カリ・ガンダキ川 挑戦日記

カリ・ガンダキ川
第一章『憧れのネパールへ』

 1996年の黄金週間。僕はネパールへとむかった。
 当初の目的はネパールの東北部、クーンブ・ヒマール地方へのトレッキング。
世界一高いエベレスト(ネパール名サガルマータ、チベット名チョモランマ)を一目この眼で見たい。そんな思いから計画したネパール旅行だった。

 一般のトレッカーがエベレストにいちばん近づくことのできるエベレストB.C.やエベレストのビューポイントとして有名なゴーキョピークにいくのには、ネパールの首都カトマンドゥから飛行機で麓の村、ルクラに飛んでも、往復で15日から20日はかかる。  ゴールデンウィークの前後をなんとか1日づつ休んで11連休にしても日数が足りない。ネパールまでの移動や、カトマンドゥ〜ルクラ間のフライト予備日、高所順応日、パーミッションの取得日を考えると、タンボチェと呼ばれる途中の村までの往復が精一杯の行程だ。
それでも、そこまでに3回、エベレストを目にするチャンスがあるし、高所山岳民族で有名なシェルパ族の故郷、ナムチェにも立ち寄れることもできる。タムセルクや、カンテガ、アマダブラムといったクライマーなら舌嘗めずりしそうな魅力的な山々を眺めながらのトレッキングを満喫できるとあっては、旅行準備をする僕の胸の鼓動はいやがおうでも高ぶったのであった。

ところが、出発間際になって、帰りの飛行機便がいきなりとりやめになったとの報せがロイヤル・ネパール航空から届いた。

優先的に別便に振り替えてもらえるとはいえ、貴重な日数が2日少なくなってしまった。

これでは、エベレスト街道は夢のまた夢....えーい。ちくしょ〜!!!

捨てる神あれば拾う神あり。そんな時、魅力的なプランが出現したのだ。 雑誌カヌーライフの1996年春号のネパールの川下りの記事。なんとタイムリーなんだ!そうか!俺には川もあった!よし、これだあ!先発してネパールを旅行中の奥様からかっかてきた「どうするんよコール」に、リバーツアーのセットアップしてくれいとお願いしたのだ。

カヌーライフの記事を読むとクラス4とか、クラス5の文字がばんばん出てくる。

なんやそれ〜、これって日本の川の何級くらいなんやろうか? 黒川晴介さんの文章にヒマラヤの川は日本の川とスケールが全然ちがうとある、こりゃあ行ってみるしかあるめい。最後まで、カヤックでやるか、ラフトにするか迷ったが、そうたびたびはいけないだろうからカヤックをセレクト。
30歳記念のささやかなチャレンジだ。紹介文の三河川中、中級グレードの、カリ・ガンダキ川をピックアップした。
 がぜん調子がでてきたぞ。はーやくこいこいGW!

4月26日    松本駅〜( あずさ) 〜成田空港〜シンガポール
 深夜にシンガポールのチャンギ空港で横になる。明朝、タイのバンコクまでフライトがあるので、出発まで床でねころがる。チャンギ空港はきれいで、床はふかふかの絨毯。人の目を気にしなければ寝心地はいいし、安眠確実だ。まわりには、パッカーの先客たちの足が椅子や柱の陰からにょきにょきはえていた。南国の国にありがちの例にもれず、ここでもガンガンに冷房を効かしていて、赤道直下の熱帯シンガポールで寒さに震える一夜を過ごすはめになる。

