七
月明かりだけが差し込む牢の壁に、ゆらりと影が揺れる。
ユンガーは閉じていた瞳を上げ、見開いた。
「――ああ、来てくれたのか」
きりきりと歯車の回る音が、石の壁に微かに跳ね返る。
白い手がユンガーの首に伸びた。人形の無機質な瞳は、ユンガーの姿をただ映している。
永遠に感情を映す事の無い、硝子玉の瞳。
「――あの時私も、君と一緒に行くべきだったのか……」
人形は答えない。
これまで、本当には一度たりとも、ユンガーの言葉に答えた事は無かった。
「行こう――」
人形の腕に力が篭ったのは、一瞬だけだ。
ユンガーは呻き声すら上げず、糸の切れた人形のように倒れた。
人形はユンガーの傍に座ると、彼の身体の上に覆いかぶさった。
そして、全く動かなくなった。
|