追想の山々1258  up-date 2002.01.09

安達太良連峰縦走
箕輪山(1718m)鉄山(1709m)安達太良山(1700m) 登頂日1996.09.29 単独行
≪前日は東大巓・一切経山・高山を登頂してから、白糸の滝付近で野営≫
白糸の滝(5.00)−−−おふろ滝(5.35)−−−胎内・沼の平分岐(5.40)−−−胎内岩86.10)−−−主稜避難小屋(6.35)−−−箕輪山(7.00-10)−−−主稜避難小屋(7.35)−−−鉄山(7.40)−−−安達太良山(8.05-10)−−−くろがね小屋コース分岐(8.25)−−−沼の平−−−胎内・沼の平分岐(8.55)−−−白糸の滝(9.20)===沼尻温泉入浴===東京へ
所要時間 4時間20分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
ピーカンの安達太良連峰縦走=59
沼の平と磐梯山


期待どおりの上天気、こんな日は『さあ行くか』とファイトが湧いてくる。足元が明るくなるのを待って出発した。
登山口に『沼の平で8月8日、泥を噴出した形跡があるので、登山者は注意するように』という注意が出ていた。コースは硫黄沢沿いに行くのがひとつ。もう一 つは白糸の滝展望台から小さな支尾根を乗越して行くのがある。二つのコースは、硫黄採取施設のところで一緒になる。
硫黄沢沿いのコースは崩落箇所があって立ち入り禁止の看板が出ているが、昨日下山者の様子を見ていたら、そのコースから何人も降りて来た。通れないことはないだろう、そう思って硫黄沢に沿ったコースを選んだ。左手に深く切れ込んだ谷を見下ろすようにして、歩道がつけられている。ときどき傷んだ所が注意書きの崩落箇所らしいが、危険を感じることもなく通過した。

登山道沿いに温泉を引くパイプが敷設されている。沼尻温泉や中沢温泉へ湯を供給しているのだろう。パイプの透き間から漏れる硫黄の匂いが立ち込め、温泉街を歩いているようだ。索道が架けられているのは、上流で採取した硫黄を運ぶ施設だ。
白糸の滝の上部に出ると、急に谷底が上がって来た。
パイプの中間に湯気を上げる桝があって、大量の湯が溢れ、一部は太いパイプで温泉用に運ばれているが、多くは谷へ捨てられていた。勿体ない、つい貪乏人根性が出てしまう。
硫黄臭が強くなって、硫黄や湯の花を採取する施設がある。昔、作業員小屋にでも使ったものだろうか、草葺きの小屋が建ち、採取した硫黄が箱に入って積みあげらけている。対岸から白糸の滝展望台経由のコースが、こちら右岸の道へ合流して来た。
コースはやがて川床のようになり、石や岩のごろごろした中を歩くよ うになる。左手の尾根には見上げるような巨岩が、城塞にようにそそ り立っている。
流れは細まり、硫黄沢源頭の感じになって来たところで、大岩に『胎内コース』のペンキ書きがあった。ここが胎内コースと沼の平コースの分岐点だった。予定通り胎内コースを取ると登山らしい急な登りとなった。じぐざぐを切りながら、尾根の巨岩を目指して登って行く。たちまち硫黄川が足下に離れて行く。ざれた斜面をトラバースしたり して、ちょっと緊張する箇所もあるが、高度を順調に稼いで、道は低潅木を分けて進むようになった。朝陽が磐梯山の頂上に射しこんでいる。真っ青な空に、ハケで掃いたような薄雲が秋の気 配を感じさせる。
今にも倒れかからんばかりの屏風のような巨岩の基部に到達する と、そこには人一人がやっと抜けられるような穴があいていた。ザックとカメラを先に穴の向こうへ渡し、その後から這って通り抜けると、いっペんに視界が開けた。森林限界の稜線だった。ハイマツや背の低い潅木が生えているだけ。今までの急登とは打って変わって、明瞭な登山道が軽やかに主稜へ導いてくれる。

少し登った先で巨岩の岩頭に立ってみた。すがすがしい朝の大展望が広がった。とくに磐梯の勇姿が印象的だ。 雲ひとつない日本晴れの下、吾妻連峰の山並みは、やさしくなだらかに波打っている。こんな快晴に当たる日は一年中で何日もないだろう。

一度だけわずかに下った後は、主稜線へ向かって広々とした尾根をたどって行く。シャクナゲの塔を過ぎると、避難小屋はすぐ、そこが安達 太良山から箕輪山をつなぐ主稜線だった。
箕輪山の山肌は紅や黄色の紅葉に飾られていた。鞍郡まで200メートル以上も下ったかと思うほどだったが、時間的には10分の下りだった。さらに山頂までピッチを上げて頑張ると、20分で箕輪山々項に立つことができた。ここも360度遮るものもない展望台で、安達太良連峰、吾妻連峰、 磐梯山をはじめ、遠く飯豊山もはっきりと見える。空気の澄明度が抜群で、まさしく展望日和であった。

記念写真を撮ってから避難小屋まで引き返す。
この先5分の鉄山を越えたところで、沼の平の火口底へ降りるつもりだったが、まだ時間が早かったので、安達太良山まで足を伸ばしてみたくなった。
月世界のような沼の平を見下ろしながら、さらにペースを上げた。左下にはくろがね小屋が見える。その小屋からの登山者が多くなった。地肌剥き出しの馬の背稜線を足を速めながら、小さな登り降りを繰り返して、避難小屋からわずか30分で安達太良山に着いてしまった。コースタイムの半分以下だった。
安達太良山でも、もう一度大展望を楽しむことができた。会津盆地は霧に埋まり、その先には会津の山々がシルエットで連なる。日光、那須連山、一切経山、蔵王連山、その奥に見えるのは船形山であろうか。 阿武隈山地も長々と藍色に横たわる。    

大展望に満足して帰途についた。
馬の背のくろがね小屋分岐まで戻り、沼の平へ一気に急降下して行く。きれいな湧き水があったので、飲めるかどうかわからなかったが、口啜ると意外にうまかった。
あっと言う間になべ底のような火口の底“沼の平”へ降り立った。 月面へ降り立った気分だ。サッカー場が幾つもとれほどの火口底は、人工的に整地したようにならされている。周囲を見回すと赤茶けた断崖絶壁がくるりと取り巻いている。その中に豆粒ほどの頼りない自分の姿が、どこかに吸い込まれて行ってしまいそうだ。霧のときは方向を間違えやすいというが、快晴の今日は何の心配もない。100メートル間隔に立てられた目印の棒を目処に、中央を横断して行くと出口に到達した。強烈な硫黄臭が鼻を突く。あちこちで黄色い有毒ガスが噴出している。 それを避けて高巻いたりして、ぐんぐん下って行くと、やがてはっきりとした沢状となる。今朝ほどの胎内コースと沼の 平コース分岐点だ。
あとは登って来たときと同じコースを駐車場まで戻った。
予定外の安達太良山まで足を伸ばしたのに、下山の時間はまだ9時半 だった。
沼尻温泉に入浴後、東京への帰路についた。

このあと、日ならずして沼の平であるパーテイーが有毒ガスのために、何人か亡くなったというニュースが流れた。
初回登頂 1988.10.08 妻同行 
天候に恵まれて、紅葉を愛でながらの登山

奥岳温泉(8.45)−−−五葉松平−−−安達太良山(11.00-15)−−−峰の辻−−−勢至平−−−奥岳温泉(13.15)