山のエッセイ3087  up-date 2005.03.09  山のエッセイ目次へ

ある山小屋での光景
以前、八ヶ岳の山小屋でこんな光景を目にしたことがあります。

山小屋に泊まったとき、単独行の私は親しく話す相手もなく、所在ないままに宿泊者の様子などをぼんやりと眺めているこがよくあります。
いろいろな人がいるのに気がつきます。

30才前後と見られる単独行者は、昨夜残業を終って帰宅、急に山へ行きたくなり朝一番の汽車で出て来たということだった。その青年は小屋のすみっこで雑誌「山と渓谷」のページを繰り、 飽きると横になって目をつぶり、そしてまた黙ってストーブの前に座って手をかざす。だれにも束縛されず気ままな時を過ごせる魅力を求め、それが許されるこの空間に身を置ける幸せを味わっているかのように見えた。
ガツガツとせわしなく山を歩き回るわが身が、何とも貧相で情けないものに感じてしまった。

小学校5年の女の子を連れた父子二人。
どこにでもいるごく普通の感じのお父さんである。女の子は髪を延ばして可愛い顔をしていた。
後向きに座ったその子の長い髪を、お父さんは慣れた手つきで三つ編みにしてやっている。女の子は気持ち良さそうにじっと座っている。あたりをほのぼのとした温もりが満たしていくようだ。お母さんは家で留守番でもしているのだろうか。それとも父と娘の二人家族なのだろうか。美しい光景とはこういうものを言うのだろう。そんなことを考えながらほのぼのした気持ちでその様子を眺めていた。
翌朝、みんなが起きだす頃、その父娘は朝食前に天狗岳へ出かけていった。この子はきっと山を愛するいい娘に成長することだろう。