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議員インターンシップ参加者のレポート

ニートに関するレポート

平林 大
1.「ニート」の定義
 NEET(=Not in Education, Employment or Training)とは1997年にイギリスで生まれた言葉であり、「学業にも、職業にも、職業訓練にもついていない16〜18歳の若者」のことを指す。この言葉が誕生した背景には1980年代以降からヨーロッパ全体で深刻化してきた若年層の失業問題があり、イギリスでは社会の中の貧困や人種差別の問題と緊密に結び付けられ、そうした困難な状況下で仕事に就けずにいる若者をどうやって救うかという雇用問題としてNEET問題が論じられた。

 それに対して日本に輸入され、カタカナ語化した「ニート」の一般的な定義は、「非労働人口のうち、とくに無業者として、年齢15〜34歳、卒業者、未婚であって、家事・通学をしていない者」(労働経済白書より)すなわち、「働こうとせず、学校にも通っておらず、仕事に就くための専門的な訓練も受けていない若者」である。

 イギリスの「NEET」と日本の「ニート」の違いは、
 @「NEET」が16〜18歳という非常に狭い年齢層の若者を指すのに対して、「ニート」は15〜34歳という幅広い層を指している。
 A「NEET」が失業者や周辺的フリーター(頻繁に離退職を繰り返すフリーター)を含むのに対し、「ニート」にはフリーターや失業者は含まれていない。
の2点が主なものである。

 このような定義の違いが日本における「ニート」問題の議論に何をもたらしたのかというと、「ニート」の一部でしかない「ひきこもり」のイメージが「ニート」全体に重ね合わされ、「働く意欲のない甘えた若者」という間違った「ニート」像が一般に認知されるようになってしまった結果、「ニート」は本人や家庭の問題であるというような、本来の雇用問題を離れた教育問題としての「ニート」論が主流になった。実際に「ニート」の定義にあてはまる人の中には、海外留学の準備をしている人、重度の身体障害者や、働く必要のないほど裕福な富裕層の若者などの多様な人々が存在するにも関わらず、そうした人々の存在を無視し、「ひきこもり」という一面のみで「ニート」を論じているという点で、こうした議論は的外れであると言える。

2.「ニート」増加の実態
 近年、前述したような「ニート」の増加が大きく騒がれている。内閣府が2005年に発表した「青少年の就労に関する研究調査」という報告書によると、2002年の時点における日本における「ニート」の数はおよそ85万人で、過去10年間の間におよそ18万人、増加率で言うと1.27倍増加している。

 このように「ニート」全体の数は間違いなく増加している。しかし先ほども述べたように「ニート」とは多様な人々の集団を一括りにした言葉であり、その実態を知るためにはさらに詳しい調査を行う必要がある。

 内閣府の同報告書では無業者を
(1)「求職型」→求職活動をしている人であり、日本の「ニート」の定義には含まれない。
(2)「非求職型」→働きたいと思っているが求職活動はしていない人。
(3)「非希望型」→働きたいという希望すら持っていない人。
 の3つに分類し、それぞれの数の推移を下図のように示している。

 この図を見ると、働く意欲がない「非希望型」、すなわち一般的なニートのイメージにあてはまる若者の数は1992年から2002年の10年間でほとんどと言っていいほど増加しておらず、増加しているのは仕事を探しているが見つからない「求職型」=「若年失業者」と、働く気はあるが今のところ働いていない「非求職型」であることがわかる。

 これに対してこの図にはない「フリーター」は、厚生労働省によると1992年には101万人であったのが2002年には213万人と、人数にして112万人、倍率にして2.11倍もの急激な増加となっている。

 以上の点から、日本においては「ニート」よりも「フリーター」や若年失業者のほうがはるかに問題視されるべきであるにも関わらず、実際にはその全く逆であるという現状が浮かび上がってくる。

3.「ニート」対策
 とは言え、「ニート」に全く問題がないと言うわけではない。UFJ総合研究所の調査レポートでは、2021年には35歳を超える「フリーター」が200万人を超え、その社会への影響は、年間で1兆1400万円の税収減、1兆900億円の社会保険料減、5兆8000億円の可処分所得減などによるGDP成長率の1.2%の低下、さらに生活保護受給者の増加などが予測されている。「フリーター」ほどではないにしろ「非求職型」の「ニート」は確実に増えており、このままいけば社会に同様の悪影響を与えかねない。

 それでは、「ニート」問題を解決、あるいは緩和するためにどのような対策をとればよいのであろうか?

 1で述べたように、日本ではこれまで「ニート」問題はもっぱらその原因を本人や家庭に求める論調が主流を占め、国もそれに基づいて「若者自立塾」や「若者の人間力を高めるための国民会議」など、若者の再教育による「支援」を対策の中心としてきた。

 しかし繰り返しになるが、そうした「支援」が有効だと思われるのは「ニート」のおよそ半分を占める「非希望型」のうち、今のところ働く必要のない人々を除いた「ひきこもり」などのごく一部の層に限られる。それを「ニート」全体に当てはめた的外れな対策は無意味であるばかりか、当の若者にとって迷惑ですらあるのではないか。

 「若者自立塾」などの対策を一概に否定するわけではないが、それよりもイギリスのように「ニート」を社会構造の問題としてとらえ、働く気はあるが働いていないという「非求職型」に焦点を当てた対策が必要とされているのではないだろうか。

 具体的には、「ジョブカフェ」のように個々の若者に応じた支援を行う機関をさらに充実させて働く意欲のある若者の就職を手助けする、国が企業に対してフリーターの正社員への登用を進めるように働きかけ、若者が一度社会生活に失敗しても再チャレンジできる環境を整備する、社会保険など正社員とフリーターの待遇の差を小さくするなどの政策的アプローチと、学校の中で働くことの意義や社会に出て役立つような知識・スキルを教える、一定期間のインターンを義務化するなどの教育的アプローチが考えられる。

 働く意欲のない「非希望型」のニートに対しては、「若者自立塾」などによる職業訓練だけでなく、精神的なケアなどケース・バイ・ケースでの対応が求められるのではないだろうか。

 このように「ニート」という言葉で安易に若者を一括りにせずその実態をきちんと把握した上で、国・地方自治体・NPOなどが連携して対策に取り組んでいくことが重要であると考える。


【参考図書】
  光文社新書「『ニート』って言うな!」
  東洋経済新聞社「希望のニート」
  文芸春秋「日本の論点」
  文春新書「10年後の日本」




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