4月27日     シンガポール〜バンコク〜カトマンドゥ
 早朝、シンガポールからバンコクまで飛び、ロイヤルネパール航空に乗り換えて、ネパールの首都カトマンドゥへむかう。こんなに、ちょこまか乗り継ぎしなければならないのには理由がある。
それは日本の海外旅行者が多くなるトップシーズンに低料金で旅するためだ。 昨年、4月に結婚した僕は新婚旅行の帰りに、タイにたちよって、タイ・バンコク(BKK) 発、日本(NRT) スットプオーバー〜ロサンンジェルス(LAX) 〜日本( またまたストップオーバー、今の僕の状態。正確には旅行中ということになる) 〜バンコクの1年オープンの往復チケットを購入した。現在、バンコク・香港の航空チケットが世界中で、いちばん安い。(最近は時期を選べば、日本でもかなり安い格安チケットが手に入るが)円が強かったせいもあるれど、このバンコク〜ロサンジェルス往復チケットの値段はは9万円前後だった。 これで、1年の間にロスアンジェルスとバンコクの往復が可能になる。
日本の場合、海外旅行は年末年始、G.W.お盆近辺に旅客が集中するため値段が急騰する。ところが、このチケットならトップシーズンでも、買った料金のままだし、最初の出発日以外の予約は自由に変更が可能なのだ。但し、難点は予約が入りにくいこと。
出発3日前にOKなんてのは、しょちゅうだ。そのプレッシャーに耐えうる太い肝っ玉と、航空会社にプッシュを繰り返すねばりが必要不可欠だ。今回も、1月にロスアンジェルスからの、( この時はメキシコのラパスへ飛んでBAJAカリフルニアのスプリットサント島でシーカヤックの旅を堪能)帰り分のチケットでバンコックまでやってきたというわけだ。
 もちろんネパール旅行の帰りもバンコクで同様の航空券を購入し、夏に北米の旅行( ユーコンやアラスカ、ヨセミテ等) を、冬には乾期の東南アジアを起点にした旅行をやる予定だ。
気候が北半球と逆転するニュージーやオーストラリアへ足を延ばすというのも面白い。
野宿や安宿泊が基本の僕等の旅には航空運賃が大きなウエイトをしめる。
しがない安月給サラリーマンの我が家が地球感動旅行をやれる少ない方法のひとつだろう。僕の長期休暇の1か月前に奥様が先発し、自由旅行しながら、観光、買い物(これで、アウトドアグッズを安く仕入れ、船便で日本へ送る)、情報収拾、現地でのアクティビティのセットアップをして、そこに僕が合流するという旅のスタイルを結婚してからずっととっている。
 彼女にとって自由旅行は息をするぐらい自然な行動だ。旅行会社で働いていたこともあるので、旅行のプランニングはおちゃのこさいさい。
自由な旅が大好きで、いかに安く有意義な旅行するかを考えるのを生きがいにしている。そんな好奇心旺盛な彼女と、観光なんかつまんねえぜ!
もっとアクテビテイを!ウイルダネスはどこだ!
野外生活一本槍!の僕との間には、このスタイルがうまくいくようだ。
旅先での再会は少しどきどきするのもいい。

 夕闇迫るカトマンドゥ・トリブヴァント国際空港におり立った。

 期待していたヒマラヤの景観は厚い雲が邪魔して見えなかい。

 神々の王座(ヒマール)との対面は先へもちこしだ。

 空港にはアンナプルナ方面のトレッキングを終えた奥様が、ポカラからトンボがえりで、迎えにきてくれていた。あいかわらずの、Tシャツに楽々パンツ、ビーチサンダルという由緒正しいキャンパースタイルが泣かせる。この姿をみると、5年間もOLをしていた女性にはとても見えない。
海外にでると、ただでさえ元気な女性(ひと)が、さらにパワーUPしてしまう。もう手がつけられねえや。こりゃ。
 なぜだか髪がしっとり濡れていた。おそらく久しぶりの再会にそなえて、シャワーなんぞ浴びちって念入りに身繕いしてきたに違いない(想像)。
可愛いとこあんなあ。
『こっち、こっち〜!』
 回りをものめずらしそうにキョロキョロしているオイラの手を引いて、ぐいぐい人込みをかきわけていく。新婚旅行先のイスタンブールであやしい絨毯売りオヤジやカイロのチャイ屋の怪しい水パイプ髭オヤジにと、次から次へと引っ掛り、ことごとくつれてかれてしまった前科があるオイラのことが、よほど心配なのだろう。
『コレ、コレ!これがいちばん安い!』
 と交渉済のタクシーに乗せられ、喧騒のカトマンドゥを走る。ツーリスト用の安ホテルが多い市の北側のタメル地区へ。ホテルの部屋でキャンプ道具や、水中めがねやシュノーケルの遊び道具を下ろし、夜の路上へとくりだした。
初めて迎える異国の夜はなぜかドキドキしてしまう。
ツァンパと呼ばれる粟にお湯を注ぐ酒を飲む。酒をストローでちゅうちゅうやるのは変な感じだが、うまい。アルコール度数は少ないみたいだけど、なくなるとそこにまたお湯を足してくれて何杯も飲める。
ずっと酔っ払えるかどうかは疑問だが、貧乏なのんべには最高の酒だあ。
心地良い酔いと旅の疲れかその日は泥のように眠った。

