オラオラ隊列伝1

海人、ダイバー石射俊明

川辺川の河原で笑うダイバー石射。
深い深い淵に潜っていき、亀を捕まえてニッカリ笑った。初夏の川辺川。奴の 草笛の音色は忘れることができない。。。

ダイバー石射登場ページ: イルカと休日/洋(うみ)からの便り

僕が、ダイバー石射に出遭ったのは、しじみ漁をする漁船の上だ。

1994年の4月はじめに旧建設省は、地元団体や自然保護 グループの抗議にも関わらず、長良川河口堰のゲートを おろして、川を遮断し淡水化実験を強行しようとした。

それに反対する漁民や、天野礼子氏をはじめとする市民グループは 漁船を可動ゲートに結び付けて、人柱ならぬフネ柱作戦を 展開し、フネの座り込みをおこなったのだ。

それを昼のニュースで知った僕は、 長良川をツーリングした時に4箇所骨折したままの 折り畳み式カヌーを背負って鈍行に飛び乗り、 長良川の河口に今にも沈没寸前のアルカディア号を 浮かべたのだった。幾十にも張られたオイルフェンスや遮断ゲートを乗り越えて、 篭城船に漕ぎ寄った。

そのフネには、いかにもあやしそうな若人と、ちょっとコワモテの オヤジが乗っており、昼には、旧建設省の木っ端役人が フネで交渉にきたり、補給船で、天野礼子氏や 環境問題に熱意を燃やす学生たちなどが激励や応援に 訪れたりした。

夜はさすがに、学生たちや女性は陸に戻ったのだが、 オイラやコワモテオヤジ、危なそうなにいちゃんなどが、 泊り込み部隊として選抜されることになった。 その泊り込み要員にやってきた内の一人が、 ダイバーこと、石射俊明だった。

他の人たちは、それまでも長良川を守る長い闘いを 続けてきたので、悲壮感というか、真剣さを 漂わせており、それはそれで大いに刺激と、 感銘を受けたのだが、

「好きな川を守りたいから」 とか 「悪いことは悪いことだから」

と単純な思考能力しか持ちあわせていなかった僕に とっては、彼らの闘いにかける想いは少し重過ぎた というのが正直なところだ。 そんなところへ、

「いやあ、ここへくればさぁ、タダ飯くえるからって聞いてさ」

とニコニコ笑いながら登場したダイバー石射とは、 ヨソモン同士意気投合してしまったのはもうしょうがない というかそういう運命だったのだろう。

その時、フネでは、一晩と少ししか行動を共にしただけだけど、 夜が長かったこともあって、いろんな話をした。 記憶に残っているのは、お互いのすきな本や作家について語った ことだ。僕が「野田知佑」を薦め、ダイバーは「灰谷健次郎」を 薦めてくれた。「灰谷健次郎」の小説はその後、僕に大きな影響を 与えることになったのはいうまでもない。 別れる前に、GWにオラオラ隊で九州遠征を考えていることを 話すと、乗ってきたので、来ないか?と誘うとふたつ返事で快諾。 再会を固く誓ったのだった。 この時、ダイバーは仕事を辞めて、約束の地をもとめて 放浪旅にでる途中だったのだ。

ゴールデンウイークの前半、オラオラ隊薩摩隼人、のもやんと 二人で、世界遺産に登録されたばかりの屋久島へ登山に先発した僕は、 あとからくるオラオラ本隊に面識のないダイバーを厚木でピック アップし、熊本まで走ってきなさいというメチャクチャな司令を だした。19時間ドライブのあと、熊本の人吉に 到着したハリゲーたてちゃんは、ダイバーとすっかりうちとけて、 固い絆ができており、ちょっと羨ましかったのを覚えている。

