建築設計図 解説T
小野武雄・著 大邸宅概算



(A)全部石造の場合
金116,350円  建坪平均 金895円
   (A)全部石造りの場合より解説すれば、腰積、柱形、長押等の主要部分は花崗石を用い多は
 相州堅石を用います。
 花崗石は摂州御影を本場とし、古来桃色御影と称して珍重しましたが、今では茨城県筑波山近辺に
 産する常陸御影、及び備前、北木島に産するものを一般に使用います。
 北木島産は、長石硅石粗く雲母の斑布往々にして縞を呈し、美観を損ねる欠点があります、
 且つ質が粗いがゆえに細部の彫刻には適していませんが、鐵分稍々少なきため関西では、
 主に之を使用します。
 常陸産は小御影に属し、場所によっては良材が採れます。
  
  御新営の東宮御所は、常陸の国稲田産の御影石を使用されたと洩れ承って居ります。
 其の質緻密なるを以って、彫刻に適し産額も尠くありません。
 相州堅石は白丁場、新小松、江の浦等最も聞こえた産地で、火成岩の一種、安山岩と称し、
 花崗に次いで有用の石材であります。
 煉瓦積の強弱は、接合モルタルの良否と、施工の良し悪しとに依ります。
 モルタルは俗にトロと称し、その調合には色々な方法がありますが、下記の調合を一番安全と
 してあります。
 セメントモルタルの場合・・・セメント「 1 」
                川砂「 3 」
セメント石灰入りモルタルの場合・・・セメント「 1 」
                 石灰「 3 」
                 川砂「 6 」
   セメントは長く日時を経過すると樽入りのものでも、往々湿気を受け、元の石粉に戻るものです。
 石灰は生石灰が良いと言われますが、中には往々にしてその質が期待に反するものもあります。
 一番安心なのは固形石灰で、その拳大の砕石に似たのを清水を注ぎて沸化し、一昼夜を経て使用
 すれば大丈夫間違いありません。
 屋根はスーレト葺きにし、主要の部分は銅板を以って張り包むのです。
 玉突き室の上、その他の陸屋根即ち平坦な箇所は、ラバロイド、ルーフリングにアスファルトを混用
 すれば、雨漏の心配がありません。
  其の用法はアスファルトを仮にAとし、ルーフリングをBとして説明すれば先ずAを二分通り、
  鉄筋コンクリート床、或いは板床の上へ塗りならし次にBを其の上に張り、また前記の如くA及びBと
 重ね行き、最後にAを4〜5分通り塗りあげるのです。
 
  椽(たるき)側又はバスルーム等、圖に示せる格子の部分は上の如くにして仕上げたる上に、
 大理石或いはタイルをセメントモルタルを以って適宜の模様に敷き詰めるのです。
 敷瓦即ちペーブメント、タイルは近頃我が国に於いても製造しますが、舶来品でも面一坪大概35円
 内外の相場ですから、価格に於いては大した差はないのです。

  住宅に於いては、平面図、各室の配置が生命ですから、本書には幾多の平面図を募集したいと
 思いましたが、紙面及び図の大きさに制限ある為め、思いのままに十分を尽くせなかったことは、
 著者の遺憾とする所であります。
 
  各室の配置及装飾等は、吾師、駒杵工学士の著、和洋住宅建築学、並びに私の著書
 洋館各部詳細図集に論説してありますが、本書説明を解りよくする必要上、其の要点を述べましょう。
 敷地は北より山を背ひ、東南に開けたのを良いと云いますが、本設計も亦た南より西に流れて
 低地ありと定め、この向きに地下室を設けました。
 地下室はとにかく湿気るものですから、
 この方向を選び、太陽の光線が十分に入るようにしました。

    先ず北車寄せより入れば大理石製の
腰羽目を有する玄関、及び脱帽室を経て
大広間に出ます。
 ここの天井は高く屋根に達し、天窓より
射し込む光線はステンド、グラス天井を
透して、温和なる光を送るので、壮大優美
なる趣を漂わせます。


 

 しかもこの大広間は饗宴に際しては、舞踏室に充てられ、同時に階上三方の廻り廊下は観覧席と
 なるのです。
 右方の円形は中階となし、ほう奏楽所に用い、音響の効果、立体感が出るように計算してあります。
「建築設計図」大邸宅階下平面図を参照してください

  第5図第6図を見ればこの間の消息を明らかにする事が出来ます。
 (四図の壁は石造りと煉瓦造戸とを問わず、すべて木煉瓦を檜製としてコールタールを塗り、煉瓦中
 に積込み置き胴縁を立て木摺貫を打ち、始めて漆喰塗とすれば、煉瓦よりくる湿気を防げます。
 床下は根太下へ木摺を打ち漆喰下地をなし、モミガラを丹礬潤しとし、床板下まで詰めれば「防音」
 音響止として効果的です。)
   

  それから奏楽所に対して大階段を設けます、階段は広間における主要の装飾部分で、亦階上階下の連絡をとる処ですから、趣向を凝らす必要があります。

 先ず段板は大理石製とし、(下地は鉄筋コンクリート製)手摺を唐草模様唐金、錬鐡混合製にすれば申し分ありませんが、総欅(けやき〕製にしても壮麗なものになります。
 階段の下を通り越すと椽(たるき)側凉臺(テラス)に出られます。

 テラスの床は花崗石の磨き四半敷石とし、噴水を設けて玉を散らす四時の活躍を眺め得るようにし、又是より下りてただちに、庭園に出られるのです。

  客室は快適を旨とせねばなりませんから、東南を選んで設け、やや艶麗なる施工を施します。
 壁色もベージュ色などが好ましいと思います。
 食堂を南に面して設け、出窓を作り通風を良くして、床にはテーブルを据えます。
 サンルームには周囲に大窓及び大入り口を設け、常に新緑紅花を蓄え、四季折々の趣を添ゆ
 べきです。されば室内の装飾も華やかな仕法を用いねばなりません。

解説Uに つづく



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