ネパール川旅日記2 「挑戦!カリ・ガンダキ川ダウンリバー」
1996/4/28(晴れ)
早朝ホテルを後にする。ツアーの待ち合わせの場所にいくとカトマンドゥからの出発組の陽気なイギリス人ふたりとオーストラリア人のちょっとアンニュイなお姉ちゃんがいた。挨拶をかわしあう。
本日はカリ・ガンダキへの起点となるネパール第2の町ポカラへの移動日だ。 湖とアンナプルナ連峰の展望で知られるポカラまで、カトマンドウから西へ200km。途中濁流のトリスリ川と沿って道路は走る。
ポカラまではバスで6、7時間の距離だ。本日はポカラで宿泊。
いよいよ明日から、カリ・ガンダキのダウンリバーが始まる。

1996/4/29(晴れ) カリ・ガンダキ川1日目
早朝、ポカラからカリ・ガンダキ川に向けてバスで出発。出発前に昨日は厚い雲の向こうに見えなかったマチャプチェレが顔を出した。魚の尾(側面からみると頂の形がそっくり)を意味するマチャプチャレという名のこの山は標高約7000m。標高およそ800mのポカラからみると恐ろしいぐらいの角度で天空に向かってそびえ立っている。ピラミッド型の美しいマチャプチャレの勇姿はポカラのシンボルだ。ネパールに入ってはじめて目の当たりにしたヒマール(神々の王座)姿にバスの中でおおはしゃぎの僕を恥ずかしそうに奥様が見ていた。ここに滞在しているツーリストには見慣れた光景なのだろうが、初めてその雄姿を目の当たりにしたオイラには興奮・感動の渦に巻き込まれてしまった。 オンボロバスは峠を越えアンナプルナ内院の大氷河から流れ出すモディー・コーラ川沿いにカリ・ガンダキへと蛇行しながら下り降りていく。チーフガイドのネパール人、ミーンが僕のところへやってきて、モディー・コーラ川を指差して雨季には凄いワイルド・リバーになるから、今度下るといいよと進めてくれた。
カリ・ガンダキの語源は「女神のカリ」。なんかちょっといやらしい。
水源は8000m級のヒマラヤ主稜線のさらに奥、チベット周辺山脈のタコーラ地方。
最近になってようやく開放された秘境ムスタン王国に源を発する。
そこから8091mの標高でそそり立つアンナプルナと標高8167mのダウラギリの巨人達(ジャイアンツ)の谷間を流れ下っていく川である。アンナプルナとダウラギリ、この二つのジャイアンツの頂の間は直線距離でたったの35kmしかない。
カリ・ガンダキ川沿いの部落がわずか1200mであることを考えれば、8000m峰からカリ・ガンダキへと切れ込んだ谷底の息を呑むような深さを実感できるだろう。
ヒマラヤに降る大量の雪は想像を絶する年月を経て大きな氷河を形成する。 アンナプルナ、ダウラギリの二つのヒマールの形成する氷河から溶け出した大量の水が、女神カリへと注ぎ込み、ワイルドウオーターとなって荒れ狂う。水量と流れのパワーは推して知るべしだ。
女神カリはナラヤンガート付近で首都カトマンドウから流れてくるトリスリ川と合流し、インドに入って母なるガンガーへと注ぐ。
今回、下る区間は商業ラフトツアーコースのNaya Pulから Rainaig-natまでの92km。出発地点からゴールまでは車が走る道路はないので、搬送などを考えると自然、この区間にツアーは限定されてしまう。

今回僕たちが、ラフトツアーを申し込んだ会社はGreen River Adven-tures (P) Ltd.は一応、カトマンドウとポカラにオフィスをもつラフトカンパニーだが、ことカヤックツアーに関してはお世辞にも、良いとはいいがたい。

奥様に国際電話でセット・アップをプッシュしたULTIMET DESCENTS NEPAL社やHIMALAYAN RIVER EXPLORATION、EQUATOR EXPEDITIONの3社は値段が高いとか日程が合わないとか、同じ行程なのに1日長い(4泊5日になる)という理由(彼女によると同じところを1日少なく行くことができ、その1日を観光にまわせるじゃん!得だ!ということになるらしい)で除外されてしまったのだ。

