追想の山々1306  up-date 2002.03.16


北横岳(2473m) 登頂日1991.02.17 単独行
●ピラタスロープウエイ山上駅(10.55)−−−横岳ヒュッテ(11.50-12.25)−−−北横岳(13.00-45)−−−横岳ヒュッテ(14.30)
●横岳ヒュッテ(5.45)−−−北横岳−−−横岳ヒュッテ−−−坪庭−−−ロープウエイ駅
所要時間 ××× 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
真冬の北八ヶ岳=54
横岳から赤岳をのぞむ


昨日までの吹き荒れが嘘のような青空が広がっていた。
冬山とは言え、緊張度は普段のハイキングと同様。歩程が短く、好天が保証されているので呑気なものだ。
いつものことながら中央自動車道で笹子トンネルを抜け、勝沼の葡萄畑が広がる甲府盆地にさしかかるとき、目に飛び込んでくる南アルプス連峰は、もう何とも例えよう もなく昂奮を呼び起こす。白い屏風のよ うに天地を画し、超然として聳え立つ南アの連嶺は、山を慕うものの心を捉えて離さない。
車は順調に疾駆して10時前蓼科高原 ピラタスロープウエイ駅の駐車場に到着した。スキーヤーばかりの行列に並んで乗車を待つ。標高1750メート ルから高度差490メートルを一気に上って山頂駅に降り立つと2240メートルの高度だ。絶好の快晴下、寒さも感じな い。
昨日まで山は大荒れの風雪が吹きすさび、ロープウエイもしばしば運転を中止したということである。  
眩しい銀世界、新雪は手垢のつかないままに、その先に横岳が陽を浴びて聳えている。ピッケル片手にいっ ぱしの冬山登山家の気分で横岳に向かう。竹竿がルートを示している以外はただ雪一色。
セーターを脱いで薄着になってもまだ暑く、額から汗の滴がしたる。横岳ヒュッテはツガの林を切り開いた平地に建っていた。新しくしっ かりした建物だ。
宿泊の手続きをすませてから、北横岳まで行って来ることにする。降りて来た単独行の登山者が、ラッセルがきつくて疲れたと話していた。ラッセルされてルートはついているものの、なかなか大変な登りだ。ハイマツの上に乗ると腰まで沈んでしまい、はい上がるのがまた一苦労。樹林を抜け出ると世界が一変した。 えびの尻尾が長々と伸びている。西から吹き上げて来る強風は、さすがに冷たく頬を刺す。
山頂は二つのピークからなる。手前のピークにはケルンが雪で覆われている。先ほどの登山者はここで引き返していた。
もう一つ先が本当の山頂である。処女雪にルートをつけて行 く。腰上までの雪を踏み分けて進むのは、心をくすぐられるような快感があった。昨日までの大荒れの天気が幸いして、今日の大気の澄明さはどうだ。遠望も欲しいまま、中部から関東一円の山々がぐるりと取り巻いている。  
南アルプス、北アルプス、中央アルプ ス、御嶽、乗鞍、北信五嶽、浅間、谷川連峰、日光連山、奥秩父、そしてまじかに蓼科、霧が峰、美しガ原、八ヶ岳・・  写真を楽しみ、展望を楽しんだ後は雪を踏み固めて座り込み、ひと時を満ち足りて過ごした。
この後、何人かの登山者が山頂を訪れては下って行った。十分に堪能してから私もヒュッテまで戻った。  

横岳ヒュッテは他の山小屋とはかなり違った家族的な雰囲気重視の小屋だ。
この夜の宿泊者は男女の8人パーティ ーと私を含めて男四人の単独者。夕食は山頂からの帰りの遅い一人を待ちつづけ、全員そろうまで待たされた。土鍋を囲んでの食事にはいささか度肝を抜かれた。鹿肉の刺し身に鮎のうま煮、サラダがいっぱい、そして一升瓶が二本、何かと思ったら酒だった。
こうして雪の山小屋で宴会が始まっ た。今日は何か特別の事情によるものと思って訳を尋ねると、これがいつものことだというのには又びっくり。管理人も酔うほどに山小屋のありようについて、大いに熱弁をふるい自信の程を披瀝していた。酒が切れるとまた追加され、みんな気持ち良く酔って宴は盛り上がる一方。
食事の後はまたストーブを囲んで遅くまでコーヒーやら酒を飲みながら歓談がつづき、明日の早立ちのために早寝に心掛ける普通の山小屋との違いに戸惑う。私は明日は帰るばかりだから気にならないが、もし早立ちならばちよっと心配になる。ロープウエイから歩けば1時間そこそこ、山と言うより観光地と言った方がふさわしく、観光客的な宿泊者を対象とした小屋といっていいようた。

翌朝早起きして北横岳へもう一度登ってご来光を期待したが、わずかにかかっ た雲が邪魔して見ることができなかっ た。しかし山の夜明けはいつもドラマチックだ。遠く御嶽が赤く染まりはじめる。次に中央アルプスが木曽駒から空木へとばら色に姿を変え、北信五岳が染まるのは妙高が早い。鹿島槍がオレンジ色に浮かびあがり、そしてすべての山々に曙光が届き、コバルト色の空が広がっていった。
 
2006.01.26北横岳・三ツ岳はこちら