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第5話 遭難…!?

雄々しく漕ぎ下っていくシュウサク&疾風怒涛号。これが、彼の最後の勇姿になるとは、この時は誰も思っていなかった…

オラオラ隊奮戦記 5 『周作遭難!』

のりこんだとたんハテルマ
トミトミ、右の空気がない!』

振り返りながら悲痛な叫びをあげる。
 確かめてめてみると、たしかに右舷のエアチューブがパフパフだった。
 右舷の喫水があがり、へにゃへにゃの舷側からどんどん水が浸水してくる。 げげげげげ、ヤベー!でもしょうがない。
『だいじょうぶ、だいじょうぶ、さあいくぞ』
と返した瞬間沈。!

ぜんぜん大丈夫なんかじゃないぞ! ハテルマは2回目の沈なのでちゃんとフネにしがみついていた。 フネをひっくり返して乗りこんだ。流れは速いが波がないので、簡単に再乗艇できた。下流でBOYシュウサクが着岸していたので、フネをつける。 みんななんとか無事だ! よかったよっかたと笑いあう。 シュウサクのフネに取りつけてあった予備パドルを取り出す。

友釣りの釣り人を大きくまいて出発! 前方に郡上のヤナ。それを避けて、二股の流れを左に行く。 急に川幅が狭まり、また鋭い波が立ちはじめる。そしてまた大きな瀬が迫ってきた。 落ち込んだ流れが白い波は立てそのながれが左岸のテトラポットの護岸にもろぶつかっている。一番危険なパターンだ。波は益々高くなり、次々に水が浸水してくる。 先頭のシュウサクがホワイトウオーターに突入。

みるみるテトラの方へ。 シュウサク!危ない!もっと右だ! うおおお! ギリギリでかわした。
 が、出口でみごとな転覆!う〜ん!ハクリキあるなあ!!! 
BOYも突っ込む。
BOY!右だアー!右にいけええ!』
 ありったけの声で叫ぶ。

真ん中、右方より進入。テトラをかわしたところでまたまた見事で豪快な沈!
 次は俺達の番だ! 突入!
『ホウ!ホウ!ホウ!』

パンパン波を乗り越える。
 瀬の中で、フネは面白いように竿立ちになった。
 クリア。 やったー・・・・
 とよろこんでいると、横波をくらった。強烈な返し波だ。
 うっぷあああああ!
 とひくっり返ってしまった。ウプププ。
 流されながらすばやくのりこむ。  
ハテルマとの息もぴったりだ。

BOYは川の真ん中にぽっかり突き出た岩にしがみついていた。
 
ハテルマが岩をつかんで、2ハイのフネをビレイ。 BOYの乗り込みに手を貸す。ふたたび、BOYと俺たちはスタート。 さあ、いこう!下流で待っているはずであろうシュウサクを探しながら下る。 相変わらず流れは速く波も高い。たちまち、フネが翻弄されはじめる。 これでもか、これでもか、と激流の中にへたくり落とされたハテルマは流石に慣れたのか、はたまた諦めの境地に達したのか、身体の力が抜けリラックスしている。 いい感じだ。二人の息もピタリとキマッて、難しい3級の瀬もなんなくクリア。 快適な流れに戯れながら、かなりの距離を下った。 しかし、シュウサクの姿が見えない。瀬の度に

『ウホーイ!』
『ウアアチャー!』
 と
BOYの嬌声が聞こえる。
『いいぞ!
ハテルマ
『ふんふんふん!』
『がんばれ!
ハテルマ!』
トミトミ、わかったよ!こう?ねえ、こうなんでしょう?』
 
ハテルマの調子が波とピッタリ会っている。笑いながら、
『ああ!そうだ!』
 と答えた。
トミトミ、おもしろいねー』
 と
ハテルマ。と調子がでてきた。
 だが、そんな元気な3人の口数がしだいに少なくなってきた。
 
シュウサクがいけどもいけどもみあたらないのだ。

俺はシュウサクとは徳島の高校時代からの付き合いになる。
 人生の中で最も多感な時期に出会ったすばらしい漢(おとこ)だ。
 気難しく、かわりもので、いきがってた俺に付き合ってくれた。
 友であり、相棒であり、好敵手(ライバル)でもある。
 唯一無二、そう、ワン・アンド・オンリーの・・・ 今回のオラオラ隊の川遊びでもっとも楽しみにしていたのが、この男と豪快な長良川に挑むことだったのである。

大学院の時代のことだ。1990年度春季高分子学会で発表するために京都を訪れていた俺は、そのとき京都に在住していたシュウサクに会いに行った。再会をはたして、ハイになっていた俺は、からんできたチンピラどもとイサカイを起こした。気がつくと乱闘になっていた。京の北大路5条の交差点の度真ん中。

そのとき肩を並べて戦ってくれた。そのなんとも頼もしいことよ。 2対4。 四方からサイレンをならしてやってきたパトカーにとり囲まれてしまった。 ケンカをふっかけてきたチンピラのほうが血をダラダラ流し、なんかコッチの方が加害者のようだったが・・・ 就職を来春に控えた大切な時に、ヤツは俺の横で戦ってくれたのだ。 コトが終わったあと何事もなっかったかのように、

