オレの川「万水川」


木漏れ日の中、透き通った流れに乗る。

一番好きな日本の川は?
って聞かれると、気が多い僕は返答に窮してしまう。

だけど、一番たくさん下った川は?
って聞かれたなら、瞬時に返答することができる。
長野県穂高町にある万水(よろずい)川だ。

1994年から1998年まで、4年ほど信州の松本で暮らした僕は、友人や知人が遊びに来くるともれなく、この万水川へ連れていって、有無を言わさずフネにのせて川へ送り出した。

「いいだろう、オレの川は?」

と得意満面で、川面に浮かんでいたモンだった。

嬉しいことがあったり、悲しいことがあったりする度に万水川を下った。

四季折々の風景を眺めながら、流されていくと、楽しみは倍増され、苦しみや悲しみは、すーっと消えていくような気がした。

蛇行しながら森を縫う。犀川に合流するまでの至福の時間。

田園に囲まれた小さな流れはやがて森の中に吸い込まれ、木漏れ日の中を大きく蛇行する。森のせせらぎの爽快感。そして本流の犀川に合流した時に広がる空の開放感。

犀川へ合流。空が広がって気持ちいい。

いろんな顔をみせてくれる万水川〜犀川のコースは変化に富み、はじめてこのルートを下ったひとはその楽しさに驚くことだろう。

雑誌カヌーライフ4号で、紹介されてから大ブレイクした川だが、僕と万水川との出会いは、紹介される1年前に溯る。。

仕事の都合で、松本に転勤になった僕を、職場の人が、観光ポイントに案内してくれた。その場所とは、デートしたい場所No1と言われる、信州安曇野。その穂高町にある観光スポットの大王ワサビ農場だった。駐車場の隣に、黒沢監督の映画「夢」のロケにも使われた湧き水の小さなクリーク。澄み切った水がこんこんと湧き出ていた。

大王わさび農場の水車。透明な流れに水草が揺れる。

風情のある水車がカラコロ回っている。

透き通る水の中で、緑の水草たちが気持ちよさそうに泳いでいた。

その隙間を縫うように、走っていく生き物。あまごにそっくりな奇麗な魚は、近くの養殖所から脱走したニジマスの幼魚だ。

フライフィッシャーマンの知人が、すぐさまラインを宙に旋回させ始める。
そんなコマーシャルのような風景を眺めつつ、流れの先へと視線を移すと、ゆっくりした流れは小川の向こうを流れる本流と合流し、ニセアカシアやミズナラの森の中へ吸い込まれていく。

潜って遊ぶのも楽しい。

この川はどこへ流れているのだろう?
行く手には、どんな瀬や樹が待っているのだろう?
その時、僕の中の川ガキのスイッチが押されてしまった。

この川を下ることに決めてしまった。 それもその場で!
フネがないので、ありったけの服を身につけて川に浮かんだ。

北アルプスの雪白を集めて湧き出た水はさすがに冷たく、すぐに体が言うことを効かなくなった。痙攣していく手足。ひきつりながらも、僕の口から嬌声が上がっていた。

凄まじい顔をしながらも、きちんと笑っていたに違いない。
僕はとっておきの、そう、カーティス・クリークに出会ったのだ。

身一つで、この川を泳ぎ下った時、万水川は「オレの川」になっていた。


万水川へのアプローチは長野自動車道が便利で、わかりやすい。

豊科インターで降りて県道310号を柏矢町駅にむかって走る。

国道147号合流する前に渡る小さな小さな川が万水川だ。
スタートは、この側の公園か、大王ワサビ農場の駐車場が起点。
公園に3台くらいの駐車場スペースがある。路上駐車は厳禁。

ゴールは犀川本流に合流してから5kmくらい下った明科町の中村にあるマレットゴルフ場横の河原が便利だ。最近河原が削られ気持ちの良いキャンプサイトは消失してしまったが…
犀川にある1〜2級の瀬も楽しめる。
公共の交通機関は便が悪いので、2台以上の車かタクシー利用が便利。

鮎の釣り師とのトラブルもなく通年川下りができのも良い。
もっとも冬はかなり気合いが必要になるけどね。

雪解けの4月〜6月は条件があえば、高瀬川も水量が増えて楽しい川に変身する。こちらはダムの放流もからむので季節限定。平行する道路に地ビールもる。

温泉なら19号の明科温泉「長峰荘」がお薦め。料金も安くアルプスの眺望がばっちり。穂高温泉郷や中房温泉も車なら近い。

万水川紀行
1995.8.26(いちのせ氏&わたじいとの出会い)