Prime-Optimus
#2 烏合の衆


それから数日後、オプティマス・プライムは誰が見ても落ち込んでいた。

彼はいつも通り司令室に現れて仕事をこなしていたが、実際は彼専用のコンソールブースに引きこもって誰とも話をしようとしなかった。彼は32時間ぶっ通しで働いていたが、今では手が止まっていた。

サイバトロンの兵士たちは司令室の反対側の隅から遠巻きに彼を見ていたが、誰も声をかけることはできなかった。

腕を組んで壁にもたれたサンストリーカーが冷ややかに口を開いた。「普段しっかりしてる分、自信をなくした司令官ほど哀れを誘うものも他にないよな。陰気くさくて仕方ないぜ。誰か早く何とかしろよ」

「サンストリーカー、お前、そんな言い方があるか!」

血相を変えるランボルを彼は無視した。「スカイファイア、お前行って司令官をお慰めして来い」

「わ、私が?!」いつものように、背景のように人垣の後ろに立っていた彼は、無関係と思っていた自分に急に話の矛先が向いて慌てた。

「そうだ、私たちじゃ、司令官に座ってもらわなきゃ彼の肩を抱くこともできないんだ」マイスターが振り向いて彼を見上げた。

スカイファイアは苦し紛れにオプティマス・プライムの後姿を指差した。「今はほら、座り込んでいるから丁度いいじゃないか」

「その後はどうするんだよ」

不服そうに言ったギアーズに、スカイファイアはオウム返しに聞いた。「その後って?」

「慰めるって言ったら、決まってるだろ!」クリフが焦れて怒鳴った。

「・・・」

「こんな美味しい状況を逃す手はないだろう、なあ!」彼はハウンドと顔を見合わせた。

スカイファイアは周囲を見渡した。誰も彼らの主張に反対するどころか、一緒になって頷いているのが不気味だった。

その彼にアイアンハイドが近付き、同情するように腕を叩いた・・・ようにスカイファイアには思えたが、彼は面白がるようににやりと笑った。「役得だぜ、スカイファイア。ここは男らしく、一発決めて来いよ」

「アイアンハイド、君まで・・・」

スカイファイアは眩暈を感じた。これがジェネレーションギャップというやつだろうか。最近の考えにはついていけそうもないと、彼は彼が不在だった一千万年近い年月の長さを感じた。