長期の海外旅行してきた彼女は倹約家で判断基準の優先順位はまず値段になってしまう。それは別に悪いことではなく歓迎すべきことだ。けど、初のビックリバーで久々のカヤックの僕にとっては、カヌーライフで推薦されていたN.O.C.のガイド達のサポートやアドヴァイスを期待していただけに、出発する前日に見せられた装備と内容には唖然としてしまった。
ぺこぺこの今にも割れそうなダンサーと先のおかっけたダブルパドル、ほころびたスプレー。ウエア、シューズのたぐいっはまたっくなし。
他社の店先においてあるバンデイットやデイアブロなんかのピカピカの艇をまざまざと見せつけられては、はるばるネパールくんだりまできて、なぜなんや!と思いっきり悲しくなってしまう。
両側のかけたパドルはあんまりだから取り替えてくれ、と頼んだら、ないの一点張り。
結局カトマンドウからとりよせてもらうことでなんとか落ち着いたが対応があまりにひどい。

他のキチンとしたラフトカンパニーのオフィスにいくと、すでにカリ・ガンダキへのツアーはその日の早朝出発していたりで日程が合わない。それでも川の情報を聞くと親切に教えてくた。
ツアー内容もしっかりしている。ますますもって残念に思う。この状況ではいくらおいらでも「隊長、大丈夫っていったじゃない、
どこも同じようなもんでしょう?」と言ってのんきに構える奥様に、文句のひとつもでちまう。すると、「じゃあ、やめる?」ときた。もう心はカヤックに傾いてしまっているので、いまから、ラフトに変更するのも残念でならない。
俺も男だ、カヤッカーだ、腹を括ろう。

翌朝出発前にやってきたバスの屋根に積まれていたのは片方だけ先端の折っかけたボロパドルだった。
わーい。一方はまともだ!
もちろん予備パドルはなし。
バスが到着するなり、「大丈夫、パドルは届いたよ、もう積載したからはやく出発しよう」とすぐに乗りこませようとするので、怪しく思って屋根に這い上がり確認したらこれだ。嘘ばっかりだ。もうあんまりだ。カヤッカーのみんな、悪いことはいわん。Green River Adventuresだけはよした方がいい。
サポートカヤックがつくとのことだったが、これもまっかな嘘で結局カヤックは僕一人だった。カヤック1艇、ラフト2艇のガイド3人を含んだ総勢15人でのツアーになった。
いったいどんなことになるのやら。んなこんなのすったもんがあって、後にオンボロバスでガタゴトとカリ・ガンダキ川を目指してつっぱしっているのであった。途中チャイ屋で一度休憩をはさんで、5時間くらいで出発地点に到着した。

悪いことは重なるもんで、バスの屋根から荷物おろすのを手伝った際に、ズタ袋に入った芋(最初はなんだかわからんかった)を屋根から一人で受け、左肩の筋を思いっきり傷めてしまった。(驚異的な重さの落下エネルギーをもろに肩で受けてしまったのだ)
ウオームアップをするだけで肩で激痛が走った。チーフガイドのミーンがカヤックに載ってロールをやってみろというので、やってみる。
数回起きただけで、肩が動かなくなってきた。おたおたしている僕に変わって乗りこんだミーンがシャープな動きでストリスームイン・アウトを繰り返す。
さすがにうまいもんだ。巨大ラフトを膨らましたあとでランチになった。パンに缶詰、野菜、チーズの簡単なサンドイッチ。腹につめこみながら、いろんな不安が頭をよぎる。川の事、肩の事、不安は期待と表裏一体だ。
やれるところまでやってみるさ。奥様にジャケットとヘルメットつけながら、自分のテンションを高めていく。
スタート地点は2級ぐらいの瀬で、ダンサーは軽快に流れ出しだ。
パドリング練習のはじまったラフトといっしょにゆっくりにながれ下る。 先頭はミーンの操るラフト(これに我が愛しの奥様も載っている)、その後にカヤックの僕をはさんで、2艇目のラフトとつづく。
川が右に大きく曲がりはじめると、前方から轟音が聞こえてきた。
ミーンが振り返って、「ヘイ!ジャパニーズ!次の瀬はリトル・ブラザーと言ってクラス4だ。
これで、フィリップ(沈)するようだったら、カヤックをラフトに積んじまうぜ!」と大声をあげる。ネパールの川ガキ、ミーンも川にでると顔つきが変わって嬉々としている。
よおおおし、こっちだって日本の激流で戦ってきたんだかんな!
なめんなよ!ホワイトウオーターを飛び跳ねて行くラフトを追ってつっこんだ。もうそこから先は真っ白、何が起こったのかもわからない。サーフィンだなんだの次元ではなかった。想像を絶する波のパワーに翻弄されながら、漕ぎぬけるので、精いっぱいだ。リトル・ブラザーからはきだされると、先行していたラフトの面々の心配そうな顔があった。
とくにおいらの愛する奥様が本当にほっとした顔が印象的だ。ガッツポーズで応える。

