The Gohst In The Program
長かった戦いが終わり、セイバートロン星に平和が戻ってから数週間が過ぎた頃だった。 何処からともなく囁かれ始めた奇妙な噂話は、段々と声が大きくなり、遂にその話題は司令部にも届くようになった。 サイバトロンの総司令官グランドコンボイはその性格から元来風評の類には興味を引かれない質だったが、その中に登場した名前を聞いて冷静でいられなくなった。 「例の訓練プログラムの中で、ガルバトロンを見たというんです。」 グランドコンボイを前にして、ホットショットは不思議そうに言った。 「それも一人や二人じゃなくて、連中の仲間内だけでも数人以上の目撃証言があるそうです。」 グランドコンボイは内心の動揺をマスクの下に隠し、冷静を装って尋ねた。 「訓練プログラムには、彼のデータは入力されていないはずではないのか」 「はい。ガルバトロンの詳しいスペックは我々にはほとんどわかっていません。プログラムを使って彼の戦闘能力や人格をシミュレートするには、まるでデータが足りないんです。やろうと思ってもできるはずがありません。」 「なるほどな。だが、姿を映すくらいならできるだろう」 「ええ、それはそうですが・・・彼が戦っているのを見たという者もいるそうですし・・・」 ホットショットか言い終らない内に、グランドコンボイは鋭く訊いた。「彼と戦ったのか?」 彼の剣幕に驚いて、ホットショットは言い淀んだ。 「い、いえ、そうではないようです。ただ、遠くから彼・・・いえ、彼らしき人影を見たというだけで・・・まあ、今の所は単なる噂に過ぎない訳ですし・・・」 煮え切らない部下の返答に、グランドコンボイは痺れを切らして言った。 「もういい、よくわかった。この問題はチームを作って詳しく調査することにする。事の真相が明らかになるまで、訓練プログラムの使用は禁止とする。そう通達を出せ。わかったな。」 「り、了解。グランドコンボイ司令官。」 ホットショットが司令室を出て行ったのを見送った後で、グランドコンボイはコンソールパネルに両手をついて寄りかかった。彼は苦しげに息を詰めていたが、やがて小さな声で搾り出すように言った。 「・・・ガルバトロン・・・どうして・・・」 グランドコンボイはパネルに体を預けてそのままずるずると床に座り込み、鈍い音を立てて側頭部を壁面に預けた。 長かった戦いが終わってから今日までの間に、彼が宿敵であったガルバトロンのことを思い出さない日はなかった。ガルバトロンは彼にとって、決して失うことのできない存在だった。だが彼とはもう二度と会えない。彼は誰の手も届かない遥かな高みへと上ってしまったのだから。 視界を遮断したグランドコンボイの脳裏に、昨晩見た夢の断片が瞬いた。毎晩のように現れる空想の世界で彼を悩ませるその存在は、遂に現実の世界にもその手を伸ばそうとしているようだった。 グランドコンボイは溜息とも喘ぎともつかない呼吸と共に、最愛の者の名を呟いた。 二日後。 作戦司令室に集まった面々を前に、インフェルノが報告の口火を切るのを、グランドコンボイはどこか上の空で見守っていた。調査によって事実を明らかにすることが恐ろしく、しかし同時に単なる噂話の確認に何の期待も覚悟も必要ないと冷静に突き放す自分も彼は感じていた。 「司令官。数ヶ月前に、トーナメント方式で行った公開試合があったことを覚えていらっしゃいますか?」 「ああ、覚えている。サイバトロンネットで中継を流していたあれだな。」 グランドコンボイが言うと、インフェルノは頷いた。 「その時の対戦カードがこれです」 モニターに表示されたトーナメント表を眺めていたグランドコンボイの表情が、やがて驚きに固まった。 「・・・何だって? ”ガルバトロン”・・・?!」 スカイファイアが思わずといったように声を上げた。