オラオラ隊の隊員たちとは、すこぶる相性がよく、オラオラ隊に 入るべくして生れたような男だった。

それでは、オラオラ隊きってのスポーツマン、たてちゃんに 筆を譲ることにして、ダイバー石射が、オラオラ隊と遊んでくれた 川辺川・球磨川紀行をいっちょう紹介しておこう。


オラオラ隊、川辺川で遊ぶ

1994年5月2日(月曜) 午後11時頃、電話がなった。

「おお、たてちゃんか!今、国道1号にいるんだが、ここはどこだ? ここから近いか?」

「ハリゲー!ぜんぜん違うぞ。引き返して、国道16号から246号線に はいってくれ。」

「たてちゃん、すぐか?疲れて、頭が朦朧(もうろう)としている」

「行けるところまで行ってくれ。迎えにいく」

今日から九州の球磨川に行くことになってっている。 一足先に、屋久島へ遊びに行っているオラオラ隊のたいちょおと、 潜水班長のもやんとは、熊本県の人吉で落ち合うことになっている。 BOYは、前日の夜行に乗って先発していった。

残りのオレ(たてちゃん)、ハリゲーと謎のスキューバダイビング男、石射の 3人でハリゲーのハイエースで陸路を九州目指して走ることになっている。 ハリゲーは今日、実家の田植えを手伝ってから、神奈川県の座間にあるオレ の家まで来て合流、その後厚木でダイバーを拾うという段取りである。

夕方7時くらいの留守録に「今から出る」とハリゲーからメッセージが入っていた。大丈夫ななと心配 していたら、案の定迷っていた。なんとか座間まで来て、落ち合うことができたころには、ハリゲーは 意識を失う寸前だった。運転を交代してハリゲーは助手席へ。ふぅっと言って一服する。

ハリゲー、お疲れさん。

高速道路は混むこともなく、伊勢原バス停留所で待ち合わせのダイバーと会った。 友達2人に送りに来てもらっていた。(最初の印象は、俺が夜の運転でちょっと 疲れていたせいか、元気な奴だなぁ、だった)それにしても、オラオラ隊ではありがちだが、 初めて会うという印象(ちょっとした緊張感)は全くなかった。

「ダイバーをやっている石射か?」(どういう会話じゃ)と俺。

「何人でいくの?」とダイバー。

「3人になったよ」と、俺。

「ぉお、マジかよお!」とダイバー。続いて

「俺の友達なんだよお!」と友達を紹介する。

「ぉぉ、どうも、わざわざすまんなあ!」と、ハリゲー

「いいえ、よろしく」とダイバーの友達。

「いやあ、これから行くんだなあ!」とダイバー

「そうだなあ!」と、俺。

「うおおおおおおぉぉ!」とダイバー。

会話がつながっているようで、つながっていない。 ハチャメチャなやりとりを初対面どうしで、ポンポン していた。


1994年5月3日(火曜日)

そして、ダイバーを助手席に乗せ、俺が運転し、ハリゲーは後ろに廻って 眠ることになった。東名自動車道を走る車の中で、隣のダイバーは ドライブを楽しんでいた。ハリゲーはすでに寝息を立てている。

名古屋あたりで、ダイバーと運転を交代。ハリゲーが助手席にやってきて、 俺は後ろに回った。朝の8時頃には吹田で渋滞につかまった。中国自動車 道に入ると、渋滞はなくなって快調である。夜8時ぐらいには 着くかなあ。酒が飲めたら良いなあと話をしていた。 そして、九州自動車道へと快調な走りを見せた。

高速も人吉で終わり、待ち合わせの中州まできたはいいが、テントを 探しても、たいちょお達はいない。

とりあえず腹ごしらえとなった。弁当とビールを買い込み中州にもどって、 3人で乾杯した。

川の音がする。匂いが違うような気がした。

「ああ、来たんだなあ」

なんか深い感慨に耽ってしまうほど、静かだ。

川の音がする。

ただ、それだけのような気がした。言葉の要らない場所に 来たんだなと感じた。

ふと二人を見ると、何を思っているのかはわからないが、 なんかやっときたんだなという安堵の顔があった。

そうだよな。俺達何千キロも旅して来たんだものな。

3人とも言葉を失っていた。

ただ、川の音がする。

腹ごしらえをして、もう一度、中州のテントを探してみた。 すると、そこには、おでんを囲んで、いつもの雰囲気で 飲んでいるオヤジ達(正確に言うと、 オヤジが二人、青年と少女)がいた。

