Prime-Optimus
#17(最終話) Leader of the...


元デストロン本部であった建物は、そのまま暫定の最高機関の執務施設としてそっくりそのまま使用されていた。当面の方針を決める会議を終えたメガトロンは、オプティマス・プライムを連れて彼の私室に移動した。

「やっとゆっくり話ができるな、オプティマス・プライム」

オプティマス・プライムは頷いた。彼は落ち着かなさげに部屋を見渡した。

「メガトロン、ここはお前の部屋なのか?」

「いかにも。改修を繰り返し、かれこれ7、800万年になる。もっとも、その内の400万年は無人だった訳だがな」

メガトロンはオプティマス・プライムに椅子を勧め、棚から適当にエネルゴンの満ちた小さなキューブを見繕って彼に手渡した。

オプティマス・プライムは礼を言って受け取ると、手にキューブを持ったまま黙り込んだ。

彼の向かいに腰掛けたメガトロンはエネルゴンを呷りながら、注意深くオプティマス・プライムを見やった。

「疲れたか?」

「いや」オプティマス・プライムは首を振って否定したが、しばらく考え込んだ末に頷いた。「少し」

メガトロンは笑った。「儂に強がってみせても仕方ないぞ、オプティマス。その必要もないしな」

「そう言わないでくれ、メガトロン。そう言われると、お前には際限なく甘えてしまいそうだ」

「それでも構わんぞ」メガトロンは冗談めかして言った。「お前は甘やかし甲斐がありそうだ。どうせお前のことだ、他人に心から甘えたことなどないのだろう」

「いや・・・私は今まで、周りの好意に甘えてばかりだったよ」

「お前に必要なことはな、オプティマス。望みを言葉にすることだ」

オプティマス・プライムは呆然とメガトロンを見た。

彼は美しい光を放つエネルゴンを飲み干し、空になったキューブをぽいと放り投げ、オプティマス・プライムと目が合うとにやりと笑った。

「お前は何を考えている? お前の欲しいものは何だ? 何でも良い、お前の望みを言ってみろ。お前の望みは、口に出さねば他人にはわからんのだぞ」

「私の望みは、この平和がいつまでも続くことだ」

「いいや。儂が言うのは、お前自身の望みだ」

しばらく黙り込んだ後で、オプティマス・プライムは首を振った。「私は今の状況に満足している」

「考えろ。直ぐに見つけろとは言わんが、お前はそれに自分で気付かなければならん」

メガトロンは立ち上がり、オプティマス・プライムのすぐ横に席を移した。

「どんなことでも良いのだぞ。例えばだ、儂の望みを一つ教えてやろう、オプティマス」

「何だ?」

メガトロンはことさら真面目な声を作って言った。「儂と二人きりの時は、お前にはそのマスクを外しておいて欲しい」

オプティマス・プライムは一瞬何のことかと思い、それからすぐに思い当たった。

「わ、わかった・・・」

しばらく逡巡した後、彼は顔の下半分を覆ったマスクのロックを解放し、硬い合金製のそれを亜空間に仕舞い込んだ。

メガトロンは真面目くさった表情を引っ込めて笑い、目の前の光景に満足して頷いた。「うむ。この方がずっと良い」

オプティマス・プライムが恥ずかしさを覚えて俯く前に、メガトロンは彼の唇に軽くキスした。

彼は驚いたようだったが、逆らう素振りは見せなかった。

メガトロンは体を離して、ソファに座り直した。

「何か思いついたか?」

「ああ・・・」オプティマス・プライムは視線を泳がせてから、意を決したようにメガトロンを見た。「もう一度、キスして欲しい」

「もちろんだとも、オプティマス」

メガトロンはオプティマス・プライムの体をぐっと引き寄せ、今度は深く、情熱的な口付けを与えた。

迷いなく自分を抱きしめるメガトロンの強い力に、オプティマス・プライムは心が満たされるような安堵を覚えた。





オプティマス・プライムはアイ・センサーを遮断して、彼が頭を乗せたメガトロンの腿から伝わってくる、彼の内部メカニズムの微かな振動を感じていた。

「・・・本当は、私にはもう一つの名前がある。だが今はそれもどうでもいい・・・過去に戻ることはできないのだからな」

彼はその言葉に対する応えを期待していなかったが、メガトロンはごく普通に答えた。「知っているとも。オライオン・パックス」

「メガトロン、どうして・・・」オプティマス・プライムは視界を復活させて跳ね起きた。

「お前とお前のサイバトロンに悩まされるようになってから、儂は躍起になってお前のことを調べたのだ。儂はその名を持った青年をずっと忘れていたが・・・思い出したよ。今からおよそ600万年前のことだ。それからというもの、儂のお前に対する意識は急激に変わった。腹立たしいアルファートリンの操り人形から、得難い理解者へとな」

メガトロンはオプティマス・プライムの肩を抱き寄せた。オプティマス・プライムは黙ったまま彼の話す言葉を聞いた。簡単な相槌を打つことも、今の彼にはできなかった。

「儂ら二人はそれぞれが、生まれた時から目指すべきゴールを決められていた。否、むしろたった一つの目的の為に儂らは作り出されたのだ。儂はサイバトロンを根絶やしにする為に、そしてお前はこの儂を止める為にな。だが儂は持って生まれた運命などというものに操られるつもりはない。儂らはお互いに理解し合える存在だ。違うか?」彼はオプティマス・プライムの頬を慈しむように撫でた。

「どんなに憎い相手でも、一度その者の過去、生い立ちを知ってしまえば、もう他人のままではいられない。・・・お前を愛している、オプティマス。儂にとって、お前は何物にも代え難い」

メガトロンはオプティマス・プライムに口付けた。言葉にならない気持ちを込めて、彼は懸命に応えた。

「儂らが争う必要はもうない。これからはお互いに向ける銃を捨て、共通の敵に備えるべきだ」

「メガトロン・・・」

「お前も今回、セイバートロン星から出てみてわかったろう。この宇宙には儂らの想像もつかんような生命体がひしめき合って生きている。儂らの種族の内部で争っている場合ではないのだ。幸運にも今までは我がデストロンの戦力のみで外敵の攻撃を凌いできたが、いつかは一族同士の対立に付け入られ、惑星外からの、強大な力を持った侵略者に、惑星ごとあっという間に滅ぼされるということにもなりかねん」

オプティマス・プライムは俯いた。「私には・・・そんなことは想像もつかなかった。私は、その瞬間に私の目の前にある暴力を阻止したいだけだった」

メガトロンは笑った。「夢だ。悪夢が儂に警告する」彼はオプティマス・プライムを見た。「儂らしくもないことだがな。笑ってもいいのだぞ、オプティマス」

オプティマス・プライムは首を左右に振った。「それをお前が信じるのなら・・・」

「ふん。殊勝なことを抜かしおって」メガトロンはオプティマス・プライムの唇を指先でそっとなぞってからキスした。

オプティマス・プライムは声を立てずに笑った。





The End





後書き