「奴がトーナメントに参加してたってのか?」 インフェルノは首を振った。「デストロンのスペックデータの殆どは、同盟が組まれていた間か、彼らが囚人として収監されていた間に得たデータから作ったものです。ですが・・・言うまでもないことでしょうが、ガルバトロンのデータはあるはずがないんです。」 「エントリーは一体誰が?」 「匿名のリモートアクセスによるエントリーで、サイバトロンネットへの接続が試みられた場所は特定できませんでした。勿論、このエントリーがガルバトロン本人によるものであったかどうかはわかりません。」インフェルノは淡々と言った。そして少し間を置いてからこう付け足した。「尤も、これが絶対に彼ではなかったという確かな証拠もありません。」 「他には?」 「リモートアクセスの中に、不正アクセスが一件ありました。」インフェルノはモニターの一点を拡大した。「”シックスショット”のエントリーがそれです。コード改造と意図的なバグが発見されました。」 彼の言葉を裏付ける資料として、画面の一角にその場面の詳細なコマンドラインと実行データ、計算結果が表示された。 「コイツ、ズルしやがってたんだな。」スカイファイアがモニターを見ながら腹立たしげに言った。「俺のデータに恥かかせやがって」 スカイファイアの怒りを無視して、グランドコンボイが言った。「これとガルバトロンとの関係は?」 インフェルノがグランドコンボイに向き直った。「おそらく無関係でしょう。」 「この対戦カードを組んだのは誰だ?」 「訓練プログラムです。」 「ガルバトロンのスペックデータの出所は? データは今どこにある?」 「不明です。データは既に消去されていました。」 「彼の・・・ガルバトロンの戦いを実際に目にした者は?」 「いいえ、誰も」 「そんな馬鹿な。何千人も観客がいたはずだ」 「それが、誰も見ていないんです。」 スカイファイアが言った。「ホットショット、お前は直接参加していただろう。お前も見てないのか?」 ホットショットは片手を頭の後ろに回し、所在なさげに動かした。「いえ、それが・・・自分の試合に夢中になっていて、気付かなかったんです。全く面目ない」 「ガルバトロンがいるっていうのに、それに誰も気付かないってのは不自然だな。」 スカイファイアの言葉に、インフェルノが答えた。「意図的に情報の公開がブロックされていたのかもしれません」 「本当にその試合は行われていたんでしょうか?」 「対戦結果が残っている以上、それはプログラムの中では実際に起こった出来事です。ただ、誰も見ていなかったというだけで。」インフェルノは言った。 トーナメントのタイムテーブルと対戦の結果を繰り返し読んでいたグランドコンボイは、ガルバトロンの名前が残る最後の行で視線を止めた。 「”第三戦、試合放棄”・・・か。」 「ここでアクセスも途切れていますね。」 ホットショットが言うと、スカイファイアが呆れたように言った。「残りの試合は見ないで帰ったって訳だ。気の短い奴だな」 実にガルバトロンらしい行動パターンだ、とグランドコンボイは思ったが、言葉にはせず心の中に留めた。そう思ったのは、プログラムのどこかに彼の存在を見つけたいという自分の根拠のない主観、願望のせいに違いないのだ。 「これだけでは何もわからないな。」グランドコンボイは腕を組んで唸った。 「インフェルノ、ご苦労だった。次の報告はまた二日後とする。それまでに何かあったら知らせてくれ。解散。」 司令官の宣言に、メンバーはやれやれと立ち上がった。 その場に残ったグランドコンボイの聴覚に、廊下に出ていくスカイファイアが同僚に向かってこう言うのが聞こえた。 「足跡も残さず消えてしまったなんて、まるで幽霊だな。」 その日の深夜。 指令本部は人の気配がなく、どこも静まり返っていた。