山のエッセイ3041  up-date 2002.02.17 山エッセイ目次へ

登山に好立地の東京
東京から奈良県へ転居して、ちょうど5年が過ぎました。

登山愛好者にとって、東京というところは実に恵まれた立地だったことを痛感しています。
東京在住の11年間、四方八方諸国の山を、まさに縦横無人に登りまくったという気がします。東京という都会が好きなわけではありませんでしたが、さまざまな思い出に満ちた期間であったのも事実です。

東京という大都会は、山とは無縁なところと思いがちですが、都内を基点にして日帰山行の出来る選択エリアは実に多種多様です。 都民に馴染みの深い奥多摩、奥武蔵、丹沢などの山塊は数多くのピークと並んでコースもまたバラエティーに富んでいました。低山あり中級山岳あり、それに奥行きがあるというのか、懐が深いというのか、長年通っても全部は登り尽くせません。
少し足を延ばせば日光や那須の連山、また諏訪山などの峰々がひしめく西上州、さらに秩父、奥秩父の山々など、とにかく登山・ハイキングに適した山は数知れずありました。

「すべての道はローマ」ではないが、国内の交通機関はすべてがハブのように東京を基点にして全国に延びています。北海道へ行くにも九州へ行くにも、実に便利に出来ています。
日本百名山や300名山を志す人々にとって、東京の地の利は抜群。北国の人や西方の人にはその何倍もの苦労があるのではないかと思われます。
私が日本300名山を踏破できたのも、東京にいたからこそと思っています。

奈良に住みついて5年、登る山の選択肢が情けないほど少ないのに加えて、中級山岳以上の山となるとほんの数えるほどしかありません。それが淋しい。
奈良の自宅から日帰り圏内の山へでかける。天気がいいと展望はあります。確かに山は見えます。山は見えますが心躍らすような山岳美は望めません。似たような山々が重なり合うのみ、あの頂きに立ってみたい、そんな誘いをかけてくる山をその中に探すのは難しい。
残雪のころ、日帰りの山からでも遠く北アルプスや南アルプスをはじめ、多くの銀嶺を眺めることも出来たのが懐かしい。今はそれもかないません。

30年前、もし登山を趣味としていたらこの地にマイホームを持つことは多分なかったと思います。