追想の山々1053  up-date 2001.06.28

白馬岳(2933m) 登頂日1990.07.14 快晴 単独
白馬乗鞍岳(2437m)小蓮華山(2769m)杓子岳(2812m)白馬鑓(2903m)唐松岳(2696)
●急行アルプス〓〓〓白馬駅===栂池自然公園(7.10)−−−白馬大池(8.50)−−−小蓮華山(10.00)−−−白馬岳(10.50-11.15)−−−村営宿舎(11.25)−−−杓子岳(12.10)−−−白馬鑓ケ岳(13.00)−−−天狗山荘(13.40)
●天狗山荘(4.05)−−−天狗ノ岳(4.20-45)−−−T〜U峰のコル(5.45)−−−唐松岳(6.40-7.20)−−−唐松山荘−−−丸山(8.00)−−−黒菱(9.00)  リフト、ゴンドラを乗り継いで下山
所要時間  1日目 6時間30分 2日目 4時間 3日目 ****
                  白馬から不帰ノ険を越えて=(53歳)
天狗の頭付近からの残照(不帰ノ険、唐松、鹿島槍北峰方面)

白馬岳は花の山だった。
20数年前、はじめての白馬岳は大雪渓から登った。そこで今回は別のコ ースを辿ってみたくなった。白馬駅からバス終点の栂池自然園で下車。好天に気持ちも明るい。
一歩登山道に入るといきなりの急登で、ものの15分も歩くともう休憩している夫婦がある。ひと登りして視界が開け、池塘にワタスゲの揺れる小湿原に出た。イワイチョウの花を目にして、木道を辿るとそこが平坦な天狗原湿原、既に高度は2000メートルを越えて周囲の展望も楽しめるようになって来た。  

天拘平を抜け、小雪田を過ぎて急な登りに変わった。雪田で若い男女のパーティーがはしゃいでいる。高山の雰囲気のハイマツ帯を一段登って振り返ると、湿原の中の木道や池塘がもう目の下になっていた。
目を転ずれば、ああ!この山の連なり・・・・火打山、焼山、妙高山、高妻山、戸隠山、横手山、根子岳、浅間山そして八ヶ岳・・・・・・・・  懐かしい山々が競い合う大パノラマ。

累々とした巨岩を飛び移るようにして岩から岩へと上って行く。円頂の乗鞍岳はもうすぐだ。雪田に赤い紅穀が横断箇所を示している。雪田から急登をひといき、ハイマツの間に岩石の点在する広い山頂だった。大きなケルン目指して進むと、足下に清澄な水をたたえた白馬大池が見えて来た。池のむこうに小蓮華岳。その左肩には白馬岳が顔を覗かせている。鉢ケ岳、雪倉岳もおっとりとした姿で背後に控えている。池の対岸には白馬大池山荘の赤い建物が目立つ。自然景観の中に派手な赤は不釣合いと思うのに、ここではそれが景観になじんでいる。

池畔に立つと小さなさざ波が岸の岩にひたひたと打ち寄せている。チングルマ、ハクサンイチゲもさりげなく咲いている。山荘先の蓮華温泉分岐付近はハクサンコザクラの驚くほどの大群落だ。小紫色に染めて草原を埋め尽くしていた。

急坂をひと頑張りすれば勾配も緩み、振り返れば白馬大池が紫紺に光り、遥かに妙高、火打、焼山、雨飾山と頚城の山嶺がシルエットに並んでいる。八ヶ岳の凹凸も群明だ。雪倉岳、朝日岳もおおらかな曲線で目の前にあった。高度が上がると白馬岳と薄茶色い白馬鑓ケ岳の聞から立山連峰も顔を出した。左手の谷を覗くと、あの大雪渓を蟻の行列のような登山者の列が米粒のように見える。

花と展望を楽しみながら知らぬ間に着いたのが小蓮華山山頂だった。展望は更に素晴らしい。白馬三山から雪倉岳へと北につづく山々。唐松、五竜、鹿島槍、遠く槍、穂高もうかがえる。胸の高鳴りが聞こえるような興奮に浸って山上を遊歩して行く。  
ハクサンフウロにクルマユリ、イワツメクサ、ヤハズハハコ、 ミヤマアズマギク、ウメハタザオ、タカネツメクサ、いよいよ花の山の領域に入って来たようだ。
長野、新潟、富山の境界、三国境を過ぎて馬の背の急登を登り切れば白馬岳の頂上である。ウルップソウに初対面。
北側の展望が一気に開けて、深い黒部峡谷を挟み立山、剣、毛勝三山。南には後立山諸峰と裏銀座、穂高の連嶺。群青色の空の下、馴染みの山々が一斉に出迎えてくれた。  
大雪渓コースからの登山者が次々と到着する。大パノラマに満足して山頂を辞す。