肩の痛みは絶頂を通り越して、気が狂いそうだ。しかし、のっけからのラピッドで、パドラーズ・ハイになっちまったおいらの体にアドレナリンが分泌されまくって痛みを痛みとして感じなくなっているようだ。
少しはやるなっという顔のミーンがラフトを進めながら、「今度はもっと大きなラピッドだ。
名前はビック・ブラザー(クラス4+)!」
なにい!もっとすごいのがあるんか!!!!
前方のラフトが踊り始めた。こちらも大岩の間に吸い込まれていく。
ウエーブの頂点からボトムまで一気にすべりおちる。その落差といったら、ビルの3階の高さぐらいはゆうにある。落ち込みの底はビック・ホールとなっていて、四方から大波が落ちてきてもみくちゃにされる。
息ができない。
横波にたたかれ沈してしまった。無我夢中でスイープをいれると幸運にもホールから吐き出されながらロールであがることができた。
もう恐いもんなしだ。体からパワーがみなぎるのがわかる。
岩をまわりこんだエデイで待機しているラフトの横にすべりこんだ。
先頭のラフトは自動排水装置がないのでバケツで水を汲み出さなければならないらしく、ラフトいっぱいに入った水をみんなでかき出してした。
後続のラフトも到着。イスラエルの巨人兄ちゃんジーが目を輝かせ、「ヨシ(オレのことね)!、すごかったぜ!波に消えてぜんぜんみえなくなってたよ!」
と声をかけてくれた。どんな気分?との質問に「Execiting! Unbelivable!」
を連発のオイラ!もうオラオラ状態だ。

その後もクラス3のラピッドが頻繁に現れた。 瀬になれはじめた僕の興奮状態が収まってアドレナリンがきれたとたんに、肩の激痛がもどってきた。もうほとんど左肩は動かせない。あるラピッドの出口で外側にもっていかれて岩に乗り上げひっくりかえった。
濁った水の先にパドルが見える。
ロール!あわてたのか顔が先に上がってしまった。腰の返しも甘い!
一瞬の呼吸の後、もう一度、だめだセットもできない。パニックってしまう!
次の瀬にそのまま飲み込まれ沈脱してしまった。
岸につけ水出しをしてから、リエントリーしようとするが、波のパワーにどんどん本流を流されてしまう。
先行するラフトに追いついてしまった。ヘロヘロの僕の体がぐいっと持ち上げられた。ミーンに首根っこつかまれてラフトに引き上げられたのだ。
そのままへたりこんでしまう。
次のラピッドが迫ってきたらしく、カヤックにはミーンが乗り込んですべりだした。ラフトの艇長はインド系の彫りが深い兄ちゃんジャニスに変わる。面目ない僕はせめてラフトのパドルを手に漕いでみるが、ぜんぜん駄目だ。ジャニスが笑いながら首を横にふってじっとしていろの合図。
肩を押さえたまま痛みに耐えている僕の目にラフトのまわりで、軽やかにサーフィンするミーンのカヤックが軽やかに舞う。
カヤックはこうやって楽しむもんだぜっと言ってるかのようだ。
やぱっりこのクラスの川をダウンリバーするには、もっと、テクニックと経験をつまないともったいない。
新艇長のジャニス君はあまり操船がうまくないようで、難しい瀬では岩にブリーチばっかりしていてる。一度、ラフトがひっくり帰りそうになって肝を冷やした。慌ててミーンがカヤックをラフトにつけて操船を変わる。
乗り手を失ったダンサーは哀れにもラフトにしばりつけられてしまった。

