クィーンシャーロット諸島Day5(7/27)

Rose Harbourのスーザン


ボートで出漁するスーザン

「ハリバット(おひょう)を、上げたことがある? ないの。じゃあ、私がやるわ」

大きなハリバットが海底から上がってくる。

「海面から出さずにギャフを打ち込むの。 水面から上にすると、とっても暴れるから」

その瞬間、ギャフがハリバットに打ち込まれ、 ボートに引き上げられた。

うまくエラにロープを通せず、ボートの中はハリバットの 血の海になる。

「ごめんね」

のた打ち回るハリバットを殴って絶命させるスーザン。

ようやくロープを通したスーザンがハリバットを海に投げ込み 血抜きをする。気がつくと、スーザンの指も、ザックリ切れていて 血が流れていた。


クィーン・シャーロット諸島の豊饒の海に、漕ぎ出して5日目。 この航海に出て初めて天候が崩れた。逆風の雨の中、僕らは2つの難所を乗り越えた。 写真1枚とる余裕さえなかったけど、久々に出したアドレナリンと、潮の後押しのおかげで、 予定していた午前中には内海のHouston Stewart Channelに入ることができた。 そして、静かな静かなRose Harbourに到着した。

Rose Harbourは、1910年から 1946年まで日本の捕鯨基地だった 場所で、多いときには100名以上の労働者がここに住んでいたという。 腐食した鉄材が散乱する海岸から上陸すれば、 巨大なボイラーの名残りがあって、不思議な感じがする。

二階建てのロッジがある海岸に進むと、コテージからカヤックを担いで降りてくる女性が見えた。 漕ぎよっていくと、印象的な顔が僕に気づいて目を上げた。 深い目。高い鼻。そして自然に刻まれた皺。凛とした哲学者のような風貌だ。 それがスーザンだった。

「こんにちは? あなた、スーザン?  ヤスヒロ(西伊豆コースタルカヤックスの村田番長のこと)覚えてる?   彼は、僕の友人なんだ!」

スーザンの顔が満面の笑みに変わる。

「ヤスヒロ?もちろん!!!  彼は、わたしにいろいろ日本語を教えてくれたのよ。  そう、、、コンイチワ!(笑)」

スーザンは、ここRose Harbourで、有機野菜やハーブを栽培し自給自足の生活を している。25年もこの場所で暮らしているという。

今日は12人のディナーの予約が入っていて、そのための食材になる魚を調達しにいくところだった。

「手伝いましょうか?」

とスーザンのボートに乗せてもらいハリバット釣りにでかけた

「良い潮を逃がしてしまったから、釣れるかどうかわからないけど。。。」

太い糸の先に驚くほど大きく簡単なメタルジグを付けて海に投げ入れた。

「こうやって、底についたら少しあげて、、、、アッ!」

僕にやり方を教えようと、糸を動かした瞬間いきなり当たりがきた。 かかったのは、1mを超えるハリバットで、これでも小さいサイズだという。

前述のとおり、釣りの手伝いどころか、右往左往しただけだになってしまったが、 面白い体験ができた。

スーザンの住んでいる可愛らしいコテージにもどり、ハリバットをおすそ分けしてもらう。

巨大なハリバット(おひょう)

「刺身でしょ?もちろん」

スーザンの子供のような笑み。 大きくうなずいた。やばい。ヨダレがでそうだ。 小屋の外で、さばいた刺身を魚に、Ryuとビールで乾杯。 くう〜、漁からもどった後の酒は旨いね!

ハリバットの身は甘くてプリプリしていて、平目そのものだった。 美味しい。ヤミヤミ。

小雨があがり、日が差してきた。 なんて濃密な時間なのだろう。

Ryuとビールで幸せに浸っていると、スーザンに辺りを案内して もらっていたChiggyが目を輝かせて帰ってきた。

「スーザンの農園みた?すごいよー」

有機栽培や、ヨガに興味をもつChiggyはスーザンと意気投合。 楽しそうに談笑している。

スーザンの農園

スーザンが栽培した有機野菜を使ったディナーはクィーンシャーロット諸島の旅の極上のイベントだ。

キャビンで話しているときにも、イングランドのコーンウォールから来たヨットのご夫妻が無線で今晩のディナーを予約してきた。

「あなたたちも食べていく?2,3人増えたってあまり違わないし。。。」

ChiggyとRyuに相談して、アンソニー島のトーテムポールを見た後で、 ディナーにくることにした。後ろ髪がひかれるけど、 今はまだ、ご褒美には早すぎる。 この旅のフィナーレはスーザンのディナーに決定だ。

13時をまわった頃、静かな入り江にゾデアック・ボートの音が聞こえてきた。 ロストしていたバックの配達だ!

「はい、荷物だよ!」

モレズビーエクスプロラーズのガイドが笑って荷物を渡してくれた。 やった!村田番長のマリンVHFと、友達セニョールの写真が手元に帰ってきた。 そして、オイラのトレードマークのテンガロンハットも!

エア・カナダが紛失したこの荷物を受け取るために、Rose Harbourに立ち寄ることになったので、このアクシデントがなければ、 Rose Harbourは、ちらりと眺めただけで、最終目的のアンソニー島へ漕ぎ進んでいただろう。 到着した時は潮が押してくれる絶好の時間だったからだ。

トラベルの語源はトラブル。トラブルを楽しむ余裕がなくっちゃね。 おかげで、スーザンと素敵な時間を過ごすことができた。

今回の旅は、すこし余裕をもって計画を組んでいた。 天候が荒れたり、メンバーの体調が崩れたときのことを、考えた保険みたいなものだけど、 この余裕が旅に幅を持たせ、出会いや体験を実り多いものにしてくれる。

スーザンと再会を約束して、カヤックを漕ぎ出した。 朽ちていくポールのある世界遺産、アンソニー島までは、あと10kmもない。 目と鼻の先なので、少しでも近づきたかったが 素敵なRose Harbourで時を忘れて長居してしまい、今は完全な逆潮になっていた。 本日はRyuに素敵なキャンプ地点をセレクトしてもらっていたのだけど、 4ノット(時速7.2km)の逆潮に、あえなくギブアップして、 少し進んだクインギット島にテントを設営した。

レインフォレストのキャンプサイト。お気に入りの帽子と

本日は、盛大な野菜炒め。スープと野菜づくし。

実は、毎日食べようと買い込んできたオイラのニンジンは、

「たいちょお、野菜はね、古くなってから食べると悪い気が  からだに溜まるの。だから新鮮なうちにたべないとダメなの」

というChiggyの教えにしたがい、3日目までに全部、食べられてしまっていたけど、 スーザンから山盛りのニンジンがプレゼントされたのだ。わーいわーい。 βカロチンだー。ほかにも有機野菜の差し入れがたっぷり。

オミヤゲにもらったハリバットの切り身があったので、メインはハリバットのムニエルに。 ヤマザクラのチップでスモークハリバットも作った。 この旅で、刺身と煮つけ以外にオイラが作った3品目。

届けてもらったて荷物に入っていたシングルモルトウィスキーが スモークハリバットにぴったり合って、うめいうめい。

Chiggyおすすめのオレンジペコ&ラムも最高に旨い! 本日も幸せの1日が終わっていった。 明日はいよいよ、この旅の目的地のアンソニー島へ向かう。 ようやく、ここまで来たんだ。

フカフカのレインフォレストの森で、ドキドキしながら眠りに着いた。 さあ、明日の朝は良い潮をつかまえるぞ。