山のエッセイ3035  up-date 2001.12.22 山エッセイ目次へ

鈍行列車
私はマイカーを使っての山行が圧倒的に多いのですが、ごくまれに鈍行列車に乗ってのんびり山旅をすることもあります。
これはJRの“青春18キップ”を利用しての福島県大滝根山登山をしたときのことです。

全国のJR全線、一日中乗っても2500円、時間さえあれば大いに利用する価値があります。ただし鈍行列車以外は乗れません。極端に言うと、深夜0時を回ったところで乗車、乗り換えたりしながら行けるところまで行って、翌日の深夜0時直前まで乗っていてもいいわけです。

新幹線なら上野から郡山まで1時間20分、鈍行だと黒磯で乗り継いで約4時間。それでも特急なんかと違ってあまり退屈を感じません。それというのも、例えば特急だと、上野駅を発てば途中から乗車してくる客ははとんどありません。停車駅で客を降ろして行くばかりです。鈍行は近距離利用者が多いので、駅ごとに乗り降りする客があって、顔ぶれが変わり、それも土地の仲間同士の通勤や通学客で、方言丸だしのさまざまな日常会話が耳に入って来ます。聞くともなく耳にしていると、それがまた結構楽しいのです。
また各駅のホームには、その駅を基点にする名所案内板があって、名所旧跡やらハイキング案内やらがあって『××山はここから行けるのか・・・・』なんていうことがわかったりして、それも新しい発見でもしたような嬉しさがあります。

それと鈍行列車のいい点は、どの列車も何駅かの特定区間を過ぎれば、おおむね空いていることです。四人用ひと桝に一人で悠々と座っていられます。向かいの座席に、はばかりもになく足をでーんと投げ出して、窓を過ぎ る田舎の風景を眺めているのも、特急列車にはない味わいです。

郡山駅で磐越東線に乗り換えます。二両編成のワンマンカーでした。郷土玩具で知られる“三春駒”の三春駅。春には『梅』と『桃』と『桜』がいっペんに咲くから『三春』というのだそうです。寒々とした風景からは、まだ春の息吹は感じられませんが、素朴な村落のたたずまいの中から『相馬盆唄』でも聞こえて来そうです。
特急や新幹線では味わえないものが、鈍行列車の中には詰まっていました。
無人駅の神俣駅までの所用時間は自宅を出てから6時間でした。
山を登り終えて、帰りもまた鈍行の乗り継ぎで東京へ向かいました。