山のエッセイ3030  up-date 2001.10.27 山エッセイ目次へ

とても素敵な山での看板
仙台市の郊外に『泉ケ岳』という山があります。仙台市民の憩の山として、ハイキングや青少年の野外活動に親しまれている市民の山です。

何年も前になりますが、日本300名山踏破の過程で泉ケ岳へ登ったことがあります。そこで思わぬものに出会いました。今日はその話です。

小雨模様の中を妻と二人で泉ケ岳山頂を目指して歩きはじめました。市民の山らしく、親切な道標や案内板が目につきます。
ふと見ると、ちょっと変った看板を目にしました。

『ここには野うさぎ、かもしか、月の輪熊が住んでいます。野生動物にやさしい気配りを忘れずに』

何か感じませんか。 そうです。普通は「熊出没注意」とか「熊を見かけたという情報があります。注意してください」なんていう≪注意書き≫ですよね。要するに人間に危害を加える害獣的感覚で、危ないから気をつけろと言う警鐘です。その背景はあくまで人間様が主人公、人間様の領域に危ないヤツが出没しているということです。

もう一度読んでみてください。 わかりますね。このテリトリーでの主人公はウサギやカモシカやクマさんたちなんです。平和に暮らす彼らの世界に、人間が勝手にづかづかと入りこんでいるわけです。
私も熊は恐いです。クマが出るから注意しろというのももっともですが、ここでは熊や兎が主体で、人間はあくまで彼らの生活圏への闖入者です。人間の驕り高さをときには脱ぎ捨てて、クマさんの気持ちになってみるのも悪いことではありません。

「自然を大切に」とか「動植物の採取はしないでください」という事務的なものとは、一味もふた味もちがった気持ちがこもっているように思います。
この看板を作った方のこころ優しさに思わず頬の筋肉が緩みました。出来たらその方にぜひ会ってみたいとさえ思いました。きっと仙台市の人だと思います。この看板を目にしたあと、仙台の人がみんな好きになってしまいました。