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BreakTime I

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「俺の代わりになんて言う訳じゃないけど、彼が君の傍にいてくれるだろ? 君は多くの事を彼から学べる。だから君には、兄が三人いるみたいなものだね。すごくないか?」
 レオアリスの姿を見て、涙で潤んでいるファルシオンの瞳も、ほんの少し、悲しみを和らげた。



 全てが終わり、イリヤはラナエの肩に腕を回し二人して微笑み合いながら、改めてレオアリス達の前に立った。
「本当に、何て言ったらいいか……君達のお陰で、ラナエとよりを戻せたよ。何よりも感謝してる」
「より……? ポイントはそこでいいのか……?」
 レオアリスの突っ込みはイリヤには気にならなかったようだ。
「ホントにさ、フォルケ伯爵の娘と結婚なんて事になったらどうしようかと思って。彼女もそれほど悪い子じゃないけどさ」
 それを聞いたラナエの顔色がさっと変わる。
「ちょっとイリヤ、何の話!? 結婚って」
「あっ、いや、君の方が断然かわいいって! 本当だよ!」
 こういう場合、往々にしてものすごい怪しげな言い訳が飛び出すのは何故だろう。
「あたしがいない間に……貴方ってばいっつも」
「そ、そう言えば!」
 イリヤはたじたじと後退り、逃げるようにぱっとレオアリスに顔を向けた。
「俺は君に謝らなくちゃいけない事があるんだよね。本当に申し訳ないと思って」
「イリヤってば!」
「いや、今は俺どころじゃないと思うが……何だ?」
 余り関わりたく無かったが、イリヤが話題を逸らしたいのは判ったので、レオアリスは取り敢えず水を向けた。
「ほら、俺が君を館に誘い出した時、君は待ち合わせをしてたって言っただろう、アスタロト様と」
「ああ……、……、――うおあ!」
 突然奇妙な叫びを上げ、その後、顔からざあっと血の気が引いた。
「ま、待ち合わせ……」
 すぐに謝ろうと思っていたのに、あれから既に二日経ってしまっている。
 当日ならまずいと慌てふためく気力もあったが、既にその段階も過ぎた。
 今は――謝りに行くのも恐ろしい。
 イリヤは凍り付いたレオアリスの顔を、ものすごく申し訳なさそうに見つめている。
「まだ謝ってなかったのか……そりゃそうだよな、俺が騒がしたし。多分ものすごーく怒ってるよね。本当に悪い事したな……」
「はは……」
 イリヤの言葉に追い討ちをかけられ、乾いた笑いが洩れる。
「ま、まあそんな気にする事じゃねぇって……」イリヤへは引きつった笑みを向けつつ、レオアリスは傍らのロットバルトへ、さり気なさを装った視線を向けた。「――こういう場合、何かいい手があるよな?」
 ロットバルトは視線を逸らし、すい、と一歩退く。
「申し訳ありませんが、さすがに……」
「いやいや、何かあるだろ、何か。得意分野だろ?」
「女性を怒らせて宥めるのに有効な手段は知りませんね」
「そう言わずに……このままじゃ確実に黒焦げになる」
「そうでしょうねぇ。――ああ、クライフ中将に聞いてはいかがです? 謝るのは慣れているでしょう」
 ロットバルトはぽんと手を打ち、さらりとクライフに問題を投げた。スルーパス……ではなくパスをスルーだ。
 レオアリスの視線がクライフに移る。期待、というより一縷の儚い望みがそこに宿っている。
 クライフは慌てて手を振った。
「待て待て待て、何で俺に振る? いやそれより何でそんな例えなんだ?」
「例えを言っている訳ではなく、現実的に、数ある経験談の中から一つ位参考になるものがあるかもしれないと、そう言っているんです」
 ロットバルトはクライフを真っ正面から見据え、一区切り一区切り、さも当然そうに力強く言い切った。
「お前、どこ切り取っても失礼な……」
「クライフ、何でもいいから教えてくれ!」
「上将も本気にしない!」
 クライフがぐるりとロットバルトに向き直り、何を思いついたのか、指を突き付けて勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
「大体てめぇ、女に泣いて詫び入れた事もねぇなんてなぁ、その程度の浅〜い付き合いしかしてねぇって証拠じゃねぇか?」
「泣いて詫び? まさか。そこまで感情的になって何の利点があるんです?」
「利点……」
「第一私は泣いて詫びるまでの経験談を語れとは求めていませんが……それほど語りたいと言うのなら」
「忘れたいわ! ボケ!」


 イリヤは暫く他人事のように彼等の会話を聞いていたが、ファルシオンの肩を引き寄せ、にこりと笑った。
「ファルシオン、前言撤回する。あんまり聞かない方がいいよ。この人達人生の参考にはならないかもしれないから」


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renewal:2009.6.13
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