「たいちょー!」「おお!ハリゲー!」「のもやん!」 「おお!ダイバー!」「おおっ!」「ウイーッス!」

と、皆、何年ぶりかに会う幼なじみのように再会を 嬉しく思った。

たいちょおは相変わらず黒いし、のもやんはオヤジだし、 BOYもあの、「ウイーーッス!」は健在だ。

ゲストのペコちゃんがいるようだが、とりあえず温泉に 入ることにする。実は温泉と聞いてびっくりした。

オラオラ隊で川下りをしていて、初日に風呂に入れるとは 夢にも思わなかった。ハリゲーも驚いていた。

「マジか?風呂に入れるのか?ありがたいな」

といつもの渋い声でうなっていた。

温泉がまたいいのだ。古いだけに歴史を感じさせる。 なぜにこんなにいいなと思うのか言葉ではうまく言えないが、 落ち着くのだ。

今でも、人吉のあの夜景が目に焼き付いている。都市にいると あまり感じない明かりが、暖かく感じる。

ああ、ちょうど人を安心させる光なのだろうか。また深い感慨に耽ってしまった。

月明かりがほしくなるような、静けさと暗さがそこには存在していた。

「いいねえ」

と隣にいたハリゲーにつぶやくと、

「うん、そうだな」

と言葉少なになってしまう。

中州に戻ると、既に俺とダイバーのテントを張ってくれていた。

そこで、ビールを飲み、焼酎を飲み、おでんをつまんだ。

少しづつ会話が弾み始めた。なかでも、ハリゲーの話が面白かった。

「渋谷でホッケーの仲間と飲んでてさ、後輩が助けを求めるんで やっちゃったんだよ」

「いやあ、弱いやつと喧嘩するのは、一番いいよ。最初の言葉でめたくそいうんだ。 それで、びびらせちゃうんだよ、「このうんこ野郎!」とかさ」

「愉快だったなあ」

みんな聞き入ってしまった。すかさず屋久島と鹿児島で遊んできたたいちょおも、 「薩摩隼人もいいぞ。鹿児島でのもやんの友達と飲んだが面白かったぜ」

「そうそう、屋久島では、ウィルソン株の中で寝たよ。不思議な体験だったぞ」

みんな、キラキラ輝いた顔をしていた。「くうぅ、いいなあ」

旅の初日で緊張していたのか、腹一杯なのか、あまり飲めなかった。 あの時のみんなの顔が印象的だ。幸せ一杯の顔をしたみんなの自慢話に聞き入っていた。 その日は寝ることにした。


1994年5月4日(水曜日)

少し肌寒い。テントから出ると、たいちょおと、のもやんがコーヒーを飲んでいた。 「おー、たてちゃん、起きたか」

「おー」

会話が単純でいい。

寝起きのションベンをするか。木陰でジャーを。ふぃー。気持ちいいなあ。 川が目前で流れている。早く川下りがしたいなあ。

戻ると、コーヒーが待っていた。暖かいやつだ。いいねぇ。体が暖まる。

「たてちゃん、疲れているんじゃないのか。もつ少し寝てても大丈夫だぞ」

たいちょおが気を遣ってくれた。 「いやあ、興奮しているのか眠たくないんだ」

BOY、ペコちゃん、ダイバー、ぽつぽつみんなが起きはじめた。 マイペースでいいねえ。昨日の残りのおでんをつまみはじめた。

今日は天気が今一つだが、川辺川を下ることになった。車で上流まで 行き、今いる中州まで下ってくることになった。車で上流までいく途中、モリを手にした 少年たちを見た。この場所ならではの光景だろう。みんなうらやましそうに見ていた。 うん。確かに羨ましい。

