山のエッセイ3055  up-date 2002.11.02 山エッセイ目次へ

登山道開鑿のこと
ある方から『毛勝山に登山道が出来たので登ってきました』というメールが届きました。
日本300名山踏破を目指す者にとっては、毛勝山は難関の一つとして数える山の一つです。それは登山道がなく、残雪期のみ勾配40度を超える雪渓を踏んで山頂を目指すという、普通の登山者にはかなりハードな山だからです。

踏破した300名山を振りかえってみますと、最も厳しかったのが毛勝山でした。 このほか佐武流山や笈ケ岳なども登山道のない厳しい山だったのですが、登攀の緊張感は問題になりません。それらの山も、今は残雪期以外でも比較的楽に登れるルートが拓かれたと聞きます。

毛勝山に登山道が開鑿されたというのは朗報です。朗報ではありますが、正直に言うとちょっと残念な気がしないでもありません。登山道がないからこそ、その頂を目指す人はごく少なく、手垢の少ない山としての存在価値が大きかったのは事実です。毛勝山の頂に立てた達成感、満足感は、だからなお一層強かったわけです。ささやかな優越感さえも抱かせてくれました。

誰でも簡単に登れる山になった。それは良いことにはちがいありません。でも少し淋しさもあります。 あんなに苦労して登った私の大切な軌跡が、跡形もなく消え去ってしまいそうなそんな淋しさです。
でも考えて見ると、私が苦労もせずに登った山々の中には、30年、あるいは50年前だったら数倍、数10倍の危険と努力が要った山も多くあったはずです。それがときの流れというもの、むしろ淋しがるのではなく、登山道の拓かれる前に登れた幸運に感謝しなくてはいけない、そう思いなおすことにしました。

毛勝山登山道は「沢雪山歩」さんの下記のHPでご覧になれます。
http://homepage1.nifty.com/shinoda/plp/yama-rep/kekati.htm。