barcy - ishibashi  Present's

        寄り道エッセイ

大森居酒屋ストリート  第三巻
 


その7 華麗なる横綱
 

 居酒屋で本格焼酎は不可欠である。
   上品な麦焼酎から始まり、大好きな芋焼酎へと展開していく。

 魔王は名前の割に おしとやかな味わいだ。
 20代後半のキャリアウーマンと恋愛映画の
 話をしながら飲みたい酒だ。

   キムチサラダを食べ終える頃、宝山芋麹全量がやってきた。
    私が最も愛する焼酎である。
    香りも味わいも全体のバランスも彼の右に出る者はいない。
                       
   どんな肴がやってきても、懐の深い九州男児は
    がっぷり組み合い、美しく投げ捨てる。
   言うならば千代の富士。

    彼が土俵で舞う様に、宝山も舌の上で舞っていた。
   『体力の限界‥』そう言い残し店を後にした。
 


                       その8 ハズレにアタリ
 

                       安居酒屋において、その店の看板メニューを必ず注文するべきだ‥とは言い切れない。

                       大森一の安居酒屋へ乗り込みエミューの叩きを注文した。
                       エミューとはガチョウの一種らしいが名前の響きからしても度胸のいるオーダーだ。

                       鰹様に削がれた、どす黒いソレは明らかに鮮度が無く50代の風俗嬢を思わせる。
                       玉葱スライスとニンニクをバッチリ効かせて胃へ放り込むと、肉なのにレバーの味わい。

                       何とも血なまぐさく、口内でベトナム戦争が勃発した様だ。天狗舞山廃でなんとか意識を
                       取り戻したが、この最終兵器には触れてはいけなかったのだと深く反省した。
                       翌日トイレで後遺症と戦う私がいた。
 


  その9 チームプレーに憧れて
 

    居酒屋での理想のスタイルは夫婦経営である。
    人件費は抑えられるし、何より愛がある。

    いつも繁盛している串焼き屋に初めて訪れた。ホールでは奥さんが、
    キッチンでは手際良く旦那さんが仕込み作業に追われている。
    本当に忙しそうだ。

    手前に20歳そこそこの坊主頭の男性が二人でオーダーをこなす。
    良く観ると旦那と同じ遺伝子を持つ凛凛しい兄弟だ。
    父が兄を叱咤し、兄が弟に視線を送る。

    どんなやり取りが行なわれているかは客には解らない。
    が、それが何とも心地いい。
    夫婦愛、親子愛、兄弟愛に溢れたカウンターで飲む酔鯨は格別だ。
    私も息子が欲しくなった。
 
 


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