出発点の廻に到着しフネを組み立てる。ハードボイルド号の組み立てをしている ハリゲーをダイバーと俺とで手伝った。

他にもカヌーのグループが来ていた。犬を連れたオヤジ達は、昨年、たいちょおと会っている ようだ。川に惹かれる人は毎年同じ時期に来るんだなあ。

ダイバーを囲んで出発前のオラオラ撮影。
1994の初夏。川辺川の廻にて。

水量や危険なところを聞くと、どこそこの瀬が岩に当たって危ないといっていたが、 どこだかはわからない。

たいちょおは、「あっ、そこね」と軽くいっていたが、どうなることやら。

なんたって、俺がこれまで、那珂川で2時間位しかカヌーに乗っていない。 思わず緊張してチンポがキュッと締まる思いがした。

ワクワクするような、ドキドキするような、う〜快感だあ!

たいちょおから指令が出て、俺はBOYのファルトを借りることになった。 アリーには、先頭にダイバー、真ん中にたいちょお、船長にハリゲーが乗り込むことになった。 BOYとペコちゃんは、グラブナーへ乗った。

よし出発だぁ!

久々の川ではしゃぐたてちゃん。後ろのアリーの 先頭がダイバー。サングラス姿が凛々しい(見えないか。。。)

なんか足を川に入れただけで楽しくなってくるから不思議だ。 それにしても川の水が奇麗だなあ。 本当にきてよかった。

最初に沈したのは俺だった。くやし〜。 めたくそくやし〜。何度書いても、くやし〜。ただそれだけだった。 その後も、瀬が続いた。水が冷たいが気持ち良い。

3つ目くらいの瀬でアリーが撃沈。ウキー!!!楽しくなったきた。

見事に転覆したアリー(ハードボイルド号)。右からダイバーが救出したラガービアを放り投げている。この時のやつは楽しそうだったなあ。初沈体験である。

真ん中に乗っていてなんにもできなかった、たいちょおが、しきりに悔しがっている。

「おめえら、ちゃんと体制を立て直そうとしろよ!」

「いやあ、すまん、すまん。なんか奇麗にいっちゃったなあ」

と水面に顔を出したハリゲーが妙に感心している。ダイバー曰く、

「いやあ、水が奇麗だなぁ(笑顔)」

たいちょおは、それを聞いて、この先さらに沈が続きそうだと思っただろう。 俺が見ていた限りでは、ハリゲーとダイバーは沈する瞬間、笑っていたような気がする。

特にダイバーの沈した時の笑顔がたまらなかった。

岸に打ち上げられていた魚が水に帰るがごとく、自ら飛び込んでいったように見えた。

そんなダイバーを見て、俺は一言。「うーん。楽しそうだ〜」

沈した時、ダイバーがシュノーケルを川に落としてしまったようだ。 河原に上がって、昼飯を取ることにした。 出発する前に買っといたほこほか弁当である。 ビールを空けてしまうのも早かった。

川辺の河原でお弁当。
平和なひととき

すると、ダイバーが川辺川に潜りはじめた。 水中に落としてしまったマスクとシュノーケルを探しに いくようだ。たいちょおとBOYもフネで続く。 そしてオラオラ隊潜水班長のもやんも泳ぎはじめたが、 川の流れに押し戻されて上流へ溯ることができない。