夕方渓谷の砂浜ビーチに上陸して、野営の準備。
このツアーでは2人に1つのテントが与えられている。
3角テントの設置して、チャイをすすっているとこんな深い谷に、どこからやってきたのか、地元の子どもたちが現れた。
じゃれあって、あそぶ。キラキラした好奇心まるだしの目。片言の英語での意志疎通。まるでターザンの会話だ。
やってきた子供たち

夕食までの時間にミーンがやってきて、肩は大丈夫かと聞いた。やせがまんしながらも、痛いよと正直に答える。

「あっちに泉がある。水あびにいこう」
と誘われたんのでついていく。渓谷の上から落ちてくる滝がつくる小川 で水浴び。
つめてえー。でも気持ちがいい。ミーンからネパールの粉石鹸を借りて髪をあらう。
体をふきながらネパールの川について語りあった。
正直にこんな凄い川は始めてだ。凄い!信じられないよと話すと、もっとすげえのがあるぜ、とネパールの他の川の話をしてくれた。
想像もできないグレードのダウン・リバーの冒険談にこっちまで熱くなる。
肩に薬を擦り込んでくれてマッサージをしてくれた。
22歳の彼は少年のような笑みを浮かべていろんなことを語った。
いままでの事。これからの事。
カヤックに乗り込んだパワーみなぎる時もすっげえが、こんな表情のやつも魅力的だ。

スープ、フライドライスなどの夕食。
夕食後、暗くなってからロウソクの炎を囲んでツアーの面々と語らってたら、まわりを蛍が飛びはじめた。
ネパールの奥地、深いの渓谷での夜は幻想的にふけてくのであった。

1996/4/30(くもり時々晴れ) カリ・ガンダキ川2日目
早朝、痛みで目が覚める。寝返りを打つたびに何度も痛みで目がさめた。
今日も、あの激流と戦わなくてはならないのか。自分でたてたプランといえ、きびしいものがあるなあ。
昨日の沈脱が頭によみがえる。かなり弱気になっているようだ。
朝食がなんだったかも思い出せない。

出発準備をしながら、ミーンがやってきて、大丈夫かと聞いてきた。
左肩は少しあげただけでひどく痛む。カヤックをラフトにくくりつつけてラフトのツアーは続けることができる。
が、カヤックを載せたラフトは視界が悪く、対岸の視野が失われる。
はかのメンバーにも迷惑がかかるし、弱気になっているとはいえ、やはり自由に動き回れるカヤックの方が僕はすきなのだ!
なるべく左肩を動かさないように、ダブルパドルを立ててシングルパドルで漕ぐことにする。
出発してから大きな瀬が迫ると、なるべく流れの弱いルートを選んで下った。
そうとうしょぼいがしょうがねえ。次から次ぎにあらわれるラピッドに翻弄されながら、ながれ下った。

とまあ、以下未完であるのだなあ。ぽりぽり。

あとがき

いやはや、川旅日記もとうとう世界を舞台にするようになってしまいました。
おまたせしました。ネパール珍道中カリ・ガンダキ下り編です。
謎につつまれた我が家の実態が解き明かされる一遍に仕上がりました。
(だから筆が重かったんやな)ちょっとのろけ過ぎ?ですかね。
まあ、持つべきものは有能(?)な相棒ということでせうか。
何度も沈していやというほど、ネパールの水を堪能した僕にとって、今回の川行はやられたーという敗北感が強烈すぎまして、「よおおおし、トレーニングして、再チャレンジだあ!」という意気込みと、「もお、ええわ。クラス5とかは、勘弁してくれい」の日和のふたつの想いにゆれ続けていまして。。まだ答えは出ていません。
今度、かの地を訪れる時には、その答えがでている...かなあ。

装備やスキル、情報面、川のグレードを鑑みて、今回はじめて、現地のラフト・カンパニーのツアーに参加しました。いろいろトラブルはあったけど、かなり内容の濃い旅ができましたが、やっぱり日程が決まっているツアーは自由度が少ないですね。安全面からすると、サポートなしのネパールの川旅は川のグレードからいっても難しいですが、自分だけでやれたら大変面白いだろうと思います。

なんにせよ、ポピュラーなネパールのラフテイングやカヤッキング、是非、たのしまれてください。他にも良い川、すごい川がいっぱいあります。肝炎や病気にはくれぐれも気をつけて!