以下の文章は所謂「女性向け」ファンフィクションです。やおい、BLといった分野に興味のない方の閲覧はお止め下さい。



Lion’s Lair Inn

13:00 子供達が帰って来た


 

昼過ぎ、ビーストモードで居間の絨毯の上でうとうとしていたライオコンボイは、オフィスで鳴った入電のアラーム音を聞きつけてぴくりと耳を動かした。

「ガルバトロン、子供達が到着したようだ。」

すぐ脇に置かれたソファを振り返る。しかし返事がない。

彼は立ち上がってソファの正面に回り込み、ガルバトロンの膝の上で開いたままの本に乗せられた、彼の手を鼻先で突付き、ぺろりと嘗めた。

「ガルバトロン。メガストームとライオジュニアが着いたぞ。」

「む・・・そうか。」

ようやく反応があった。

ガルバトロンは手を伸ばしてぽんとライオコンボイの頭を撫で、静かに本を閉じた。




見慣れた小型の高速艇が透き通った空気の中を滑るように近付いて来る。船は静かに空き地に着陸し、開放されたゲートから格納庫に入って止まった。

動力が落とされると同時に、ハッチが開いて賑やかな声が飛び出してきた。

「父さん! ガルバトロン! ただいま!」

駆け寄って来たライオジュニアは荷物を放り出してライオコンボイに飛びついた。

「お帰り、ジュニア、メガストーム。」

「ただいま。兄ちゃん、ライオ。」

照れくさそうに笑うメガストームの頭を、ガルバトロンはがしがしと撫でた。

「二人共、よく帰って来たな。長旅ご苦労だった。」

「本当だよ! 休みは二ヶ月しかないのに、ここまで片道二週間もかかるんだから・・・ほんとにどうして父さん達はこんな辺鄙な所に住んでるんだか!」

ぼやくライオジュニアに、メガストームが言った。「それでも帰るって言い張ったのはお前なんだぞ。」

心外とばかりにライオジュニアは言い返した。「だって二年振りの長期休暇なんだよ。お前だって父さんとガルバトロンに会いたいって泣いてたじゃないか!」

「なっ、誰が泣いてたって! 俺はちょっとウチを思い出してしんみりしてただけなんだぞ! お前と一緒にするな!」

「僕は泣いてないよ!」

掴み合いになりそうな二人をライオコンボイが押し止めた。

「まあまあ、二人供、まずは部屋に荷物を運んでしまいなさい。食事をしながらゆっくり話をしよう。学校の話を聞かせてくれ。」

「はあい。」二人は口々に返事をした。

荷物を運び込むのを手伝ってやりながら、ライオコンボイは笑って言う。「こんなに長くうちを離れたのは初めてだものな。私もお前達と久し振りに会えてとても嬉しいよ。」

「俺も、二人が元気そうで安心したんだぞ。」

「ありがとう、メガストーム。お前は元気だったかい。」

「うん。」

「それは何よりだ。さあ、早く家の中に入ろう。」

ライオジュニアとメガストームの生家は広い。広大な土地の真ん中の、大きな森に寄り添うように作られた要塞のような建物は、ライオコンボイが経営するB&Eと彼らの家族の住居を兼ねている。何しろ部屋数が多く、ベッドと机で半分が埋まっているような小部屋から、大型クルーザーが停泊できる格納庫まで様々だ。宿は旅人に安全で快適な寝床と必要なエネルギーを提供するのが役割である。

とは言っても、ライオジュニアの知る限り、ライオコンボイの宿には年に数える程しか客が来ない。こんな不便な所にあるのだから当たり前だ。これでどうやって彼の父親が四人の家族を養う生活を成り立たせているのか、ライオジュニアは昔から不思議に思っていた。

ライオジュニアは自分の部屋に荷物を置くと、物置を挟んで隣にあるメガストームの部屋を覗いた。「メガストーム、早く父さん達の所に行こうよ。」

「おう。」




「ああおいしかった! ごちそうさまー!」

これでもかと用意された食事を残らず平らげ、ライオジュニアは素直に感想を述べた。

「やっぱりうちの飯が一番美味いんだぞ!」

メガストームも満足げに息を吐くのに、ライオコンボイは笑って言った。

「寮で出るのと大差ないだろう。」

「いやいや! 全然違うんだぞ。特に軍事訓練期間中のやつは不味いの何のって。」

ライオコンボイが嗜めた。「あまり贅沢を言ってはいけないぞ、二人共。充分な量が支給されるだけでもよしとしなければ。」

「うん、わかってるけど・・・軍から支給されるエネルギーは何だか味気なくて。」ライオジュニアは椅子の背にもたれかかった。「やっぱり、父さんの作ってくれるのが一番美味しく感じるんだ。」