白馬三山

稜線からやや下がった白馬村営頂上宿舎の周辺は、大雪渓から登って来た人達で大にぎわいだった。雪渓末端から流れ出す冷たい水に喉を潤し稜線の縦走コースへ戻る。
丸山ピークを越すあたりから、道は花に埋め尽された下りとなる。雲上のフラワーロード、行き交う登山者も多く、華やいだ雰囲気が漂う。ウサギギク、ヨツバシオガマ、アオノツガザクラ、ミヤマクロユリ、ミヤマキンポウゲ、ウルップソウetc・・・・・
行く手には杓子岳、白馬鑓ケ岳が早く来いと招いている。  

杓子岳のピークを踏み、鑓ケ岳山頂から振り返ると白馬岳がずいぶん遠くなっていた。砂轢の急坂をじぐざぐ下りにかかるころからガスが湧き上がってきた。大気が肌にひんやりとする。
大きな雪渓の下端に沿ってロープが張られ、その先の天狗平に天狗山荘があった。今夜の宿である。登山者の多くはこの手前で白馬鑓温泉へのコースを下ってしまい、不帰の険を目指す人はぐっと減る。天狗山荘の客も少なかった。
小屋でひといきついてから散策に出ると、山荘前面の砂礫帯にコマクサの大群落を発見して興奮、これほどの群落を目にするのは初めてである。

夕食後、天狗の頭方向へ行って夕映えを待つ。鹿島槍が傾いた太陽を背にして、双耳のシルエットを浮き立たせていた。不帰の険の岩壁が残照を受けて黄金色に染まり、その向こうには五竜岳が雲をついて聾えている。絵を見るような素晴らしい夕暮れのひとときを楽しんだ。
宿泊者は20人。10人以上は寝られる桝を一人で占領、 贅沢な泊まりとなった。

第二日日・・・・《快晴》  目を覚ますと遥かな山の端が紅色に染まっていた。
ゆるやかな稜線をたどり、天狗の頭でご来迎を待つことにする。東の空が刻々と変化し、眩いばかりの金色の輝き。天空は既に澄明なブルーが広が

不帰ノ険、中央左の尾根を攀じる

る。妙高山の右肩に深紅が差し、燃える太陽が頭を出した。天狗尾根が染まる。立山、剣岳が染まる。山から山へ、嶺から嶺ヘモルゲンロートに包まれて行くのを、時を忘れて見とれていた。これからたどる不帰の険もすでに朝陽の輝きの中に岩壁をさらしていた。  
天狗の頭を越すと、今までの花に埋もれる優雅さは消えて、岩っぽい無機質な道になった。天狗尾根の乾燥した下りがつづき、やがて天狗の大下りの降り口に立った。不帰の険手前のコルへ急峻な岩と岩礫の険しい下りだ。ルートを外れないよう注意しながら、慎重に足場を選び、手足4本をフル動員して無事コルヘ下り切って一息つく。  

いよいよ不帰の険T峰への取り付きだ。険しい岩壁を見上げる。本当に登れるのだろうか。岩稜のどこにルートがついているのか疑わしいような険しさだ。
岩場に一歩取付く。しかしルートは意外にしっかりしていて、さして困難を感じるほどのこともなく、簡単にT峰は通過する。ガイドブックにあるほどの危険も、難しさもなく、鎖があってもそれに頼ることなく登れるところが多い。第U峰も簡単にピ ークに立つ。黒部谷からの風が冷たく寒さを感じる。  
U峰から先は普通の登山道となり、岩の突起を巻いたりしながら、V峰もあっと言う間に通過して唐松岳の頂上に到着した。コ ースタイムのほば半分の時間で来てしまった。
唐松岳は2年振りの山頂。あのときと同様、今朝ももったいないような大パノラマが展開している。何と言ってもここからは五竜岳の重量感ある雄姿が圧巻である。筋骨たくましい男性的な山容は、優美さでこころ引かれる常念岳と並んで私の好きな山の一つである。  

山荘で作ってもらった朝食をとってから山頂を辞した。
唐松山荘から丸山ケルンまで下りると、不帰の険から白馬三山が視野一杯に広がる。歩いて来たコースを目で復習するのも実に楽しい。
今日はガスの出が早 く、白馬岳あたりが徐々にガスに隠れていった。  
八方池山荘から黒菱まではリフトを横目に歩いて下る。黒菱から兎平はリフト、そこからゴンドラで−気に麓まで下った。


1998.07.23-24 白馬三山裏旭岳・清水岳はこちら   栂池自然園から乗鞍岳往復はこちら