追想の山々1099  up-date 2001.09.04

登頂日1997.09.02 単独   三ノ沢岳(2847m)〜宝剣岳(2931m)〜木曽駒ケ岳(2956m) 
  木曽山脈(中央アルプス)の山行記録はコチラにもあります
ロープウエイ千畳敷駅(8.10)−−−極楽平(8.35)−−−三ノ沢岳分岐(8.40)−−−三ノ沢岳(9.40-50)−−−三ノ沢岳分岐(10.45)−−−宝剣岳(11.00)−−−宝剣小屋(11.10)−−−木曾駒ケ岳(11.30)−−−ロープウエイ千畳敷駅(12.10)
所要時間 44時間00分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
   中央アルプス稜線からはずれた秀峰=(60歳)
三の沢岳は秀峰の名に値する端麗な山容
この年、夏山最後は中央アルプス三ノ沢岳。中央アルプスの主だったピークはほとんど踏んだのに、三ノ沢岳と奥念丈岳が残っていた。三ノ沢岳は南北に連なる主稜線から外れているために、このピークピをわざわざ訪れる登山者は少ないようだ。
主稜線からの山頂往復は、コースタイムで3時間20分、木曽駒ヶ岳や宝剣岳のついでにちょっと立ち寄って行こうとするには、やや時間と体力が要る。

宝剣岳付近の主稜線から眺めると、均整のとれた三角形が実に美しい山である。秀峰と言っていいだろう。
三ノ沢岳への最低コルは、標高が約2550メートルだから、主稜線から350メートル下って300メートル登りかえし、帰りはその逆となる。その間にはっきりしたアップダウンも2つあるので、往復すると累計高度差は800メートル前後となり、見た目よりかなり体力を使う。  

朝一番のバス時刻を勝手に想定して、5時45分に辰野の生家を出た。(生家へは用事で帰省していた)  
駒ヶ根のバス発着場に6時15分に着いたが、一番のバスは7時20分、1時間の時間つぶしに退屈する。夏場最盛期はバス待ちの行列で、どれだけ待たされるかしれないのに、今日はバス1台分ほどの人しかいない。大半は千畳敷散策と見られる人たちで、登山支度の人はちらほら。  
バスからロープウェイに乗り継ぎ、千畳敷着8時10分。すばらしい青空、この上天気にもかかわらず、南アルプスはぼんやりとかすんでいる。  
早速登山開始。まっすぐに極楽平を目指す。3000メートル近い稜線に立つと、そこはすでに秋風が吹き抜けて寒さを感じる。三ノ沢岳の見事な容姿が目に入る。千畳敷から登ってきて、突然目の前に現れたこの秀峰に、だれしも「これは何と言う山だ」と気を引かれるにちがいない。ハイマツの緑が陽光に映えていっそう鮮やかだ。 トウヤクリンドウが白とも薄黄緑ともつかぬ色合いで、登山道脇に咲いている。山は秋である。後10日もすれば紅葉がはじまることだろう。  

宝剣岳寄りに緩やかな稜線を行くと、すぐに三ノ沢岳への分岐となる。居合わせた登山者に三ノ沢岳をバックに写真を撮ってもらい、改めてしみじみ三ノ沢岳を見つめなおした。その姿だけで比較すれば、木曽駒よりずっと魅力的で、女性にたとえれば飛び切りの美人と言うところだろうか。  
コル目指してどんどん下って行く。それほど登山者が多いとは思えないが、コースはしっかりしていて全く心配はない。  
大きな岩峰のところで中ア主稜線を振返ると、宝剣岳から桧尾岳、熊沢岳、空木岳、南駒ヶ岳と起伏する高峰群が手に取るように見える。
さらに下って広々とした鞍部に着く。ここが最低鞍部なのか、この先の小ピークを越えたところが最低なのかわからない。痩せ尾根、露岩、潅木帯などの変化に富んだ道は思いのほか楽しい。山岳銀座とでも言いたいような千畳敷から近い山域にもかかわらず、登山者の姿がまったくなく、わずらわしい挨拶のやりとりがないのも気に入った。  
左手の谷には伊奈川の源流部が銀色に光り、耳を澄ませば流れのささやきがここまで届く(滝の音かもしれない)  『山を歩いているんだなあ』そんな思いを深くする。  
ときどき振返っては中央アルプスの連なりを眺め、また足を運ぶ。  
山頂が近づくと、植生は膝ほどのハイマツ一色になって緑の絨毯を敷いたようだ。視界を遮るものはない。あれが山頂、最後の登りと思って高みに向かって急登を行く。ところが高みの先には又ひとつ高みがあり、本当の山頂はさらにその奥にあった。その本物の山頂に達する手前、なだらかな草原にはコガネギク、オヤマリンドウ、チングルマの実、ウメバチソウ、ハクサンボウフウなどに混じって、ウサギギク、ヨツバシオガマ、イワツメクサなど夏の花が咲いていた。夏に咲きそこなった花のいくつかが、秋にならないうちにと咲いているように見えた。  

山頂は花崗岩の巨石群でできていた。その上に立って木曽駒ヶ岳から空木岳、越百山、さらに南へつづく山脈を一望。中央アルプスを間近横から眺めるポイントとしては、西側からならこの三ノ沢岳、そして東側からなら伊那前岳が絶好だと思われる。惜しむらくは西方は雲があって御嶽山や北アルプスなどが見えなかったことだ。  
これで北は経ケ岳から南は恵那山まで、奥念丈岳を除いて中央アルプスの主だった頂は全部踏んだことになる。  
山の天気は変りやすい。10時を過ぎるとどこからかガスが湧きあがってきて、空木岳方面にまといつき始めていた。  