「おーい。のもやーん、全然進んでねえぞお〜」

BOYのフネに捕まって上流に向かおうとするが、 重さで沈みそうになっている。

たいちょお&ダイバーチームは上流に到着し、 アリーが沈したあたりから捜索を開始。

落としたシュノーケルの回収は実際のところ無理だと 思っていたのだが、遠くから喚声が聞こえた。 見つかったのか?目を細めるが遠すぎてよくわからない。

「あったよ!あったよ!」

とダイバーがあの笑顔でニコニコしながら、川から上がってきた。 手にはなぜか習字道具セットを持って。

なんで習字道具があるのかなぁ。 今頃これを落とした人は幾つくらいになったのかな。そんな話をした。

少し休んでから出発。今度は、俺とのもやんがグラブナーに 乗り込み、ペコちゃんは、のもやんのパジャンカに、BOYは自分の ファルトに戻り、アリーはたいちょお、ハリゲーが操船。 たいちょおとハリゲーがアリーの舵をとると、一安心だ。何があっても 大丈夫という気がする。

一番、沈しやすいだろうペコちゃんは、健闘していたが、とうとうテトラの瀬 でひっかかって沈してしまった。

「よし!助けにいくぞ。たてちゃんはここにいて!」

グラブナーから、さっそうとのもやんが救出に向かったが、

「あれえぇえええー!!!」

ペコちゃんの フネを掴みそこね、そのまま下流へと流されていった。

「のもやーん、おまえが、流されてどうすんねん!」

そしてそれに続けとばかり、フネに引っかかっていたペコちゃんも 楽しそうに流されていった。 ようやく淵で、ペコちゃんを助けだそうとしたアリーもその時 すでに水ブネ状態で、ペコちゃんがのると、ズブズブ水面下に 消えてしまった。

その後は順調だったが、夕方が近くなると風が強くきつかった。 川辺川から球磨川に合流したとたん、水が濁りはじめたのには 驚いた。テントを張った中州に到着したのは陽も落ちた夜の7時。

みんな相当、つかれていた。昨日の残りのおでんを食べて、 ビールを飲むが、疲労感が大きく、みんなすぐテントに入っいく。

俺もハリゲーと二人でテントに入り、明日の球磨川のコースを川地図で 確認した後、寝ることにした。

「あっ、やべえ」

毛布を車に置いてきたままだった。まぁいいだろう。 たいちょおから借りているウインドブレーカーを掛け、足はナップザックに入れて寝ることにした。


1994年5月5日(木曜日)

4時頃、寒さに目覚める。

「うっ、結構寒さがくるもんだな」

しかし、疲れのせいか体を動かせない。 まあ、横になっているだけでも疲れはとれる。 川の流れが心地よいBGMとなり、うとうとする。

すると、ガサガサと誰かが入ってきて、そして居なくなった。 目は開けなかったので、誰だかわからない。 横になっていると、 「たてちゃん、寒いから、これに入れ、俺のだ」

シュラフを置いていった。

「おう」ありがてえ。すまないと心でつぶやき、シュラフに潜り込んだ。 こういう時、照れなのかうまく礼の言葉がでてこないな。

またうつらうつらと寝ていると、外でたいちょおやのもやんの声がしてきた。 8時頃だった。よし!起きるかあ。

「おー、たてちゃん、起きたか」

「おー」

本日も会話が単純でいい。オラオラはいいな。

さあ、ションベンだ。ションベン。木陰でジャーっと。ふ〜心地良いなあ。 川が目前に流れている。早く川下りがしてえな。 そんな気持ちになってくる。

戻ると、コーヒーが待っていた。暖まるなあ。

喉を通る熱いコーヒーが冷え込んだ朝の中では気持ちがいい。 うぅ〜ひたってしまうぜ。

ぼちぼち皆起きはじめた。朝飯を食っていると、たいちょおが 昨日声をかけていた青年を誘い、いっしょに朝食をとることにした。

なかなか感じの良い青年だ。福岡出身で、今は神奈川県の平塚に 住んでいるとのこと。小石原という名字が三文字のため、今ひとつ みんなに名前を覚えてもらえない。

後で、あの気持ちの良い青年の名前はなんだっけという会話に なったとき、

「大石原」 「小石屋」 「大石屋」といろいろうろおぼえなのがでて、結局「あの青年」という 呼び方に落ち着いてしまった。実は俺と同じ歳だった。単独行で、今日 帰るようだ。たいちょおから昨夜飲もうと誘われていたようで、 焼酎を買っておいたのでみんなで飲んでくださいと置いていった。

