一
「さぁーむぅーいぃいー!!!」
声を限りに叫んだところで、叩きつけてくる吹雪が止んでくれる訳ではない。
むしろ激しくなった気がした。
「レオアリスー! どーこぉー!?」
声を限りに叫んでも、返事が返る気配もない。声は白い雪の幕に簡単に吸い込まれ、余韻すら残らなかった。
荒れ狂う雪の粒。ひらひらと舞い降りて来る時は美しく柔らかに思える雪も、この勢いで顔に当たると一粒一粒が尖って肌を刺すように痛い。
深い森は風雪を少なからず遮ってくれるものの、それすら意味なく感じてしまう強い風が吹き荒れている。
アスタロトは身を縮め、傍らのアーシアを抱き締めた。というより抱き付いた。アーシアはひやりと冷たい。
「寒い〜! アーシア肌冷たい〜!」
「すみません、僕が変温動物で……」
この寒さに合わせてアーシアも体温が下がっている。飛竜だから。外気温に応じた体温を保つ種を変温動物と……
「アーシアが気にする必要ないぞっ」
雄雄しく告げつつも、アスタロトは激しく迷っていた。
人生に、とかではなく、道に。
この一間先も見えないような真っ白な雪の世界で。
頬に感じるアーシアの肌の冷たさに、アスタロトは吹雪く白い世界を精一杯の恨みを込めて睨み付けた。
「こんな雪なんて、私があっという間に溶かしてやるんだから!」
そう叫ぶと、手のひらに作り上げた火種に向かって、アスタロトはふうっと息を吹き掛けた。
火種は膨れ上がり、轟く激しい炎の奔流となり、吹雪の幕を穿つ。
けれどそれも一瞬の事で、吹雪はあっという間に穿たれた穴を埋め尽くし、アスタロトを嘲笑うかのように吹き荒れた。
この北の辺境に果てなく横たわる黒森――ヴィジャは、不用意な侵入者を無慈悲に拒む。
いや――拒みもせず、ただちっぽけな小石のように、意識の端にも引っ掛けないのかもしれない。
炎帝公と言われ、全てを焼き尽くす炎を有すると評されながら、自分は何と無力なのだろうとアスタロトは呻いた。
炎など、この自然の猛威の前に何の役に立つのか。
「死ぬ……凍える……」
手足は氷で造られたかの如く冷たい。髪は凍り付いてずしりと重く、口元を覆う布から漏れる息はその場で凍るようだ。
気力で耐えていたものの、この骨を震わせる寒さも真っ白い世界に立つ孤独感も、そろそろ限界に近付いていた。
「死ぬ……」
アスタロトが雪の上に膝を付き、アーシアはその肩を両腕で覆った。
「アスタロト様、しっかり……!」
「――どこ?」
アスタロトの唇が儚く震える。
「……温泉どこぉー!?」
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