クィーンシャーロット諸島Day7(7/29)

スーザンのディナーパーティ


朝起きだして焚き火を起こし、 アールグレーのティーパックをお湯に 放り込む。 青空が広がってきた。 Haida Gwaii(クィーンシャーロット諸島)に 漕ぎ出して一週間。 夢に酔う日々。

小さな無人島の森でキツツキがコンコン、スプルースを叩き、 ワタリガラスが大きな羽音をたてて飛んでいく。

旅の目的のNinstintsのポールとの対面を果たした僕らは、本日、Rose Harbourに戻ってスーザンのディナーというスペシャルイベントがまっている。 明日は、ゆっくりピックアップを待つだけだ。 夕方までのんびり自由ということになったので、ChiggyとRyuは、テントで夢をみているのだろう。

この旅に出て、久々に本を開く。 少し疲労も蓄積してきているのだろう。 こういうときは、ノダトモブンガクが丁度良い。

「な つかしい川、ふるさとの流れ」(野田知佑)

ユーコンの項を拾い読みする。 日本人ツアーを行ったユーコンの リバーガイドは言う。

「彼らに英語で言うとみんなわかったわかった  という。ところが少しでもわかっていないんだ。  あれが困る。わからない時はわからないと  いうべきだ。こっちはその上で行動するのだから」

日本人は優しいからだよととりなすノダトモに、 ドイツ人ガイドの返事は厳しい。

「そいういうのは優しさとはちがうだろ。  自分の考えや信念をはっきりいうのは、  人間の基本だ。自己主張せずに黙って  いる人間は馬鹿とみなされる」

ガイドの指示をわかったとうなずき、 禁止されたことを平気でやって、危険に 陥る例が後を絶たないらしい。

僕自身も、平均的な日本人だったので、この 行動原理はよくわかる。 日本では出る杭にならずに、 組織の言うことを鵜呑みにし、組織や 家族のいうことを聞いて、迎合していくこと の上に成功がある。

自分で決断しないで、何かに判断を阿ねようとする。 時には、まったく間違ったことでさえ、 正当化して実行に移すことがある。。

権力者のいうとおり動く羊のような生き方をするだけだ。

「社畜」や、「家畜」になりさがる。 社名や肩書きに胡坐をかいて、自分の力と過信する。

それは日本というシステムの中では、成り立つ が、個人のスキルがすべてものを言うバックカントリーの掟の中では、まったく意味をなさない。 狩猟や農耕生活の世界も然り。

だから、日本の官僚や都会人は、田舎の大地や 森と海に暮らすひとを馬鹿にし、いじめ、 機械化という手段と、公共事業という錦の御旗と札びらで コントロールしようとする。

日本の官僚や都会人の多くと、酒を飲んでも、 自分で、見たこと、感じたこと 思ったことなどが、その口から出ることは少ない。 教科書を鵜呑みにすること、 上下関係のバランスをとることに長けているが、 そういうのを、頭が良いとは思わない。 彼らの、話のネタは自慢と誰かの噂話で終始する。

生き物としての実力がないし、自分に自信や 信念がないから、 一番盛り上がる、自分の失敗話なんかは どうやったって出てきようがない。 これでは、楽しい酒になるはずがないではないか。 学校を職場とするRyuや、海外留学や サマーキャンプなどカナダでの日本の子どもたちに 接するChiggyも、こと教育に関しては暗い展望だ。 生徒よりも、頼りなくて心配になってしまう先生が何人もいるという。

脱線。 Ryuが起きてきて浅田次郎の「壬生義士伝」を岩に寝転んで読始めた。 Chiggyは、一度テントから顔を見せたが、そのまま ひっこんだ。安心からか昨晩の深酒で二日酔いを継続中。

なにもしない、この贅沢よ。 日が傾いてからテントを撤収し、スーザンの待つ ディナーパーティへ出航。

上げ潮におしてもらい、ほんの短いショートトリップ。 ようやくChiggyも復活してきた。

「こんかいの旅は、大満足よー。  あと、こころ残りは、たいちょうのサーモンやなあ」

とChiggy。

「あっ、たいちょお、ライズしてるよ」

とRyu。

ちぐしょお。

Rose Harbourでスーザンの笑顔に再会。 コテージの傍の草原に、テントを張る。

フライングして遊びに行くと、スーザンの夏場だけの ヘルパー、シャロンさんが、サーモンを手に悪戦苦闘中。 でかい!COHO(シルバーサーモン)と SOCKEYE(レッドサーモン)だ! 漁師さんにもらったという。

「代わりましょうか?」

シャロンさんの目が喜びにあふれた。 美しい身にフィレナイフをいれていく楽しさ。

釣ることはできなかったが、ここでサーモンにありつけるなんて!! サンドフライタイムで、見えないミッジにかまれつづけて、

「イテイテ!痛ぇ!」

とナイフを手に踊りまくるオイラをRyuとChiggyが 風をおくってヘルプしてくれる。この友情の有難さ。 しかし、なぜ、オイラだけ虫に慕われるのか。。。

そして、ついに、おまちかねのディナーの始まりだ。 なんと、前菜は、野菜タップリのサーモン手巻き寿司! 自分でまく寿司パーティのことを先日話したのを 覚えていてくれたスーザンの粋な計らいだ。 美味しくてバクバクたべていたら、

「まだまだあるから、食べ過ぎないで!」

とスーザンに笑われた。 焼きウドンに、サーモンのテリヤキステーキ。 有機野菜たちの美味しいこと。

窓の外には真っ赤に染まる夕焼け雲。 三つ網ひげのゴエスおじさんの奏でる ギターの調べ。なんとCDも出しているとのこと。

バンクーバーからきている富豪の夫妻も 盛り上がっていた。

素敵な時間が終了し、お礼にと日本のコーラスと ハーモニカを演奏。

実は夕方の航海の途中、フネを並べて、風と潮に 流されながら、唱歌の「ふるさと」と 童謡の「海」のコーラスの練習をしたのだ。

Chiggyのソプラノ独唱から入って、間奏でオイラのハープ。 Ryuのテノールものってきた。

「志を果たして、  いつの日にか帰らん。  山は青き故郷。  水は清き故郷。」

蝋燭を灯した小屋の中。 みんなの顔が残照と炎で、赤く照らされていた。

ゴエスさんとスーザンが、薪でお湯をわかして シャワーを僕らにプレゼント。 きれいになって、すやすや眠りに落ちた。