Prime-Optimus
#4 告白


サイバトロン基地・医療室。

ラチェットの城であるその部屋の閉じたドアには、今は鍵がかかっていた。

彼は、依然落ち込んだままの、しかし話を聞こうとすると「何でもない」と言って逃げ回るオプティマス・プライムを、全身の定期チェックを口実に、やっとのことで医療室に引っ張り込むことに成功した。

オプティマス・プライムは椅子に腰掛け、黙り込んだまま床の一点を凝視していた。

「司令官、一体何を悩んでいるんです? あなたがその調子では、皆まで落ち着かなくなってしまいます。ここら辺で、問題に決着を着けようじゃありませんか。私達でね」

ラチェットは口の重い彼になんとか話し出すきっかけを与えようと懸命になっていた。彼は自分に気を使っていると思わせると、負担をかけまいと逆に閉じこもってしまうために、適当にぶっきらぼうに、かつ萎縮してしまわないように優しく誘導しなければならいという、とんでもなくやっかいな患者だった。卑怯とは思いつつも、部下を引き合いに出して脅迫するのは一つの手段だった。

「私に話しても無駄だと思いますか? でも、話してみるだけでも何かの前進があるかもしれませんよ」

ラチェットはなるべく軽い印象になるように言い、その後でオプティマス・プライムの肩に片手を置いた。「あなたが一人で悩んでも仕方ないことかもしれません。だからさあ私に話して下さい。あなたの友人として、私はあなたの力になりたいんです。オプティマス」

「それだ」オプティマス・プライムは唐突に呟いた。

「何ですって?」

「オプティマス」

「は?」

「私の名前だ。だが彼は決して私をその名で呼ぼうとしないんだ」

「・・・・??」話が見えず、ラチェットは該当する事項がないかと必死でメモリを検索した。

「“オプティマス・プライム”、そうでなくてもただの“司令官”。彼が欲しいのはサイバトロンの司令官で、私ではないんだ。それがわかっている以上、私は彼の申し出を受けられない」

「ああ、そのことですか」ラチェットはようやく合点がいって落ち着いた。

「メガトロンのことですね。それなら、誰もあなたに強制したりしませんよ。あなたが嫌なら、彼の申し出を受け入れることはありません。あなたの気持ちを尊重することが一番大切です。それは皆納得してますよ」

「彼が求めているのはサイバトロンのリーダーで、私個人ではないんだ。それは私もわかっているつもりだ。そうでなくては、彼が私を条件にこの戦争を止めると言い出す理由がない。リーダーでない私には、個人的な感情でサイバトロンの運命を左右する権限はないからな。」

そこでオプティマス・プライムは声を落とした。「だが、彼が私をこのような方法で説得しようとする以上は・・・」

「このようなって?」

「まるで私自身に対する愛情があるかのような・・・」

彼は言葉を探して口篭もった。そして思い当たった単語を口にするのに、彼には覚悟が必要だった。「・・・口説き方をすることだ」

「それが何か?」メガトロンは状況を面白がっているだけではないかとラチェットは思ったが、言わないでおいた。

「私にだって、プライドがあるんだ」

さっぱり要領を得ない独り言のようなオプティマス・プライムの話に、ラチェットははさむ言葉を思いつかなかった。

彼自身も自分の考えがわからないのかもしれない。ラチェットは彼が心の中に仕舞いこんでいる気持ちを、まずは残らず表に出させることが賢明だと判断した。

「ええ、知っています。そしてそれは、皆があちこちで躍起になって主張しているものです。あなただけがそれを抑圧する必要はありません。むしろ、あなたはもっと表に出していいんですよ」

「・・・私はサイバトロンのリーダーとして・・・私の・・・私個人のプライドによって物事を決めることはよくないと思っている・・・だが・・・」

そこでまたオプティマス・プライムは黙り込んだ。ラチェットは促すように言った。

「あなたは誇りあるサイバトロンのリーダーです。あのメガトロンのものになるなんて、耐えられないでしょう」

戦いを捨て、それまでしのぎを削ってきた相手の所有物になることは、全面的な敗北を認めるようなものだから、とラチェットは思った。

「そういうことじゃない」オプティマス・プライムは首を左右に振った。「私は彼の言うことが信じられないんだ」

「それは私だって同じです。他の皆だって多分そうでしょう」頷きながら、実はラチェットは話について行けていなかった。どうして今さら、そんな当たり前のことを言うんだろう。そう思った瞬間に、ラチェットははたと気付いた。

「あなたはメガトロンの言葉を信じるつもりですか?」

オプティマス・プライムは肩を落として、祈るように項垂れた。「私は信じたい」

ラチェットは意表を突かれて言葉に詰まった。その間にオプティマス・プライムは再び口を開いた。

「だが、彼は本気じゃない。」押し潰されたような彼の声は僅かに震えていた。マスクが彼の表情の半分を隠していたが、その声音と伏せられた目から、ラチェットは黙り込んだ彼が唇を噛んでいるのではないかと思った。

さっきの言葉を実際口にしなくてよかったと、ラチェットは心底思った。取り返しのつかない事態に陥るところだった。

「彼が茶番だと思っていることに、私だけが真剣に付き合うのは我慢がならない・・・私のプライドがそれを許さない」

ラチェットは少し気を緩めた。こうして煮詰まっているように見えても、流石と言うべきか、オプティマス・プライムは油断のならない敵の思惑に乗らずに、ちゃんと冷静な目で事件を見ているのだ、と彼は思った。

「茶番とわかっているのなら、あなただって、まともに彼の相手をする必要はありません。そうでしょう?」

「それはできない」オプティマス・プライムは鋭く言った。

何だって?

「それじゃあ、あなたは・・・」落雷のように閃いた考えに、外見的にはぽかんと口を開けるに留まったが、ラチェットは心の中で絶叫していた。

「私は本気なのに」ラチェットの動揺を他所に、コンボイは頭を抱えて呟いた。そして顔を上げて彼を見た。

「ラチェット。私は、彼の物になるのが嫌なわけではないんだ」





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