山のエッセイ3021  up-date 2001.07.17 山エッセイ目次へ

二つの悔い
先だって、私の山の友人からこんなメールをいただきました。
『山行100回以上を付き合ってくれた前の靴はとうとう底が磨り減ってしまいました。 お神酒をかけて、労苦をねぎらってあげようと思います。』

私は悔いをまじえた似たような経験があります。

●日本300名山踏破の終盤にかかったころ、愛用の登山靴がかなり傷んでしまい買い替えました。300名山277座目の京都愛宕山から新しい登山靴を履きました。
不用意にもこのとき古い方の靴をゴミとして捨ててしまったのです。何百回も私とともに全国の山々を労苦をともにして歩いた、私とは一心同体の靴です。
捨てずに残しておいて、最後の300座目には一緒に連れて行って上げたかった。 なぜそのことに気づかなかったのか。悔いても悔やみきれません。

捨てた靴に詫びながら、2000年の元旦、新しい靴で日本300名山最後の金剛山へ登りました。

●もう一つ悔いがあります。
私の山行では常に足であり、宿であった愛車「テラノ」が9年間で19万キロを走り、買い替えることになりました。
磨き上げた愛車に、別れのビールを
北海道から九州まで、時には山奥深い悪路を走り、休息の部屋となってくれた愛車です。
これは日本300名山の290座まで進んだときのことでした。

これまで何回か乗り換えてきたマイカーですが、これほど愛着を感じたことはありません。別れが惜しくて新車登録後も納車を延ばしてもらい、最後の別れのつもりで蓬莱山・武奈ケ岳へ行きました。もちろん愛車テラノの車中泊です。
それでもまだ惜別断ちがたく、今度は弥山・八経ケ岳へ出かけ、ようやく別れの決心がつきました。
テラノは老体を押して雨の中を快調に走ってくれました。テラノの乗りごこちをしっかりと記憶にとどめました。

シビレを切らしたディーラーが新車納入かたがたテラノを引き取りにきました。
朝から時間をかけて、内も外も念入りに磨き上げました。
ディーラーが来ました。「テラノ、ご苦労様。お前のおかげで300名山踏破までもう一息だよ。ありがとう」とこころで語りかけ、ビールをかけてあげました。
「こんなお客様は始めてです」と言ってディラーは見ていました。
引き取られて行くテラノが、角を曲がるまで見送りました。
せめて300名山最後の山はテラノと一緒に行きたかった。それが私には大きな悔いです。