山頂を後にして来た道を主稜線へ引き返す。途中中高年の数人パーティーが三ノ沢岳へ向かうのに出会っただけ、本当に静かな山だ。  
今日はこれで帰るつもりだったが、三ノ沢岳往復が予定より早く、ほぼ半分の2時間余で往復できてしまったので、宝剣岳と木曽駒ヶ岳を回って行くことにする。  
夏場はへっぴり腰の登山者で渋滞おびただしい岩場歩きの宝剣岳も、簡単に通過してしまう。他の人の岩場歩きを見ていると、『俺は岩場のバランス感覚に優れている方かなあ』と思ってしまう。うぬぼれるつもりはないが、確かに岩場の通過などはあまり恐怖感もなく、的確にすばやく対処できているような気がする。  

さすが木曽駒ヶ岳へのルートは登山者(観光客の方が多いが)の列がつながっている。中には手ぶらなんていう人もいる。山の天気は急変する。夕立でもきたらどうするつもりか。  
駒ヶ岳山頂はこれが5回目、頂上に立ったときには周囲の山々には雲がいっぱいに広がって、展望と言えば宝剣岳と伊那前岳、それにガスに見え隠れする三ノ沢岳だけだった。  

浄土乗越から千畳敷への下りにつくと、ロープウェイからはき出された観光客まがいの軽装の人々が、蟻のように列を作って登ってくる。人の列を避け、コースを外して一気にロープウェイ駅舎まで下った。
2012.08.08の伊那前岳〜宝剣岳〜三の沢岳はこちら

登頂日1996.07.27 宝剣岳(2931m)〜木曽駒ケ岳(2956m) 
妻・長男夫婦同行

白馬岳という希望もあったが、登山にはなじみの薄い長男夫婦+妻の4人で出かけるには荷が重い。お手軽な木曽駒〜宝剣岳にした。

▼午前520分発の一番バスに間に合うよう、深夜に東京を出発。1時間も前に菅の台バス乗り場に着くも長蛇の列。シラビ平へ入るのが遅れると、ロープウェイをまた行列待ちは必定。幸いにもバスはどんどん増発されて、45台目に乗ることができてヤレヤレ。

空は抜けるような青空。ロープウェイも50分の待ちで乗ることが出来て、まずは順調なスタートだ。
一気に1000メートル近い高度を駆け上るロープウェイは、さすがに東洋一といわれるだけのことはある。足下に深く刻みこまれた険しい渓谷を見下ろすと、懸崖から幾筋もの滝が白い糸を引いているのが見える。樹相はシラベからダケカンバ、そしてミヤマハンノキと刻々変化、その様子を見ているだけでも楽しくなる。どこまでも青く広がる夏空と、輝く緑の山肌に目を洗われる。

宝剣岳の岩登り

▼ロープウェイ終点千畳敷、そこは標高2600メートル。下界との気温差に肌がきりっと引き締まる。本格的に身支度を整えた登山者、軽装のハイカー、スニーカーの観光客などでさまざまな人で賑わいを見せている。
三々五々千畳敷カールへと散って行く。歓迎するかのような高山植物はミヤマキンポウゲ、コイワカガミ、ミヤマキンバイ・‥・花の名前を解説しながら、散策道から馬の背への登りにとりつく。岩のゴツゴツした急登、登山の雰囲気にギアチェンジ。宝剣岳岩峰基部一面に咲くシナノキンバイが黄色い絨毯さながら。足を止めて見とれる。さらにイワギキョウやコイワカガミなどの群生。ふり返れば南アルブス連峰が、少し霞みながら遠望できる。

ひと汗かいて高低差300mの急登を終わると浄土乗越の稜線。吹く風が肌寒い。さらに宝剣山荘裏の好展望地で、再び展望タイム。目の前に険しくそそり立つ宝剣岳に目吸いよせられる。惜しむらくは西方に見えるはずの御嶽・乗鞍はもおの中に溶け込んで見ることが出来なかった。

中岳経由で大小の花崗岩が散在する木曽騎ケ岳山頂へ到着。先日信州百名山最後の山とし登ったばかりの経ケ岳が目の前。宝剣岳から空木岳、南駒ヶ岳と折り重なるように連なる中央アルプスの主稜線が望見される。

▼山頂を後にして、帰りは中岳の巻道から宝剣山荘まで戻り、宝剣岳へ向かう。宝剣への岩壁の登りは鎖があるとは言え、山慣れない人にとってはかなりの緊張感を伴う。こっちへ向かってくる中年男性グループが、見るも哀れな婆で、岩にしがみつき、体を固くして立ち往生している。力量を無視した行動に、通過待ちの登山者から非難の声も出る。

無事宝剣岳の山項へ立ったときには、早くも雲が広がり始めていた。木曽騎にも霧が去来、展望は終わってしまった。

宝剣岳から極楽平への下りも岩稜歩きで気は抜けない。懸垂状の岩を鎖にしがみついていくつか越えたりしながら、時間はかかったが手助けすることもなく、全員無事極楽平へ降り立ってほっと一息入れる。あとは整備された道を千畳敷ロープウエイへと下るのみ。
最後にクロユリの花が待っていてくれた。

  
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