次の日、朝早くから、王様が闘鶏場に出かけて行くととチュラン王もやって来ました。サカテイリマ島には闘鶏を見よ

うと人々がたくさん集まって来ました。       

  準備が整い、二羽の鶏が放たれました。どちらの鶏も羽を広げ、飛び上がり、攻撃をはじめました。

モロンにとって 、耳から聞こえることがすべてでした。あとはダヤンからの説明だけが頼りです。

  突然ダヤンが叫びました。「たいへん、おとうさん。私たちの鶏の足がおれちゃったわ」

  モロンは驚きました「何だって!しかし大丈夫だ。あの鶏は鉄の棒のように強い足をしている。

勝負を見守ろう」といいました。

  しばらくしてまたダヤンが叫びました。「あ、おとうさん。羽も折れて地面に散らばったわ」

  モロンはさっきより大きな声で言いました。

「本当か。あの鶏はヤシの葉のように丈夫な羽をしているから大丈夫だ、負けるはずがない」

  しばらくして、またダヤンが叫びました。「ああ、おとうさん。餌袋もやられたわ。血が一杯出て、

お米がバラバラこぼれているわ」

  モロンは両手を握りました。顔を真っ赤にして怒っています。

王様にこの鶏はすばらしいなどと言ってしまったからです。

  ダヤンはお父さんのそばで小さな声で言いました。「ああ、腿からも血が出ているわ」

  モロンが言いました。「何があっても絶対大丈夫。負けるものか」

  ダヤンがまた言いました。「ああ、おとうさん。私たちの鶏が苦しそうにもがいている。死にそうだわ」

  モロンの怒りはついに爆発し、興奮のあまり大声でのろいの言葉を叫びました。

「くそっ、どこかヘ飛んでいってしまえ!」

  すると突然、チュラン王の鶏が空高く飛び上がり、人々の目の前から姿を消してしまいました。

トレンガヌの王様もチュラン王もとても驚きました。

  モロンはダヤンとともに、死んだ鶏を抱えあげ、王様の前へ進み出ましたが、

トレンガヌの王様は負けたことを恥じてその場を去り、すでに宮殿へ帰った後でした。

  その時、チュラン王の船が燃えているという知らせが伝わり、人々が海岸に集まって来ました。

どうやらチュラン王の鶏が船に火をもたらしたようです。

なすすべもなく見守るチュラン王と人々の目の前で船に乗っていた人々がたくさん死にました。

  その後、チュラン王の鶏は再び大空ヘ飛び上がり、町の方へ飛んで行ったかと思うと、

今度はトレンガヌの宮殿に舞い降りました。あっという間に宮殿は火に包まれ、

トレンガヌ中が大混乱におちいりました。火はどんどん燃え広がり7日7晩燃え続きました。

  チュラン王は船を失って嘆き悲しみ、毎日泣いてばかりおられました。

王様と一緒に闘鶏を見ていた300人程の人々だけが助かったのです。


メモ:
言い伝えによれば、現在ブキット・ジョンにある船の形をした石が、あのチュラン王の船と言われています。

サカテイリマ島は、トレンガヌ川とネロス川の中程に今もあります。モロンが鶏を洗ったというテロパソ村は今も

残っています。

                                                                                                                                   採録、シャリフ・プテラ

                                                                         訳 Aya

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