戦争が終わってその必要がなくなった今、警備のための歩哨の姿もほとんどなかった。 この星は静か過ぎる。落ち着かない。グランドコンボイは思った。一体いつから、この星はこんなにも静かになったのだろうか。居心地の悪さを感じて、彼は足を速めた。 高い天井と壁に囲まれた長い廊下を下り、やがてグランドコンボイは一枚のドアの前で立ち止まった。ロックを解除し、真っ暗な部屋に足を踏み入れる。 調査が始まってから使用が禁止されている仮想訓練ルームには、誰もいなかった。 彼は部屋の正面に据え付けられたパネルに歩み寄り、部屋の扉を司令官権限でロックすると、件の訓練プログラムを起動した。 対戦相手や試合の条件を設定した後、コンピュータと自分の神経システムを直接接続してコンピュータからの信号を待つ。数秒もしない内に、フェードアウトするように意識が途切れた。 次に彼が目を覚ました場所は、広大なスタジアムだった。 彼の足元にリングはなく、平らな金属のフィールドが空っぽの観客席の下まで続いていた。一筋の風もないスタジアムは静寂に包まれていた。 グランドコンボイの目の前に、彼の部下の一人であるロードバスターが現れた。対戦相手はプログラム開始に当たってコンピュータに無作為に選ばせたもので、グランドコンボイが彼との試合を望んだわけではない。 前触れなく、どこからともなく試合開始のサイレンが鳴り響く。ロードバスターはぺこりと会釈し、威勢良く声を上げた。「お願いします!」 グランドコンボイと仮想敵は同時に動いた。 グランドコンボイはロードバスターの攻撃を受け流し、混戦にならないよう上手く間合いを取りながら、この彼のスペックは一体いつのものだろうかとぼんやりと考えていた。自分が本物の彼と最後に手合わせをしたのは、三ヶ月は前だっただろうか? そうして何分かが過ぎた頃、グランドコンボイは突然、目の前にいるロードバスター以外の誰かが自分を見ていることに気づいた。 興奮と緊張に頭が熱くなり、ざわざわと胸騒ぎがする。それは決して錯覚ではなかった。強い意思を持った何者かの視線が背に注がれている。だが振り向いてその姿を見れば、その瞬間にそれが消えてしまうような気がして、彼はその気配に意識を半分奪われたまま仮想敵との戦いを続けた。彼はこの対戦が終わるのが恐ろしく思えた。 しかし彼の祈りも虚しく、数度目に倒れた敵はそのまま起き上がることなく虚空にかき消え、グランドコンボイの勝ちが決まった。しかし、そこで終了するはずのプログラムはいつまで経っても停止せず、スタジアムも変わらず存在し続けた。 グランドコンボイは背後を振り向くことができなかった。加熱した体の中を、激しく空気が出入りする。彼は脚を動かすことを忘れたかのようにその場に立ち尽くしていた。 喉が切り裂かれるような沈黙が続く。グランドコンボイの喉がごくりと鳴った。 背中に感じる気配はまだ消えていない。それどころかますます強く感じられた。グランドコンボイは意を決して、恐る恐る振り返り、その姿を見た。 「・・・ガルバトロン。」 見間違えようがなかった。ガルバトロンは以前と変わらぬ姿で、尊大にグランドコンボイを見下ろしていた。 ガルバトロンはにやりと笑った。「相変わらず、見事な腕だ。グランドコンボイ」 グランドコンボイは言いようのない感慨に打ち震えた。超えることのできない隔たりを持ったあの時からずっと、心から求めて止まなかった対象が目の前にあった。気高く力に溢れた涼しげな姿、情熱に燃える深紅の視線は、以前と少しも変わらない。 いつまでもただ彼を見詰めている訳にも行かず、グランドコンボイは薄氷を踏む思いで口を開いた。一つ間違えば、彼の姿は初めからそこになかったかのように消えてしまうような気がした。 「約束を・・・覚えていたのだな、ガルバトロン」 「約束?」