倒れそうになるのを我慢して、彼はなんとか言葉を発した。「・・・別に・・・物理的に不都合があるほど大きさに差がある訳じゃないだろう」

「そうさ! だがそれだけじゃ駄目なんだよ!」クリフが憤慨して言った。「お前、わかってないな、スカイファイア!」

「慰める方がサイズが小さいんじゃ、格好つかないぜ」スモークスクリーンがやれやれと首を振った。

「・・・格好・・・」

そういう問題だろうか。それよりも、どうして彼らはこんなに真剣なんだろう。スカイファイアはだんだん頭が痺れてきたのを感じた。

どんよりどよどよと頭上に暗雲を垂れ込めさせたオプティマス・プライムを尻目に、サイバトロンのアホくさい言い合いは続いた。

「じゃあ、エアーボットの諸君が合体してスペリオンになれば・・・」

「それじゃでかすぎるだろ! 司令官を殺す気か?!」

「・・・それじゃあ、私たちの中にはほとんど対象者がいないじゃないか」

「そうなんだよな」

一同は皆一様にため息を吐き、がっくりと肩を落とした。

「司令官は元々俺達の偉大なリーダーとなるべく創られたんだ。だからサイズも大きいし、力も強い」ストリークが言った。

「そもそも平均すれば俺達は小さいんだ。俺達はデストロンの奴らと違って、戦闘向きの大型ロボットじゃないんだからな」チャージャーが続けた。

「俺達は好燃費が売りの平和市民だしな」ドラッグが付け加えた。

「でもあいつらだって司令官よりはでかくはないだろ」クリフが訊くと、ハウンドが顔をしかめた。「メガトロンは同じ位じゃないのか? 認めたくないが」

「大体、装甲車と同じ大きさのレーザーカノンなんて非常識なんだよな」インフェルノが関係ないところで敵のリーダーに怒りをぶつけた。

「サウンドウェーブにレーザーウェーブも司令官と同じ位かな」マイスターが中途半端に話を戻した。

「トリプルチェンジャーの連中もでかいよな」スリングが言うと、その隣でハウンドが飛び上がった。

「スリング、お前いたのか!」

「いたよ、最初から。失礼な奴だな」

「おいそこ、うるさいぞ」アイアンハイドが指差してびしりと言った。

スカイファイアは、今すぐ全システムを停止して再びこの場で眠りについてしまいたいという魅力的な欲求と戦っていた。

「俺達の大事な司令官があんなに落ち込んでるのに、俺達にはこうして遠くから見守ることしかできないんだ」ハウンドが自虐的に呟いた。

いつのまにか車座になって床に座り込んだ一同は、一層表情を暗くした。

それより、問題は別のところにあるんじゃないだろうか。スカイファイアは思ったがそれをこの場で口にする勇気はなかった。

ストリークが思いついたように言った。「ちょっと待ってくれ。俺達は何の話をしてるんだ。そもそもデストロンの連中が司令官の悩みの種なんじゃないか」

「わかりきったこと言うなよ」

ギアーズの嫌味を無視してスモークスクリーンが言った。「一体全体、今回は、司令官は何を悩んでいるんだ?」

「それだ。それがわからなきゃ、解決の方法だって見つからないぜ」クリフが身を乗り出した。

「この星に来てからずっと、司令官は落ち込み気味だったろう」リジェが言った。

「そうか? 俺は気付かなかったけど」クリフが首をひねった。

「ホームシックかな」インフェルノが大真面目に言うと、アラートが嫌な顔をした。「馬鹿かお前」

「この星の先住民との付き合いとかで、気苦労が多いんだろ。誰かさんと違って」

「ギアーズ、お前“人間”って言えないのかよ」チャージャーが睨んだ。

「後は、いつものあれだ。こないだ、またラブコールがあったじゃないか」ハウンドが言った。

「・・・ああ。」皆は虚ろに遠い目をした。

メガトロンの型破りな提案は、大体400万年前、彼らがセイバートロン星を後にする直前から始まっていた。

「なんだか、真剣に戦うのが馬鹿らしくなってくるよな」クリフが呟いた。

「だから俺が最初から言ってるじゃないか」サンストリーカーがわめいたが、誰もが努力して彼の言葉を無視した。

そこへ突然地響きを立てて大きな影が現れた。

「オレ、グリムロック、コンボイ司令官より大きくてずっと強い。グリムロック、最強のロボット」

その場にいた全員が飛び上がった。「グリムロック! 聞いてたのか」

「話わかった。オレ、グリムロック、コンボイ司令官慰めてくる。まかせろ」グリムロックはのしのしと歩き出した。

「ま、待て、やめろ、よせグリムロック!」

「何する気だ!」

ホイストとランボルが追いすがった。それもグリムロックには全然効果がなかったが、彼は立ち止まって振り向き、宣言した。

「オプティマス・プライム、リーダーなのに情けない。オレ、グリムロック、司令官に気合入れてやる」

「待てって! おい、グリムロック!」

「司令官は悩んでいるんだ。彼は今、ものすごく傷つきやすいんだぞ」ホイストがまくしたてた。「俺達がしなきゃならんのは司令官に元気になってもらうことで、トドメを差すんじゃないんだ!」

「うるさい。これオレの仕事。邪魔したらお前たち先にぶっ潰す」

「・・・」

その場にいた誰も、合金製のティラノサウルスの歩みを止めることはできなかった。彼らは天に祈ることしかできなかったが、それも程々に、さっさと司令室から逃げ出した。

「司令官、どうかご無事で・・・」

その日、オプティマス・プライムの身に何が起こったか確証のある者は誰もいなかった。





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