Prime-Optimus
#7 秘密会議


リジェはサイバトロン基地から200キロばかり離れたある都市の郊外に広がる森にいた。彼が待っていると、上空の遥か彼方からジェットエンジンの音が近づいてきた。

見上げた彼が立ち上がる間に、減速した戦闘機は空中で姿を変え、水色のロボットが彼の目の前に降り立った。

「ようリジェ。遅れたか?」

リジェは首を振った。「いや、時間通りだよ、サンダー」

「そうか? ならいいんだが・・・」サンダークラッカーはリジェに手で合図して、頭上の開けた広場を離れ、樹木の枝の陰になる場所へ移動した。



「なるほど」話を聞いたサンダークラッカーは腕を組んで頷き、にやりと笑った。

「ほっといたら、永久に言わねえだろうな。あの人にゃ、そんな言葉のニュアンスの違いなんてきっと一生理解できねえぜ。プライムを名前で呼ばないのだって、昔からの習慣が抜けないだけさ。あの人が無意識にすることには、実際意味なんてないのさ。」彼は断言した。

「それより、メガトロンは本気なのかよ」

「俺が見るに、本気も本気、大マジだな」

「・・・本当だろうな」

「言っとくが、こりゃ罠でも何でもないぜ。大体、もう俺達デストロンがサイバトロンと争う理由はないんだからな」

「よく言うぜ。この星に来てからの態度は酷いじゃないか」リジェは自分よりも一回り大きなジェットをじとりと睨んだ。

「ああ、そうかもな。多分・・・」言いかけて、サンダークラッカーはしばらく黙り込んだ。

「彼は怒ったんだ」彼は言い難そうに話し出した。「お前がどこまで知ってたか知らないが、セイバートロン星で戦ってた時から・・・俺達が星を離れる200万年前くらいからかな、彼はずっとプライムを口説こうとしてた。」

「ああ」

「それしかサイバトロンを、敵としてじゃなく、味方として併合できる方法はないとわかったからさ。我らがリーダーはそれが一番合理的だと考えて、実行に移した。そして、その作戦は本当にもう少しのところまで行ってたんだ。彼はプライムに“YES”と言わせるために、サイバトロンを徐々に囲いの中に追い込んで行った」

「最後には、正直言って、いよいよ後がないってとこまで追い詰められてたもんな」

「提案を受けることが彼らにとって最良の選択だとプライム自身に判断させたかったのさ。そのために、ボスは一時的にセイバートロン星のエネルギーをほとんど空にすることも辞さなかった。そうしてもいいと思う位、オプティマス・プライムとサイバトロンが必要だったんだ。そして彼の思惑通り、プライムは段々承諾の気配を見せ始めた。それが400万年前、彼が土壇場になって、メガトロンの目の前から急に逃げ出すようなことをした。メガトロンは激怒さ」

「後は見ての通り、嫌がらせの応酬ってわけか。」

「傍迷惑な話だよな」

「でも本人たちは大真面目だ」

「ああ。で、ヤケになって惑星外まで追いかけたはいいが、ここへ来て、彼とプライムとの間に、急に地球と人間が割り込む形になっちまった。プライムはそれを盾に更に逃げようとするし、まずいことに、メガトロンはますますかっとなって、それを使ってプライムを脅迫しようとした。それで却ってプライムが意固地になって・・・悪循環だな。どっちも頑固だし、やるとなったら徹底的だからな」

「うん」リジェは考え込んだ。「多分司令官は自分のやってることをちゃんと自覚してるだろうぜ。自分の決断が遅れているせいで、地球人への被害が広がっていることも気にしてる。だから悩んでいるんだ。皆の前では毅然と振舞ってはいるが、本当は彼はもう戦争なんかしたくないんだろうと思うよ。それにしても、司令官は疲れてる。もうここらが限界かもな」

「それにしては頑張るな」

「彼は決めかねてるんだ。誰が見ても明らかな確証が、メガトロンから手渡されるのを待ってる」

「オプティマス・プライムは彼に譲歩させるつもりかな?」

「いや、甘えてるんだろ。それにしても、最初はサイバトロンへの降伏勧告だったのに、いつから司令官への求愛宣言になっちまったんだ?」

「はっきり言うようになったのはつい最近だろ。プライムが逃げ出すちょっと前からさ。もしかしたら、それだってこのことが原因だったのかもな」サンダークラッカーは首をひねった。

リジェが膝を打った。「そうだ。そうに決まってる。だからさ、司令官は、急にメガトロンが自分に心変わりしたのが信じられなかったんだろ。それまではずっと、お互いの利害について話をしてきたのに、突然好きだなんて言われたら、丸め込むための方便としか思えないじゃないか」

「でもメガトロンはそうは思ってないぜ。彼にとっては、サイバトロンのデストロンへの併合は理屈に合ってるし、プライムは自分のものにしたい。その二つが、彼の中では相反することじゃないのさ。せいぜいが一石二鳥だと思ってるだけだろうな。それも本気でだ」

リジェが信じ難いことを聞いたというように憤慨した。「奴にはデリカシーってもんがないのか!」

「あの人にそんなもの期待する方がどうかしてるぜ」

「まあ、ともかくだ」気を取り直してリジェが言った。「なんだかよくわからんが、どうやら司令官も奴に惚れてるらしいからな。後は、メガトロンがなんとかして司令官に愛情の証拠ってやつを見せてくれさえすれば、万事が丸く収まるんだろう」

「そう思いたいぜ。でも名前の件は絶対無理だ。あの人は遠回しに言ったってわからねえんだよ。はっきり面と向かって、こうしてくれ、って希望を伝えねえとな。それに、オプティマス・プライム本人の口から直接聞くならともかく、間に俺が入ったら、メガトロンは本気にしないどころか反対に怒り出すと思うぜ」

「じゃあ何だって絶望的じゃないか。」

「何か、オプティマス・プライムを一発で落とせるような上手い手はないかねえ」

「それは俺もわからん。本人に聞いてみないと」リジェは両手を上げて降参のポーズを作った。

「そりゃいい。お前、聞いてみろよ」サンダークラッカーは何食わぬ顔で言った。

「馬鹿! そんなことできるか」リジェが気色ばんだ。

「冗談だよ、リジェ」サンダークラッカーが笑うと、釣られてリジェも表情を和ませた。

リジェは視線を上げた。木々の間から覗く空はセイバートロン星のそれとはかけ離れた明るい青色だった。彼らはしばらく無言で空を眺めた。

リジェが諦めたように呟いた。「やっぱり、俺達にはどうしようもないよ。本人同士で話し合ってもらわないことには」

「結局はそうなるのか・・・まあ、それが一番だろうな」

二人はため息を吐いた。

「じゃ、俺はそろそろ基地に戻るぜ。またな、リジェ」サンダークラッカーはリジェの肩を軽く叩いて立ち上がった。

「ああ。気をつけてな」

片手を上げて去っていく友人の後姿を見送って、リジェは反対の方角に歩き出した。





Next