ガルバトロンは怪訝そうに訊き返した。 「続きを・・・する約束だったろう。あの時の・・・続きを」 一瞬、不自然な間があって、ガルバトロンは頷いた。「そうだったな。」 グランドコンボイは息を飲んで彼の反応を見守っていたが、ほっと肩の力を抜いた。どうやら、とりあえずは彼を引き止めることに成功したらしかった。 「行くぞ、ガルバトロン。私はこの時を待っていたんだ。手加減はしない」 「来い、グランドコンボイ!」 グランドコンボイは再び地面を蹴った。 現実の世界で幾度となく繰り返されたように、一対一で戦う彼らの勝負はなかなか付かなかった。それほど実力が伯仲しているのが改めてわかって、グランドコンボイは気分が高揚するのを抑えることができなかった。 やはり彼しかいないのだ。例え幻だとしても、彼だけが唯一、自分と同じ場所に立っている。 「隙だらけだぞ、コンボイ!」 「ぐっ・・・!」 まともに彼の一撃を食らってよろめいたグランドコンボイは、そこに本来あるはずのない感覚が存在することに気付いた。 「そんな、まさか・・・」 痛覚だけではなかった。訓練プログラムによって遮断されるはずの、鮮やかな五感がすべて揃っている。 グランドコンボイの当惑に気付いて、ガルバトロンが愉快そうに声を上げた。 「何も感じぬ虚構の世界で、本当の戦いなどできるものか!」 「ふふ・・・お前らしい言い草だな。」 突然の異変に対する、納得できる説明など必要なかった。 グランドコンボイは周囲の世界が先ほどまでとまるで違っているのに気付いた。スタジアムは消え失せ、変わりに彼を取り囲むのは草木に覆われた自然の風景だった。遥か頭上には無限の波長を持った太陽が輝き、透き通った風がボディを撫でる。彼を支える地面は硬く、確かな弾力をもって彼の足を押し返した。 本当にあの時を取り戻したかのようだ。グランドコンボイは興奮に我を忘れた。 戦いを楽しむ彼らの勝負は、いつまで経ってもつかなかった。日が暮れ夜が明け、どれほど時間が過ぎたかわからなくなった頃、ほとんど同時に、二人は疲労困憊してその場に座り込んだ。 グランドコンボイは視界を閉ざしたまま、すぐ近くにあるガルバトロンの気配を感じていた。 荒い息遣い、体のあちこちが軋みを上げるのに、少しもそんな素振りを見せようとしない強がりは、まるで彼そのものだ。 こうして間近に接する機会が、自分にはどれほど与えられただろうか。否、どれほど強く望んだことか。 やがてガルバトロンの動く気配があった。彼は立ち上がり、グランドコンボイを見下ろしていた。 「今日はここまでだ。楽しかったぞ、コンボイ。また会おう。」 グランドコンボイははっとした。立ち去ろうとするガルバトロンの腕を、彼は掴んだ。 「ガルバトロン」 怪訝な顔をして、ガルバトロンは足を止めた。「何だ?」 グランドコンボイは、今この機会を逃せば、自分が彼と会う機会はこの先二度とないのではないかと思った。だが、これを伝えてしまえば、同じように彼は二度と自分の前に姿を現さないのではないかという気もした。 迷った末、グランドコンボイは覚悟を決めた。彼は今まで一度も言わなかった言葉を口にした。「ガルバトロン、行かないでくれ。」 ガルバトロンは驚いた様子でグランドコンボイを見た。 「ガルバトロン、お前が好きだ。私を置いて行かないでくれ。」 (でもお前は行ってしまった) ガルバトロンの腕を掴んだまま、グランドコンボイは少しだけ彼から視線を逸らした。 「あの時・・・お前がいなくなってからずっと、私はこの宇宙と私の心の中にお前を感じている。だが寂しいんだ。お前を失って、私の心は大きく欠けてしまった。私は自分がこの世界に酷くそぐわない存在であるように思えてならない。」 ガルバトロンはグランドコンボイの傍らに、再びどっかりと腰を下ろした。「お前ともあろう者が、随分と弱気なことだな。」 