Prime-Optimus
#12 戦争の終わり


セイバートロン星の灰色の空の下、かつては屋外劇場だった広場に集まった多くのロボットは、かつてない雰囲気の中で、調印式の始まりを待っていた。

舞台にごく近い場所で、サイバトロンの数人が落ち着きなく立っていた。

「遅いな」アイアンハイドがイライラして言った。

「何かあったのかな」クリフが言うと、ストリークがたしなめた。「おい、滅多なことを言うな」

そこへ、人ごみを掻き分けてマイスターが現れた。「やれやれ、やっと辿り付いた。まったく、人数が多いのか会場が狭いのかわからんね」

ラチェットが驚いて振り向いた。「マイスター! お前、司令官と一緒に舞台に上がる筈じゃなかったのか?」

「その筈だったんだが、司令官に戻れと命令されたんだ」

「どうして!」アイアンハイドがいきり立った。

「わからない。誰か、代わりに呼ばれているらしいが」

「誰かって誰だ? サイバトロンの誰かなんだろうな?」

「司令官に、心配するなと念を押されてる。彼の言葉を信じるしかない」

ラチェットが訊いた。「プロールは? 司令官と一緒か?」

マイスターは頷いた。「ああ。」

「じゃあ、とりあえずは心配なさそうだが・・・」アイアンハイドがしぶしぶ黙った。

「司令官に、何か考えがあるらしい」

「おい、始まるぞ」ストリークが舞台を見上げた。

演説台と大きな机が据えられた舞台に、サウンドウェーブとレーザーウェーブを伴ってメガトロンが姿を見せた。次いで、オプティマス・プライムとプロール、それにオレンジと赤の派手な装甲を持ったサイバトロンが現れると、アイアンハイドは声を上げた。

「ありゃあ、ホットロッドじゃないか!」

「確かに。でもどこか様子が違う気がするが」ラチェットが言った。

ホットロッドは態度こそ普通にしているものの、苦虫を300匹くらい噛み潰したような変な表情をしていた。

「どうして彼が?」

思わずストリークが言うと、マイスターは当然とばかりに首を左右に振った。「わからん」

彼らの困惑を他所に、調印式は始まった。無感動なサウンドウェーブの型通りの進行に従ってオプティマス・プライムが壇上に進み出ると、喧騒に包まれていた会場は水を打ったように静まり返った。

オプティマス・プライムは会場を埋めつくしたロボット達を見渡した後で、おもむろに演説を始めた。

「我々は気の遠くなるような長い年月に渡って戦いを続けてきた。争いのない故郷の風景を、私はもう思い出すことができない。サイバトロンとデストロンの両方が、お互いの間の些細な違いを認め合えずに傷つけ合い、殺し合った。だがその戦いはどんなに無益だったか。」

抑えられたオプティマス・プライムの言葉は、反対に重さを持って聴衆の心に沈んだ。

「だがそれも今日で終わりだ。セイバートロン星に生きる人達よ。私は、再びこのような形で、敵味方の区別なく、あなた方に対する日がやって来るとは思わなかった。殺し合いのない日常、それがどんな幸福であるか、今なら皆がそれを知っていると思う。二度とこの平和を失ってはならない。長い間敵対していた敵味方が過去の遺恨を忘れて共に生きることは、易しいことではないかもしれない。だが、荒廃したこの惑星の復興を通して、両者がお互いへの理解を深め、受容し、お互いを失い難い同胞と認められた時こそ、この惑星に真の平和が戻った時だと私は思う。その日まで、我々はあらゆる努力を惜しんではならない」

会場を埋め尽くす歓声が上がった。

「そして・・・私はデストロンのリーダー、メガトロンに感謝と畏敬の念を捧げる。彼の偉大な寛容さと忍耐をなくしては、この和平は決して実現されなかった。」

そう語るオプティマス・プライムの姿を、サイバトロンのメンバーは複雑な思いで見つめた。

「・・・彼はまた、この私にサイバトロンの代表者としての在籍を認めてくれた。しかし、私は一連の事態に対する責任を取って、指導的な立場からは身を引こうと思う。」

会場はざわめいた。

オプティマス・プライムは斜め後ろにプロールと並んで立っていたホットロッドに歩み寄った。「これからは彼、マトリクスの継承者であるロディマス・プライムがサイバトロンの守護者となる。彼を助けて、皆で新しい時代を作って行って欲しい」

突然の彼の言葉に、サイバトロンはともかくデストロンのメンバーまでもが言葉を失い、静まり返った会場は一瞬後には再び喧騒に包まれた。

その中で、プロールが錆びたブリキ人形のようなぎこちなさで呟いた。「なんてことだ」

「聞いてないぜ・・・」ストリークが呆然と独りごちた。

ラチェットは眩暈を感じた。「よりによって、司令官、何て事を・・・」

大騒ぎの背景を尻目に、オプティマス・プライムはくるりとメガトロンに向き直った。

「彼はサイバトロンのリーダーシップ・マトリクスに認められた正式な後継者だ。依存はないだろう、メガトロン」

考え深げに無言で聞いていたメガトロンは、しかしあっさりと縦に首を振った。「よかろう。彼をサイバトロンの新しい最高責任者と認める。」

彼の言葉を受けて、オプティマス・プライムはロディマスを強引に演説台に押しやった。そして、その一部始終を唖然と見守る観衆を置いて、彼は舞台を後にした。





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