山のエッセイ3054 up-date 2002.10.16 山エッセイ目次へ
秋は紅葉のシーズンです。 信州ではことさらに紅葉が身近で、関心も高まります。紅葉狩りの行き先にはことかきません。 奈良にいたとき、紅葉というと話題になるのはたいてい京都や奈良の寺などでした。紅葉を意識して植えこまれたカエデなどの樹木が、それはあでやかに目の覚めるような華やかさで飾り立てていたものです。 信州の紅葉は自然の山や渓谷です。赤や朱の彩りを添えながら、どちらかと言うと黄色が主体のように感じます。近づいて見る紅葉ではなくて、山全体とか、渓谷などを大きな景観として眺めるのが向いている紅葉です。 信州は落葉松=カラマツが多く目につきます。太平洋戦争のあと、丸坊主となった山へ植林したものが成木となって山を覆っています。 私はそんな落葉松の黄葉が大好きです。紅葉・紅葉の美しい木々は、また春芽吹きの新緑もまた美しいものです。落葉松もその例外ではありません。芽吹きのあの爽やかな黄緑は、嘆息するようなやさしい色をしています。深い秋の空をバックにして、黄金に輝く黄葉もまた文句のない輝きを見せてくれます。 秋の里山を歩くとき、落葉松の林の道には黄金を敷き詰めたような落葉に目を見張ることがあります。 この秋も、落葉松の林のある山道を歩きに行きたい。杖突峠から守屋山への道を歩きに行こうか。 ◆北原白秋 落 葉 松 一 からまつの林を過ぎて、 からまつをしみじみと見き。 からまつはさびしかりけり。 たびゆくはさびしかりけり。 二 からまつの林を出でて、 からまつの林に入りぬ。 からまつの林に入りて、 また細く道はつづけり。 三 からまつの林の奥も、 わが通る道はありけり。 霧雨のかかる道なり、 山風のかよふ道なり。 四 からまつの林の道は、 われのみか、ひともかよひぬ。 ほそぼそと通ふ道なり。 さびさびといそぐ道なり。 五 からまつの林を過ぎて、 ゆゑしらず歩みひそめつ。 からまつはさびしかりけり。 からまつとささやきにけり。 六 からまつの林を出でて、 浅間嶺にけぶり立つ見つ。 浅間嶺にけぶり立つ見つ。 からまつのまたそのうへに。 七 からまつの林の雨は、 さびしけどいよよしづけし。 かんこ鳥鳴けるのみなる。 からまつの濡るるのみなる。 八 世の中よ、あはれなりけり。 常なれどうれしかりけり。 山川に山がはの音、 からまつにからまつのかぜ。 |