夜が明け、空は次第に白み始めた。 太陽の姿はミストラ山脈の尾根に隠され、アリヤタの村があった斜面の中腹には陽光は当たらない。 中天までは背後の尾根が陽を遮り、西に僅かに傾けば、目の前に聳える深い谷が、落ちていく陽すら奪ってしまう。 急峻な岩壁が連なり、ろくな作物は育たず、村へ下る谷の道は行き来する事も容易ではない。 その地をすら手放し、生き残ったアリヤタ族達は暁の光を避けるように、更に山脈の奥へと姿を消した。 だが、その先には生きる事すら難しい、今よりももっと過酷な地があるだけだ。 アリヤタ族の姿が朝靄の立ち込める木々の奥に消えた後も、レオアリスは一言も発しないまま、燻り続ける灰から立ち昇る細い煙を眺めていた。 昨夜の力の暴走は既にその上には形を止めていない。だが、普段の姿からは想像も付かない、他を寄せ付けない固い空気がその身の周りを包んでいた。 ロットバルトは暫らく離れた場所でその姿を眺めていたが、軽く息を吐いて歩み寄った。 そろそろ現場の後処理も終わる。近付いてレオアリスの横顔に視線を注いだ。 予想に反して、その上にあるのは、悲しみでも、後悔でも、憎しみでもない。 だがそれら全てを確かに含みながら、そこにあるもの。 「――怒って、おられるのですか」 ロットバルトの問い掛けに、レオアリスは驚いたように瞳を上げた。今初めて、自分の感情に名前を付けられたかのように。 僅かに考え込んだ後、再び視線を森に向ける。 「――判らない。……いや、そうだな。俺は、怒ってる。でも――」 消されていく種族の火。 貧困に根差した絶えない苦しみと、それを食い物にする欲。 無知、傍観、様々な要素。 既に失われた――取り戻せないもの。 「何に対して怒ればいいのか、判らないな……」 |