追想の山々1061  up-date 2001.07.02

雌阿寒岳(1499m) 登頂日1989.08.14  風雨 単独
阿寒湖温泉===雌阿寒温泉(4.55)−−−雌阿寒岳(6.15)−−−雌阿寒温泉(7.20)===阿寒湖温泉
所要時間 2時間25分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
   1989年・北海道の山旅(その3)=(52歳)

雌阿寒岳(左)と右方遠く雄阿寒岳・・・1999年阿寒富士より撮影
夜が明けても雨はあいかわらず阿寒湖の湖面を煙らせていた。阿寒湖の対岸にあるはずの雄阿寒岳も霧の中にその姿を没したまま。

雨の中を歩くのはいやだなぁ。そうは言っても、このまま引き返してしまうと、この山だけのために出直して来ることは難しい。
一日で雌、雄阿寒の両方を登るつもりでいたが、この天気では無理。どちらにするか迷う。雄阿寒の方が登山対象としては面白いがヒグマが怖い。雌阿寒は活火山という心配があるが登り易く、それに高さも雄阿寒を120メートル余しのぐ。ただし雌阿寒岳の登山口までがかなりの距離がある。

雨に煙る湖面に目をやりながら思案したが、結局この雨の中歩くのに楽な雌阿寒の方をとることにしてホテルを出た。  
雌阿寒温泉と野中温泉が同じ温泉とは知らなくて、少しうろついたが帯広ナンバーの自動車の人に教えてもらって登山口がわかった。

降りしきる雨の中、傘をさして歩き始める。樹林の中のよく踏まれた道に一合目、二合目と表示がある。三合目を過ぎるとハイマツのトンネルとなって傘が邪魔になる。ハイマツは普通高山で地を這うようにしているのを見慣れているが、ここでは上に向かって良く育ち、ゴヨウマツのようだ。雨の止む気配はない。ハイマツのトンネルを抜けると大きな沢状の崩壊地が荒々しい景観を見せていた。もう森林限界である。
剥き出しの斜面は火山特有の赤茶け、荒涼とした山肌を見せ、上部は厚い雲に覆われたままである。  
崩壊地の涸れ沢を渡ると一気に急登と変わった。視界はない。ガレ場の斜面にジグザグにつけられた道を、ペンキの矢印だけが頼りだ。ハイマツ、ミヤマハンノキの低木の斜面は、風が我がもの顔に吹き抜け、雨は容赦なく顔面をたたく。ペンキ印を見失わないように慎重に、しかし足を緩めることなく高度を稼いでいく。登山道は雨水が川となって流れる。硫黄のガス臭が鼻をつ く。有毒ガスが危険と書いてあったが大丈夫だたろうか。引き返そうかと何回も考える。

風の音かそれともガスの噴出する音か、ゴウーと山を震わすように鳴っている。硫黄の臭いがきつくなってようやく傾斜が緩む。ロープを張ってコースを誘導している。どうやら火口に着いたようだ。そのとたん強風が雨をともなって、何もかも吹き飛ばすかのように襲いかかってきた。ガス臭が不安を増幅する。
ロープに沿って火口を時計回りに、風圧と闘いながら登る。霧か噴気か、風の音かガス噴出音か。地図の記憶ではこのあたりが最高点のはずだ。見回しても頂上を示すものは目に入らない。視界は20メートルあるかどうか。風上には目を向けられない。地図を広げることは不可態だ。ここまでくれば頂上を踏んだも同じと判断 し、回れ右をして引き返すこととする。(あとで地図を確認すると項上はその周辺にあったはずだった)  

帰り道、雨脚はさらに強まってきた。
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