?』 と俺。
『そうかあ?そうでもなかったぞ、でも乗り切ったとおもたら、やられたわ』

生きていた周作!笑うBOY

シュウサク
『いやあ、すごいッスよ。長良川はやりますよ!この前とは雲泥の差っスね!』
 と
BOYがしきりに感動している。
『凄いだろう。これが長良川なのだよ、
BOY
 と
オレがあいずちをいれると、ハテルマも一言。
『おもしろいけど、ちょっとコワイね』
『・・・・』
『ね?ねっ?』

首を小鳥のようにあっちこっちに動かして同意を求めるハテルマ。 爆笑!
 そうだな、ちょっと怖かったよ・・・
ハテルマ
 落ち着いたところでぽつりと
シュウサクがもらした。
『いやな、フネから離された時は、ほんまアカンとおもたわ・・・』
 激流の中でつかんでいた疾風怒濤号をもぎ取られたらしい。 フネの浮力が一番大きく、つかっまっていればストッパーに引き込まれにくくなるのだが、身ひとつで放りだされるた時は生半可ではいかない。

3年前、やはり俺もこの川で死ぬ思いを味わったことがある。 ぐりんぐりんにされ、たらふく水を飲むはめになった。 その気持ちはよくわかる。 今回のコースも予め5月にBOYと下って下見をしているが、本来の水量を取り戻した長良川の豪快さは筆舌に尽きる。やはり、誰でもを連れていくというわけにはいかないのだ。 僕は、長良川本流を下る前に必ずみんなに吉田川で川流されを体験してもらうことにしている。3級の瀬にライフジャケット一丁で突っ込んで水を飲んでもらう。 流れの中で下流に足を向けそれを出来るだけ水面まであげて、岩なんかの障害物を蹴ってにげる練習をしてもらう。こうすると、岩に当たるのは十分厚い肉で保護されたお尻なのでダメージが小さいのだ。沈したときの練習だ。これを体験したかしないかが実際の流れのなかで沈したときにものをいう。パニックに陥らずにすむ。

それでも、この本流のストッパーウェイブの強烈さは味わったものだけにしかわからない。 その連続する瀬の中を延々3キロちかくも流されたのだ。 それもたらふく水を飲みながら・・・・この男は・・・
 今日、下る行程の半分近くを流されたことになる。 
シュウサクという男の逞しさをあらためて思い知らされた。
 『あかんとおもたぞ・・・』
 めったに弱音など吐かない男だけにポツリと洩らした言葉に不思議な重みがあった。

再会して元気を取り戻した俺たちは意気揚々と出発。
 今日のゴールの亀尾島川との合流地点までもうすこしだ。
 冒険は30分もすると日常になる。

激しい瀬と戦ってきた男たちは波にもなれ、笑顔で次々と瀬をクリアしていく。
 前方に法伝橋が見えた。橋の下の大きな瀬を突き破って法伝淵に到着。
 産卵を終えたサツキマス(シラメと呼ばれる)が秋には海へと下る。
 銀色に色を変えたサツキマスはこの淵で一服していくという。良い淵だ。
 右岸の巨大な岩の門から清流、亀尾島川が合流。終点だ。
 波にフネと身体と心を現れた男たちの笑顔のなんと輝いていることか。
 言葉にならないがその目がすべてを語っている。
 大きな川原に近づいていくと、
たてちゃんのもやんが丁度高い土手をおりてくるところだった。土手の上には河口堰反対の大きな看板が見える。

『おーい』
『オーイ!』
 と手をふりあう。上陸。
 
BOYシュウサクハテルマと交互に握手。肩を抱き合う。
 
のもやんたてちゃんからオニギリの差し入れ。ほおばりながら歓談。
『いやー、よっかたっスよ〜、この前はここまで4回沈しましけど、今回3回に減りました。いやあ俺、成長したんすねえ〜ヤッパ!』
 と大はしゃぎの
BOY

再びハテルマが震え出した。 岩におしつけ笑いあう。 岩にしがみついたハテルマがほっとした表情で呟いた。
『いやー、ほんまよかったわー、生きてるっていいねえ。これが生きているって感じかなっ!』
 一同大爆笑! 最高の一時。
 後で
のもやんたてちゃんがこっそりもらしてたが、この時ほんとに俺たちの顔は輝いていたらしい。羨ましかったとのこと。
 すまんな。二人とも。今度またいっしょに下ろうな。