「そうだ、絶対気のせいなんかじゃないんだぞ。」

「エネルギーの組成や濃度の組み合わせは無限にある。体質や状況によって味の感じ方も様々だ。」

ガルバトロンが静かに言うと、ライオジュニアはきょとんとした。

「ライオコンボイはお前達に一番合ったエネルギーをデザインする。だから美味く感じるのだろう。」

「じゃあ、やっぱり父さんの作るご飯は美味しいってこと?」

「そういうことだ。ライオコンボイはお前達を喜ばせようと、何週間も前から準備をしていたのだ。礼を言っておけ。」

ライオジュニアはぱっと表情を輝かせた。「そうだったんだ・・・僕全然知らなかった。ありがとう父さん!」

「ありがとう、ライオ。手間かけさせて悪かったんだぞ・・・」

メガストームも熱心な視線を向ける。ライオは嬉しそうに頷いた。

「いいんだ、二人共。お前達がそう言ってくれるから、用意する甲斐があるよ。」

「うん、ありがとう、父さん!」

「俺達は幸せ者なんだぞ・・・」

家族をにこにこと見渡しながら、ライオコンボイは席を立った。「さあ、まだデザートがあるぞ。皆、食べられるか?」

「やった!」




デザートを食べ終わってひと心地つくと、ライオジュニアが訊いた。「ねえ父さん、父さんは昔軍人だったんでしょ?」

「そうだよ。お前が生まれる暫く前まで軍で働いていた。」

「ガルバトロンも・・・だよね?」

「・・・そうだよ。」ちょっと間があった。「それがどうかしたのかい。」

「うん、実は・・・」ライオジュニアはメガストームを見た。

メガストームが言った。「この間、歴史の時間に習ったんだけど・・・」

「ああ。」

「大戦の終結と和平樹立の立役者で、最も偉大な名将・・・ガルバトロン将軍、って。」

ライオコンボイは咄嗟にガルバトロンの顔を見た。泰然とした彼の様子に知らず安堵し、そっと視線を戻す。

「これって、兄ちゃんのことなの?」

ライオコンボイはにこりともせずに頷いた。「そうだよ、メガストーム。」

「大戦の最後に、そのー・・・亡くなったって。」メガストームは言い難そうにして付け足した。「これは歴史書に書いてあったんじゃなくて、噂で聞いたんだけど。」

「死んでなどいないよ。ガルバトロンは目の前にいるじゃないか。」

「・・・俺が幽霊に見えるのか?」ガルバトロンが笑って言った。

ライオジュニアが念を押した。「じゃあ、本当に、ガルバトロンはあのガルバトロンなの?」

ガルバトロンはのんびりと応えた。「どのガルバトロンだか知らんが、恐らく俺のことだろう。大戦中、軍にガルバトロンは俺しかいなかったからな。」

「すごい!」ライオジュニアとメガストームは飛び上がらんばかりに喜んで声を上げた。

「僕、今まで、ガルバトロンってずっと寝てるか、書斎で本読んでるだけの隠居爺だと思ってた。」

「こら、何て言い方するんだジュニア!」

「そうなんだぞ、宿だってライオコンボイ一人で切り盛りしてるし。尤も、客、全然来ないけど。」メガストームも同調して言ったが、最後の方は小声だった。

ライオコンボイの目の金色の光が不安定に揺れた。「宿は私が趣味でやっているだけだ。私ひとりでやることを、不満に思ったことはない。」珍しく彼は声を荒げた。「それに、彼が何度も手伝おうと言ってくれたのを断ったのは私だ。だから、ガルバトロンを悪く言ってはいけない。そもそも彼が・・・」

ガルバトロンはやんわりと彼の言葉を遮り、笑って言った。「俺は、隠居であることは否定しないぞ、ライオコンボイ。」

「ガルバトロン、お前まで・・・!」

まだ神経質になっているライオコンボイをガルバトロンは手招きし、戸惑いを見せつつも近付いて来た彼を膝の上に抱き上げた。大きな手で頭や顔を何度も撫で付け、いつも通りの落ち着いた声で宥める。「そう怒るな。可愛い顔が台無しだぞ、ライオコンボイ。」

「私は怒っているわけでは・・・」ライオコンボイはばつが悪そうに俯き、声を落とした。

腕の中で小さくなった彼の喉元やら頬やらを擽るように撫でながら、ガルバトロンは真顔で畳み掛けた。「今のは嘘だ。お前は怒った顔も可愛い。」

「ば、馬鹿、何を言うんだ、ガルバトロン・・・」ライオコンボイはかっと頭に熱を上らせ、どぎまぎして言った。視線は逸らせたまま、しかしその腕はガルバトロンの肩にしがみ付くようにしっかりと回されている。

ライオジュニアとメガストームはうんざりとした表情で顔を見合わせた。

「また始まったよ。」

「完全に二人の世界なんだぞ。」

ご馳走様、と言い置いて、二人は自分達への部屋へと引き上げて行った。






(夜に続く)


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