『おもしろかったな!』
 と自分の浅はかさを反省して落ち込んでいた俺に、かける言葉のかっこよさ。 む〜ん。シビレたね。
オレは。

この男とならと思ってしまいましたね。 めちゃめちゃ強い。この男はなんでも真っ直ぐだ。  気持ちも、信条も、行動も・・・ そしてその動作じたいも真っ直ぐだ。
 瞬発力がもの凄い。キレがある。けど飾らないし、非常にシャイなのだ。
 だから、なんとしても、オラオラ隊にスカウトして一緒に遊んでもらいたかった。
 んで、オラオラ隊のメンメンに紹介したかったのである。
 そんな、逞しい男だから全然心配はしていなっかたのだが・・・
シュウサクさん大丈夫ですかねえ?』  とBOY
『大丈夫だ。殺したって死なんぞ!あいつは!』
 と受け流してきたが、これだけの距離を下っていないとは・・・。 さすがに心配になってくる。 しばらくするうちに3人に,全く会話がなくなってしまった。
BOYハテルマがかなり真剣に心配している。 

渓谷に入った。瀬また瀬の連続。 心配する間もなく厭おうなしに戦わねばならない。 しかし、頭から落ちてくる波をかぶりながら、もしかしたら、この中を流されていったのかもと、思うといてもたってもいられなくなる。

『泡瀬』と呼ばれる瀬。それが長良川の瀬の特徴だ。滝のような急傾斜をすべり落ちた水が深く潜りこんで川一面に白い泡を撒き散らす。 ピチピチとサイダーの炭酸のように浮いてくる。 転覆するとこういった空気を多量に含んだ水の中では、ライフジャッケトは本来の浮力が得られない。また、浮いていたとしても波が・か頭上から落ちてくるため息ができなくなる。さらに落ち込んだところでは、強烈な返し波が逆巻いていて、まるで洗濯機の中に、たたき込まれたようにぐるんぐるん掻き回される。 浮力と底に引き込まれる力とがつりあって、抜け出せなくなる。いつまでも、瀬の中でぐるぐる回っているという嬉しくない事態に陥ってしまうのだ。

波にもみくちゃにされ、水を飲みながら浮き上がらないシュウサクの姿が頭に浮かんだ。 いや、まさか、あいつにかぎってそんなこたああるもんか!悪い予感を振り払う。

なんでもないところでBOYが岩にひっかかって沈。
 
ハテルマBOYとフネを掴んでもらい、そのまま漕いで岸にむかう。
 水につかったままひっぱれれていた
BOYが声にならない叫びをあげた。
『あ!あれ!あれ!』
 指さした方向をみると、上流から黒いかたまりがプカプカ流れてくる。
『!?』
 それは、まぎれもなく
シュウサクの疾風怒濤号だ!

裏返ったままだ! BOYに上陸するよう言って、フネを回収にいく。 怪しげな疾風怒濤号がちかづいてきた。殆ど水没している。 まさか、シュウサク・・・・
 心臓がドキドキする! 
ハテルマが待ち構える。つかまえた!
『ひっくり返したらくっついていたなんていやだぞ』
 と、おどけながらひっくりがえしみる。・・・・良かった! カラだ! ふう〜。
 回収して左岸につける。上陸してカヌーのなかに入った排水。
 フネが上流から流れてきたということは、ヤツはまだ上流にいるのか。
 とすると、どこかで追い抜いてしまったか?  何処かでひっかかっているのだろうか。
 横で
ハテルマがガチガチ震えだした。

『だいじょうぶか?ハテルマ?』
『だいじょうぶ、だいじょうぶよ。でも・・ちっと寒いわ』
 くちびるが紫色になっており、鳥肌がたっていた。 かなりやばい。
ハテルマ、そこの岩に腹這いになれ』
 こういう時は、岩や砂の上に腹這いになって暖をとるといい。
『こうか・・・うん、あったかいわ』
 上からライフジャケットをかけてやり、手足を擦ってやる。
 それでも震えはとまらなかった。
 そうか、
ハテルマは全然動いていないのだ。

岩に張り付いて暖をとるハテルマ

ただ、フネにしがみついているだけで、そんでもって、ボコボコ水に落とされれば、そりゃあ寒いわなあ。身を硬くして目を閉じて震えている。

『どうだ、少しは暖かくなったか?』
 上流で
BOYは自分のフネの水だしをしている。
『川の水ってつめたいなー』

なさけない顔でいう。

 ハテルマは石垣島生まれの沖縄育ちだ。 あのエメラルドグリーンの珊瑚礁の海で泳ぎ育った男だ。 さすがに山々からの水を集めた川の水の流れは冷たそうだった。 目を閉じて静かに身体を横たえている。 ハテルマをそのままにして、BOYの所へ岩を乗り越えていく。
『だいじょうぶかー』
『ハイ。でも、
シュウサクさんどうされてしまったんスかねえ?』
『ああ。フネだけ流れてきたんだから、どこかで追い抜いてしまったんだろう』
ハテルマさんは?』
『うん、大丈夫だ。今むこうで岩に寝かしつけてきた。水が冷たいって震えるんだ。 やっぱり、沖縄の男なんだな』
『いやー、
ハテルマさんいいッスよー。やっぱりモロむこうの人と同じですもん』

BOYは俺と北海道で出会った後、南下して沖縄本島をはじめ、石垣島、西表島などを回っている。むこうで半年以上放浪旅をしてきたのだ。日本最南端の波照間島、最西端の与那国島まで足を延ばしている。珊瑚礁の内海(リーフ)で魚を追い、自給自足の生活を送ったのだ。だから、沖縄とか波照間とかいうコトバをきくと、目はキラキラ、そのあとうっとりしてしまうのだ。どんないいことがあったのやら...
BOY...もう少し、休んでいこう。シュウサクを待ちたいんだ・・・』
『いいッスよ....でも....だい..』
 そこで言葉を飲み込んだ。 ヤツも悪い予感を振り払おうとしている。 そんなことはないと・・・ しばしの沈黙。  
シュウサク...おまえ... まさか....