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「竜の宝玉とはじまりの森(仮)」

第七章「それぞれの意志」 (六)


 それは、突如として起った。
 一度、地面が揺れた。
「何だ――」
 宿営地にいたワッツは辺りを見回した。
 レオアリスを部下達に預け森へ送り出して少し肩の荷を下ろし、部隊にはいつでも撤退できるよう準備をさせていた。あと半刻も待てば、森に散っていた他の部隊も合流する。
 それを待って撤退を開始する事をウィンスターに進言するつもりで、ウィンスターのいる天幕に向かっているところだった。
 樹々が大きく身を震わせ、足元の池が激しく波打って岸辺を叩いている。
 その波紋が兵士達へも広がっていくように、宿営地に騒めきが走っていく。
「――落ちつけ」
 叫ぼうとしたワッツの眼が一点に吸い寄せられ、凍り付いた。
 池の向こう側に見えるなだらかな丘の奥――斜面の向こうが膨れ上がり、――轟音とともに白く輝く柱が天空へと立ち昇った。
 樹々が、大地の欠片が上空へ吹き上がり、光に溶けるように消え失せる。
 それらは、実際に、溶けていた。
 柱から降りかかる輝く光の雨に触れた樹々が、音もなく溶けていく。
 それに気付いた時、ワッツは心底、この場に居合わせた事を後悔した。
「退け……」
 自分の声のあまりの小ささに気付き、ワッツは無理矢理、あらん限りの声を張り上げた。
「退けッ!」
 池の縁を走りながら、怒鳴り続ける。
「身一つで構わねぇ! 走れ! 固まるな! 散れ! 三人一組だ!」
 兵士達が森へと走り込んでいく。三人一組になれているのかどうか、判る状態ではない。
 しかしそれもどうでも良かった。
 一ヶ所に固まったままあれを――あの「息」を食らったら、終わりだ。
「行け!」
 叫びながら、ワッツは再びぐるりとその場を見渡し、そしてそれを見た。
 光の柱が、静かに消えていく。
 それに取って代わるように――丘の上に、巨大な翼が広がった。
 闇よりも深い漆黒。
 長い首がゆっくりと持ち上がる。
 その爛々と燃える両眼。
 ワッツは、立ち止まった兵士達は、全身が石と化したかのようにその様を眺めている。
 丘の上で、黒竜は立ち尽くす兵士達を睥睨し、世界を切り裂くように咆えた。





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