おもわず良い青年に会ったなあと思った。

小石原青年を囲んで。球磨川バトル出発前の一枚。

おっし!球磨川へ出発するか。 いつものオラオラ隊にしては早い出発だなあ。下流の熊太郎の瀬の前に 移動し、カヌーを組み立てた。昨日一度やっているので、スムーズだ。

車の中のオラオラ隊。本日もヒドイ目に遭うとも知らず可愛いモンである。

グラブナーに俺とペコちゃん、アリーにたいちょお、ハリゲーの最強コンビ。 続いてのもやん号、BOY号のファルト2艇だ。ダイバーはカヌーに乗らず泳いで下ることに。

ハリゲー、たてちゃん、ダイバー
関東から陸路爆走組のメンメン。

球磨川下りの遊覧舟をバックにパチリ。泳いで下るダイバーにはハリゲーのアイスホッケー用ヘルメットが支給された。ちなみにライフジャケットは人吉で購入した1500円の品である。

大丈夫かなあと思っていたが、なんのなんの、一番頼りになる男であった。

颯爽と泳ぎ出すダイバー。オラオラ潜水班長のもやんもシャッポを脱いだ恐るべき浸水度、いや、親水度だ。

最初の難関と思われていた熊太郎の瀬で、 グラブナーはクルクル回りながら、岩にぶつかっても 木の葉のようにただマイペースで進んでいった。

こいつはビクともしないなあ。どんな方向を向いても問題無かった。

昼メシは、「く」の字に曲がった流れの緩やかなところでとることにした。 美味しいトマトを食べつつふと、上を見ると崖の上に観光客らしき、おねぇちゃん、 二人連れがいたので、みんなで手を振ったが反応なし。

上から見るとたぶん、変な集団に思えるのだろう。遠くからでわからないが、 多分顔はひきつっているのだろう。もっと、広い心を持って欲しいと意味もなく思ってしまった。

球磨川の河原でお弁当タイム。
観光客のおねいさんはコレを見て逃げていった。
この後、瀬という瀬で撃沈を繰り返すオラオラ隊員たちを次々に救出したのは水の中のダイバーだった!

いやあ、しかし、静かだなあ。川の流れとオラオラ隊の声だけが聞こえる。ふと、ずっとここにいたくなる気持ちになりへんに切なくなった。 ああ、今日帰るんだなあ。

昔、日が暮れるのを惜しんで、親父に「まだ、ここで遊びたいよお!」と ダダをこねていた 光景を思い出す。

そんなちょっとした反抗心が、いつも、帰りがけにふと心によぎるのだろう。

川に目をやると、いつものとおり流れている。

我に返って、よし出発するかと、誰が言うでもなく、疲れている重い腰 をあげた。

今度は俺が一人になってBOYのファルトに乗り込んだ。BOYはペコちゃんとグラブナーに。 俺は、ある瀬で流れの中で方向転換ができずに岩に乗り上げてしまった。 流れに戻ろうとした時、横から流れを受けて沈してしまった。

救出してくれたのは、のもやんとダイバーであった。 昨日に比べて水が冷たく感じた。上がるところがないので、岩に張り付きながら水出しをする。 ダイバーも岸に這い上がりながら手伝ってくれた。いやあ、頼もしいなあ。