「ガルバトロン。いつだって私を夢中にさせるのはお前だけだった。お前だけが永遠の闇に沈みかける私の意識を呼び覚ましてくれた。私はこの先もずっと・・・この世界でお前と共に生きていくのだと思っていた。そう信じて疑いもしなかった。だがお前はあまりに突然に、遠くへ行ってしまった。私を一人残して。どうして・・・」 「・・・すまんな。」ガルバトロンは静かに宥めるようにグランドコンボイの肩を抱いた。グランドコンボイは弾かれたように、彼の背に両腕を回して抱きついた。 「いいんだ、わかっているんだ。悪いのは私だ。お前にはお前の道があり、目指すべき世界があった。私の言葉でお前が立ち止まることはないということも、私は知っている筈だった。だからこそ私はお前が好きだった。だからこれは私の勝手な恨み言なんだ。」 優しく背を抱き返すガルバトロンの腕に力づけられて、グランドコンボイは告白を続けた。 「お前が好きだ・・・ずっと前から。ずっとお前を・・・」 グランドコンボイは顔を上げ、間近にあるガルバトロンのそれにそっと近づけた。そして半分掠れた声で訊いた。「キスしてもいいか・・・?」 「ここまでしておいて、やめるつもりもあるまい?」 睦言のように甘く囁き返し、ガルバトロンはグランドコンボイに口付けた。グランドコンボイは安堵に微笑み、初めて触れる彼の唇と体の内側の感触に、眩暈を感じる程の快感を覚えていた。 何度も口付けを繰り返しながら、グランドコンボイは震えそうになる声で告げた。「ずっとこうして・・・お前を近くに感じたかった。」 「それは知らなかったな。」ガルバトロンは少し笑った。「もっと早く言えば良かったものを」 「そうだな・・・」 言葉は途切れてガルバトロンの唇に飲み込まれた。傷めた背中が抱き締められて軋んだ。グランドコンボイは腕に包んだガルバトロンの頑強なボディと、その内側に明々と燃える彼の生命を全身全霊で感じた。これが虚しいプログラムの幻影であるとは、彼には信じられなかった。 しかし彼は同時に思った。これが例え虚構の姿でも、嘘でも良い。彼を感じることができるのなら。 「ガルバトロン」彼は囁くように、何度も愛しい名前を呼んだ。 仰向けに寝転んだまま、グランドコンボイは目の前にかざした片手をじっと見ていた。そして傍らにあるガルバトロンの背に、聞かせるともなく呟いた。 「もっと早く、お前が私の前にいる間に、お前に私の気持ちを伝えておけば良かった。私は今でも後悔している。」 「今聞いた。それで良いではないか」 「・・・・プログラムでもお前は優しいんだな。今更ながら惚れ直したよ。」 グランドコンボイは目を伏せて力なく笑った。彼は体を起こし、ガルバトロンの肩に額を預けてもたれかかった。ガルバトロンは何も言わず、グランドコンボイの肩を抱き、彼の背を撫でた。 何と都合の良い夢だろう。グランドコンボイは己の情けなさにため息をついた。だが幸い、この閉鎖空間には誰も自分の声を聞く者はいない。詮無い想いに停滞した心の内を洗い浚い白状し、浄化するにはまたとない機会に違いなかった。彼は自分に言い聞かせるように言葉を続けた。 「私は身勝手だ。お前に傍にいて欲しいから、お前に生きていて欲しいだなんて。そんなのは間違っている。本当にお前の為を思うなら、私はお前を縛るべきではないのにな・・・」 グランドコンボイは声を震わせた。 「それでも・・・それでも、私はお前と一緒にいたかった。例えお前の望みが潰えたとしても、それでお前と同じ世界で生きられるのなら、それでいいと私は思っていたんだ。サイバトロンの力や私の手によって守られることをお前が善しとしないだろうということも、私にはわかっていた。」 ガルバトロンが変な顔をした。「おのれ、何でも知ったような口を利きおって・・・」 「はは、図星だろう? お前は私以上に負けず嫌いだからな。」