建築設計図 解説U
小野武雄・著 大邸宅概算



解説Tよりの、つづき
  第六図切断面図、向かって左方下部の如く、腰羽目を入り口の高さに取り、桜材及びオーク材を
 以ってマホガニー色に仕上げ、ストーブ前飾りに青梅産の蛇紋石を用いたなら、配合すこぶる
 面白くしてり立派でしょう。
  書斎は客室と相対して東北の一角、光線の平らな所に定め、壁に添って書棚を連ね、腰羽目は
 欅(けやき)或いはオーク材の油磨きとし、壁色も薄浅黄色などにすれば心気自ら沈静なるを得て、
 読書などには適当です。
 
 

 裏階段は地下室より昇りて、中央より左右に分れ、一つは配膳室に入り、一つは事務室前廊下に出られます。
尚その片側は階上に向かってかいだんを設けました。

  


 地下室は第四図に示す如く、食堂の下を厨房
とし、配膳室のしたを入口広間とし、ここに
 食器用のリフトを設けます。
 玉突室の下はメイド室で、三階屋根裏もまたメ
イドの寝室及び物置にあてます。
 事務室は北向きに致し、クロークには洗面所
及びトイレを設け、玉突室にも同じく化粧室を設
けます。
 玉突室は平屋建てとし、四方から光線が射し
込むようにします。
 そして暖炉の左右及び室の一隅には、取付け
椅子を備えるのです。

 この室は時には喫煙室に代用することがあり
ますから、瀟洒なる装飾を施工する必要があり
ます。
 尚天井には天窓を設け、光線がかたよらない
ようにして、入口前には外階段を設け、庭園の
散策に便利の好いように設計します。

     階下    玉突室

  階上なは、主に寝室、居間等を設けます。
 我が国の従来の考え方では、夏時の炎熱及び階段の不便などよりして階上を客間に用い、
 階下を居間に充てますけれども、大邸宅においては矢張り西洋風の配置を行った方が便利です。
 
  夫人室は南に面した所の最も好位置を選んだのは、婦人用の客室に使用される事があるからで  
 す。
 室内の装飾は出来うる限りエレガントにし、壁には石膏の玉緑にて第六図に向けて左方上部の
 ごとくパネルを作り、桃色薄緑等の美しい配色模様の壁紙などを貼れば好いと思います。
 それからストーブも二箇所に設け大理石の柱を以って区画し、ソファーを備え、姉妹及び婦人客と
 親密な談話を交える時の便を図りました。側にはバスルーム及び化粧室を添えました。


  夫人室の隣に夫妻の寝室があります、廊下より直ちに入るのを避け、小ルームとバスルームとを
 レイアウトしました。
 寝室は静穏にして睡眠を十分に取れるよう設計配色するのが肝要です。
  是に相対する側の二室を客の寝室とします。勿論常に客があるわけでは、ありませんから、
 平常は予備室としておき、必要があれば何等の目的に使用しても差し支えありません。
 この寝室と子ども室との中間にあるバスルームは、客或いは子供用として設備したものです。

  バスルーム及び各階におけるトイレ、化粧室、並びに地下室厨房等の腰羽目は、薬掛レンガを
 使用すれば、湿気を防ぐのみならず、光線の反射を誘い洗濯も容易ですから、常に室内の清潔は
 保たれます。
  天井は金属打ち出しを用いれば、アブラムシなどの発生を防ぎます。床はセメント叩きか又は
 敷きタイル張りにすれば蚤(ノミ)もでず、湿気も上がらずして至極快適です。
 バスルームやトイレ化粧室等の窓や入り口の硝子の部分はステンドガラスにすれば最高ですが
 切子ガラスでもいいと思います。そのようにすれば内部を外より透かして覗かれる心配が要りません。

  小ども室は質素を旨とし、腰羽目は四〜五尺の高さとし、時々洗い拭きのできるようペンキ塗りに
 しておくのがベストです。
 玉突室の上なるベランダは子供の遊び場として適用されるように、四方に柱を立て桁を走らし、
 姫蔦を纒はせるのも最良の方法です、時に或いは家族がベランダに集まり、夕日が西の山に
 沈むのを眺めつつ涼風に浴して家族の幸福を団欒のうちに求めることも出来ます。

  かくて裏階段を昇れば身は高塔の頂きに立ち、遠く海色白帆を望み得て爽快言うばかりなからん、
 想うに四辺の眺望は誠に好箇の絵巻物でありましょう。
  
  第一号設計は、住宅各部を全般にわたって概説する必要上、其の各室を具備せる大邸宅の一例を挙げたものです。
 解説T・Uと観ていただいた読者は世紀を超えて住宅建築の一斑を理解していただいた事と思います。
  そこで翻って今解説された所の各室を、住宅としては最も小さな平面に配置し、それを基にして研究を進め、具体的な設計に役立てていただきたいと思います。
小野武雄・明治43年記す

あとがき
 建築設計図・解説T〜Uを平成14年8月に一興に公開することが出来ました。某設計会社の主任技師であった、友人の故小川紘史氏より古谷三代吉の描いた図面と建築書及び明治後期に学校で使用された教科書等は大変貴重な資料であるとの鑑定が十数年前に小川氏により出されていました。
  しかしホームページで発表するのは、長文の文章の為、遅くなりましたが、この度公開する運びとなり喜びに堪えません。
in memory of Kouji Ogawa
The Legacy of architects from Japan's Period 管理人

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