今日、帰らねばならないシュウサクを駅までみんなで見送りにいくことにする。 これぞ由緒正しい日本の田舎の夕暮れといわんばかりの風景のなかを、駅に向かってゾロゾロとあるくオラオラ軍団。
 道路一杯にひろがってGメン’75ごっこ(知らない人、ごめんな)しながらそぞろ歩き。みんな子供にもどっている。こんな夕暮れを迎えるのは何時の日以来だろう。

相生駅に到着。 さっそく駅前でビールを買って酒盛りをはじめる。 無人駅のホームて車座になってビールを煽る。 駅には今日で最終日となる郡上踊りに繰り出すひとびとがちらほらと集まり始めた。 しかし、これ以上のしあわせはないとばかりに、ゆるみっぱなしのヘラヘラ笑いを満面に浮かべた怪しい軍団をおもしろそうに暖かい目で見守ってくれている。

先に下り電車(郡上・白鳥方面行き)がホームに到着。電車の中は踊りに向かう人でいっぱいだった。 乗客みんなが笑っている。 俺たちも笑っている。 下りてきた車掌さんも笑っている。なんだかいいなあ。 トイレにいっていたシュウサクが赤い顔をして戻ってきた。 酔いがすぐ顔にでてしまうのとやっぱり照れ臭いのだろう。
 岐阜方面行きの上がり列車が到着。
『はな、行くわ!』
 みんなと握手をかわして周作がのりこんだ。

『すごい照れてたな。シュウサクは』  と、たてちゃん
『タイチョー!』 
BOYの目がいたずらっ子のように輝く。
 その合図にうなずく。 そうだな、どうせならもっと恥ずかしくなるような事をしてやろうじゃないか! みんなで目で合図。うなづきあう。
 扉がしまり列車が動き始めた。 動きはじめた列車を追い掛けて全員が駆け始める。 線路に飛び下りる
BOY。そのまま列車を追いかける。 列車が遅すぎ追いついてしまい、スローモーションのようにゆっくり駆ける。 ほかの面々もてんでに手を振り回しながらゆっくり走る。

『おーい!』
シュウサク〜』
『元気出な〜』
 赤い顔をさらに赤くした
シュウサクは列車の後部運転席に腰を下ろして、照れながら嬉しそうに、小さく手を振り返す。とっても恥ずかしそうだ。

 列車はようやく加速しはじめ、それにつれてしだいにオレらも駆け足になる。お客さんも車掌さんも笑っていた。 右へ曲がりはじめた汽車がだんだん小さくなっていく。
 カーブの先で見えなくなるまで小さくなった
シュウサクが手を振っていた。
 こういう別れもいいな。  さらば、友よ・・・

川原に帰ってテントを設営。するとまたまた大粒の雨が落ちはじめた。毎夜の雨で焚き火ができず、欲求不満のたまりはじめたBOYがテントの中で焚き火を強硬。が、あまりの煙たさにみんなたまらず外へ。 ハテルマをともなって車で再び郡上八幡へ。 大雨の中、徹夜踊りの環に飛び込む。

濡れた着物がイイカンジ!

『いいわー、しんじられんわー』
 と感動する
ハテルマ。よかった、よかった。
 こうして3日目のも終わりを迎えるのであった。

8月17日 四日目 最終日 (くもりのち大雨)

昨夜の大雨でコバルトブルーだった川のながれも一面茶色の濁流になっていた。
 本当なら、今日も川下りを続ける予定だったが中止にする。
 清流、亀尾島川も轟々音をたてて流れている。潜水もままならない。
 まあ、のんびり温泉に入って帰ろうということになった。

もう今日で5日も風呂に入っていないが、毎日清流で磨かれた身体はぜんぜん臭くなっていなっかった。 温泉の露天風呂はちょうど昨日、周作と再会した渓谷に面していた。 靄の立ち込めた長良川を、火照ったからだを冷ましながら眺める。 そのとき、雲間から陽がさした。幻想的な雰囲気につつまれてほんわりする。

いいな。
 風もきもちいいな。
 やっぱり、長良川だなあ。
 眼下を流れる川に思いを馳せる。

ありがとう、長良川よ。
 また男を磨かれてしまったな。
 心から感謝した。
 いい男になったオラオラ隊はいろんな想いを胸に帰途へついた。

さらば、長良川、そして我が友よ
                 
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