グランドコンボイは笑ったが、すぐに笑いを収めた。自分こそ、今回目の前で彼を失ってようやくそれを思い知ったのだ。 「それでも私は、お前に生きていて欲しかった。私はユニクロンからお前を取り戻すのに必死だった。そして今度は私の知っているお前に存在し続けて欲しいと願った。私は、ガルバトロン、お前に固執しながら、そのくせお前自身を尊重しようとしなかった。私にとって都合の良いように、お前を操作しようとした。私はお前を守ろうとしていたのではない。私は、私自身のために、私の中のお前を失わないようにしていただけだ。」 グランドコンボイの脳裏に、火球を背に笑うガルバトロンの最後の姿が蘇った。 「あの時だって、私はお前を―――」 言い募る彼の言葉を、ガルバトロンが遮った。少々乱暴に彼はグランドコンボイの顎を片手で捉えて上向かせ、そして言った。 「―――愛していたから、行かせたのだろう?」 グランドコンボイは言葉を失い、ただ間近にあるガルバトロンの顔を見詰めた。深紅の双眸がにやりと笑う。 グランドコンボイの口が僅かに開かれ、何かの音を形作る前に再び強く引き結ばれた。嗚咽を殺した彼の喉が小さく音を立てた。 グランドコンボイの頬を撫で、喉を滑ったガルバトロンの指先が再び愛しむように顔の輪郭をなぞった。それ以上の言葉はなく、二人はお互いに引き寄せられるように唇を重ねた。 * その後、グランドコンボイも含め、訓練プログラムでガルバトロンの姿を見た者は誰もいなかった。彼の指示によって調査は打ち切られ、人々の間で囁かれていた憶測の入り混じった噂話も次第に忘れられていった。 The End |
えー、最終回からハッピーエンドにしてみました。 だって〜グラコン可哀想じゃん。両想いを再確認して、さてこれから! って時にいきなり一人取り残されちゃってさー。 ガルバトロンは死んだわけじゃないって話もあるけど、少なくとも今生の、 あのガルバトロンには二度と会えない状態な訳だし。 グラコンは遠くにいて存在を感じながら生きるより、目に見える彼の姿を見て、 そんでたまには戦ったり、もっとそういうことをしたかったんじゃないかなー。 ライバルとして、並んで(向き合ってでもいいけど)人生を歩きたかったみたいな。 そういう意味で生涯の友とか言ってたんじゃないかなーと思いました。 まあSLがM伝から続いていないと思えば、今まで何千年も何万年もこうやって ラブラブでやってきたんだね〜それで今回は転機だったんだねーってことでもいいんですが。 いずれにしても、いきなりアッサリ置いていかれた感じが強かったので、 きっと気持ちの整理がすぐつかないじゃないかなーとか思って書いてみました。 えーと、解説を・・・ このガルバさんはご本人じゃありません。 #SPのトーナメントの時のご本人のデータというのが一応正解です。 消去されたはずのデータが出てきたので"幽霊"ってことで。 途中でグランドコンボイの話についていけてなかったりしてる割にラストの 台詞は何だって話ですが、そこはまあ幽霊なんで・・・と言いたいところですが、 グラコンの記憶とか、意識に影響されてる部分もあるんではないかと。 なんせこのプログラムはグランドコンボイとリンクしてる訳ですしね。 半分は彼の夢でしょう。(またか!) まあ、ガルバトロン(のデータ)は自分が死んでることは知ってると思います。 トーナメント以降の記憶はないので、グラコンの話とか、自分は死んでるけど 彼は生きてるとか、そういうことから総合的に考えて、上手く話を合わせてるだけです。 何故そんなことするのか?だってガルバさんもグラコン好きだから。 愛だね、愛。 嫌だーこんなのハッピーエンドじゃないー(T_T) って人は「*」以降をこのオマケと入れ替えて読んで下さい。 |