アリー、グラブナーは先行している。追いつかねば。

いくつかの瀬では、水量が少なく岩にひっかかる。 しんがりのダイバーが、その度に後ろから押してくれて大助かりである。

そのうち、みんなに追いつくことができた。

いよいよ、本日最大の瀬、二股の瀬に突入するという。 グラブナー、のもやん号はラクラククリアー。俺もどうにかクリアした。

ダイバーも岩に、足や腰を打ちながらも大丈夫であった。 最後のアリーが突入。

オラオラの旗艦、ハードボイルド号 と呼ばれるアリーの勇姿。ノルウェー製。操るはハリゲーとたいちょお。 ダイバーが拾ってきた習字道具で書いたオラオラの文字が勇ましい。

「あっ!」

のもやんが叫んだ。目の前に近づいてきたのは、底を見せながら流されてくる アリーの巨体だった。そのまま岩に張りつき、アリーは「く」の字に折れ曲がってしまった。

たいちょお、ハリゲーとも寒そうだ。強く寒い風が吹き、雨も降ってきた。

二股の瀬からえんえんと流される転覆したアリー。

アリーを引き上げると、部品が壊れ、岩に挟まれ曲がってしまっていた。

風がさらに強くなってきた。出発すると、雨が強くなってきた。 どんどん強くなる。

うお〜。雨風が身にしみて寒い。しかし、もうちょとっだあ〜。 気合を入れ、最後の瀬もクリア。

ボロボロのアリーは操船もままならないようで、またまた豪快な沈。

当初、難なくクリアすると思っていた最強ペアのアリーが一番つらかった。 この日は、いやあ、見事というくらいよく沈をしたのであった。

水も滴るいい男とは言い難いくらい、びしょびしょで寒そうであった。 体力もだいぶん消耗しているようだ。 のもやん号、ダイバーは恐ろしいくらい余裕である。

「いやあ、水中の方が暖かいよぉ!」

とにこやかに泳ぎながらダイバー。いやはや、いやはや。

あんたは、えらい!水の中を魚のように泳ぐ奴だ。 生れて初めてみたよ。

ボロボロのアリーも、最後のカーブを曲がり、最終地点へ 到着。いやあ、よく着いたなあ。みんなお疲れ様。

ようやくゴール。よくたどり着いたもんだ。

再起不能のアリーのたいちょおとハリゲーは特にお疲れ様だ。

ゴールで、フネをひけ上げたときには、精も根も尽き果てたという 感じだった。俺は車を取りに熊太郎の瀬へ列車で戻る。

残ったメンメンはたいちょおの知っている雑貨屋へ暖まりに行った。

車で戻って見ると、焼酎で、すっかりみんなできあがっていた。 ちょっと羨ましかったなあ。寒い身体には焼酎が効くんだなあ。

テント場までは、みんな大はしゃぎ。 川辺川のダム建設の反対署名をし、「国が川を壊す理由」という 本を購入して帰ることになった。 帰りがけにみんなの顔を見る。みんないい顔をしていた。

これから、BOY、ペコちゃんは二人で南の島へ。 たいちょおは、奄美大島へ大切な人に会いに行くらしい。 ダイバーは自分の求める海を探して流離旅だ。 とにかく南下するようだ。

俺、ハリゲー、のもやんの3人は、このまま車で帰る。 いやあ、楽しかったな。たいちょお、ありがとう。また、やろう!

俺はちょっと休暇に入ることになる。長旅はできないだろうけど、 また良い場所を見つけては行ってみたいものだ。オラオラ隊だけの とっておきの場所が見つけられたらいいな。

終わり(さすらいのテニスプレーヤー、たてちゃん著)

著者近影:出発前の嬉しそうな顔がイイネ。


ダイバー石射の写真館

長野県安曇野の銘川、万水川にて。
ニジマスと戯れるダイバーとその友人たち。

緑の森を泳ぎ下る。やつには日本の川を泳いで下るという本を出してもらいたかった。

我が家の結婚式の2次会にて。
せいちゃんのこの表情を撮ったのがダイバーだ。

ダイバー石射は、いつもオレの心の中にいる。
こんどは、天国の川か海で泳ごうや!