天使は、古代オリエントにおいて、神と人間のあいだを仲介する霊的存在・
精霊として、様々なものが考えられていた。ユダヤ教では、「神的存在」として
古くは「ケルブ」や「セラフ」が考えられていたが、それとは別に、「神の使い
(使者)」としての「天使(マラク・マラハ,malach)」が考えられており、後
世、ガブリエル、ミカエル、ラファエルなどがポピュラーな天使となった。
ユダヤ教での伝統的な天使(御使い)は、人の姿(主に、青年男性の外見)
をしているか、不可視であることが一般で、「有翼」ではなかった。後世に図像
的に出現する「有翼の天使」の像・イメージは、オリエントやペルシアの「天使
・精霊」のイメージである。「セラフ seraph(複数 : セラフィム, seraphim)」
や「ケルブ cherub(複数 : ケルビム, cherubim)」は有翼で、かつ多数の目
を持っており、通常の「神の使い」とは別格の異形の「精霊」とも言える。
天使は本来、神よりの「善と義の使い」であるが、「霊」として畏怖の対象
でもある。『旧約聖書・ヨブ記』に出てくる「サーターン,Satan」は、善でも悪
でもなく(しかし「義の天使」ではある)、ヤハウェの意志に忠実な「神の使い」
として登場するが、後に、悪の天使(堕天使)の頭とも見なされた(サーターン
はまた、サマエルとも呼ばれた。これは「悪の天使(毒の天使)」の原義をヘブ
ライ語で持っている)。
グノーシス主義の多くのアルコーンとして、ユダヤ教やキリスト教の天使が
援用された。『旧約聖書アポクリファ』である『エノク書』などに出てくる多数
の天使が、端的にアルコーンであるとも考えられた。天使は、古代ギリシアのダ
イモーンが、その一種だとも考えられ、ダイモーンは、英語の damon (悪魔)の
原語となった。しかし、ギリシア語の本来的意味では、ダイモーンは、悪でも善
でもない、中立的な霊的存在・精霊である。
参照 : →〈
キリスト教天上位階論・天使位階表〉